55 レベルアップ〜『安寧の地』レベル6
《レベルアップ!『安寧の地』レベルが6になりました。『ログハウス』に『2階部分』が追加されます。『電気機能』が開放されました。『照明』『洗濯機』『冷蔵庫』『オーブン』が追加されます。『風呂場(中)』が『風呂場(大)』になりました》
────いや、え? 聞き間違いかな……?
洗濯機に、冷蔵庫……とか、聞こえたような……
ゴゴゴ……と、いつもはしない大きな音がして、ログハウスが振動した。
「ゆれてるよぉ、姉さまぁ」
ウィルが泣き出した。
読んでた絵本をほっぽりだして、私に抱きつく。
震度1くらいの揺れだから、地震大国日本を知ってる私にはどうってことないけど、ウィルはかなり怖がっていた。この大陸に地震はないから、地揺れは初めての体験なのだ。
「大丈夫。これは姉さまの『スキル』でお部屋が変わる音だからね」
ウィルをあやしているうちに、揺れは10秒ほどで収まった。
「どこが変わったか、探検してみよっか」
そう提案すると、ウィルは途端に目を輝かせて「うん!」と元気よく答えた。
うふふ、切り替え早い。かわゆいなぁ。
居間に出てすぐ変化が目についた。
玄関口から上に伸びる、木製のらせん階段。
部屋の中央には垂れ下がるチューリップ型のガラス『照明』。
壁に出現したスイッチっを押すと、電気が切り替わった。
私はびっくりして、声が出せなかった。
これ、このらせん階段も、チューリップ型の『照明』も、見覚えがある。
日本での私の実家にあるものと、そっくりだ。
はしゃぐウィルが階段を駆け上がって行った。
「姉さま、おへやがふたつあるよ!」
『2階部分』には部屋が2つ。
2階にのぼってみて、私の心はやっと落ち着いた。
ふっと、笑いがこみ上げてくる。
一瞬、実家に帰ってきたんじゃないかと、本気で錯覚してた。
でも、二階は、実家とは構造が違う。実家は、一階がレストランで、二階が居住スペース。二階の部屋は3部屋で、中央にはリビングがあった……ような。
らせん階段と『照明』、あれは私が気に入ってたものだから、スキルが作り出してくれたんだ。
らせん階段に座り、オレンジ色の『照明』で本を読むのが前世の私のお気に入りだった。
スキル『安寧の地』はやっぱり、私の『安寧』のイメージによせて、ログハウスを進化させてる。
「姉さまたのしいね~!」
きゃっきゃと走り回るウィル。
いまの私は、もう日本に帰りたいなんてこれっぽっちも思っていない。
そりゃあ、昔の家族に会えないのは寂しいけど、ウィルとハティとイヴ、いまの家族が、大好きだから。ここでずっといっしょにいたいと思う。
一階におりて、『キッチン』へ向かった。
前回のレベルアップで『キッチン(中)』から『キッチン(大)』になった広々とした空間には、いくつか余分に思えるスペースがあった。
たとえば、本来ならここに冷蔵庫を置くのかなぁ、っていう空きスペースとか。
その空きスペースに、いま、『冷蔵庫』が鎮座してる。
両扉式で、私の背より大きい。
そして、大理石の調理台の隅には『オーブン』が………
《『電気機能』が開放されました》って言ってたよね。てことは『照明』も『冷蔵庫』も『オーブン』も"電気"で動いてるんだろうけど。
ソーラー発電?
とにかく、仕組みはわからないけど、どれもこの世界ではオーバーテクノロジーだ。どう考えても。
どこまでいくんだ、スキル『安寧の地』!
もう十分すぎるほどの快適なお家だよ! ここまで来ると怖いよ! いや、助かるけどさ。
どんどん住みやすいように変わっていくんだよなぁ。
もうこの場所から動いて他の土地に行こうなんて気が起きなくなるよ。
そう、このスキル『安寧の地』で作られた『ログハウス』と『ドーム』は、移動不可能なのだ。
スキル『安寧の地』自体に、そういう機能がついていないし、まるごと『収納』できないかな? って試してみたけど、それもだめだった。
スキルの意志で、私をこの場所に止めようとしている気がしてならない。
『風呂場(中)』から『風呂場(大)』に変わったお風呂場も覗いてみた。
広々とした脱衣所に、洗面台ができていた。これまでなかった鏡も出現してる。
久々に、ちゃんとした鏡で自分の顔を見た。相変わらず、ハッとするほどの美少女。くりっくりの黒目が驚いたように丸くなってる。
胸がぱっつぱつになってるワンピースを客観的に見て、これはやばいと思った。けしからんすぎる。
『洗濯機』を見つけた。ドラム式の、私が知る中では一番最新っぽいデザインのものだ。洗濯から乾燥まで一気にできちゃうやつ。
曇りガラスの扉を開けてまたびっくり。
めちゃくちゃ広くなってる………
もはや、旅館のお風呂だよ。
5人くらいいっしょに入れるんじゃないかって大きさの四角い湯船と、広々とした洗い場。
湯船は木製で、この匂いはヒノキかな? ヒノキ風呂! 贅沢。
この広さなら、ハティといっしょでも伸び伸びと入れるね!
───いや、いまのハティは人間の姿になれるし、広くなくても問題ないか。
そ、それに、い、いっしょにとか、駄目だし……!
ふと目に入った鏡、そこに映った私の顔はプチトマトみたいに真っ赤になっていた。
ふわっと温かい匂いがして振り向くと、ハティが私の腰を抱いている。
口の端をくっと引き上げて、一言。
「入るか? いっしょに」
「入りません!!!」
まったくもう。
ハティは私をからかってるのか、本気で言ってるのか、よくわかんない。どっちにしろ私はドキドキしちゃうし、理不尽だ。





