26 市場デートとお邪魔虫
「姉さま、つぎあっち!」
甘い匂いのする屋台に、ウィルが駆けていく。
銅貨を支払って、受け取ったメレンゲのお菓子をウィルに渡す。頬をリスみたいに膨らませてほおばるウィルが天使すぎて、にやにやしちゃう。
「おいしー!」
「美味しいね~」
でへぇ。可愛い。口の横に食べかすついてるよ。
「つぎあっちー!」
「うんうん、あれね」
あ、銅貨なくなった。金貨でいいですか?
焼き鳥店の店主に金貨を払うと、お釣りがないと迷惑がられてしまった。
「私が支払いを」
「へい、まいど!」
代わりにアロンが支払ってくれました。ウィルは焼き鳥の甘辛ダレに目をキラキラさせて感動してる。かわゆす。
「君たちって、いつもこんな感じなの?」
若干引かれてる気がするけど、別にいいもんね。私は生涯、ウィルに貢ぎまくるって決めてるんだ。
「次の取引きから、金貨の半分は銅貨と銀貨で払ってもらえます?」
「わかったけど……切り替え早いね」
「あなたのこと、ウィルが『いいひと』って言ってたので。もう警戒しなくてもいいかなって」
「弟の言うことは絶対なんだね」
「もちろん。ウィルは私の天使だから」
「ああ……そう……」
「ていうか、アロン、アーソロンさん? いつまでついてくるんですか」
商談が終わり、古民家を出てからもアロンはずっとついてくる。姉弟みずいらずの市場デートを邪魔するとは、許すまじ。
「アロンでいいよ。君があまりに非常識すぎて、心配だったからさ。変なことしないか見張っとこうかと思ってね。大切な取引き相手を失いたくないんだ」
そんなに危なっかしいのか?私。
だとしても、ずっと付きまとわれると困るんだけど。まさか、家まで付いてくるなんてこと、ないよね? たしかにアロンを信用するとは決めたけど、ハティたちのことや、森の拠点のことまでバラしたくはない。あそこは、私達だけの『安寧の地』だから。
「ところで、どうしてそんな真っ黒な恰好をしてるの? 顔を隠すのはわかるけど、黒なんて、逆に目立つよね」
「この服しか持ってないからですよ」
「ふーん……最初に君を見たとき、"未亡人"かなって思ったよ」
「未亡人!? 私、まだ14ですよ?」
「うん、声とか肌質からして若いなとは思ってたけど。早くに先立たれた夫を想って、いつも喪服で過ごしてるのかなって考えてたんだ」
「えぇ……」
「たぶん、皆そう思ってるとおもうよ。痛ましくて、だから誰も服装について触れないんだ」
なんということだ、まだ男の人と付き合ったこともないのに(悲しいことに前世を含めて)、未亡人とは。
まぁ、いっか。黒髪黒目がバレなければなんでも。
「お互いの素性も知れたことだけど、まだ素顔は見せてくれないのかな?」
好奇心に満ちた青い目が、私を覗き込んでくる。
この人は、私の素性を知っている。おそらく、私が黒髪黒目の変わった容姿をしていることも。わざわざ不吉な容姿を見たいなんて、変わってる。
「私達はビジネスパートナーで、あなたは珍しい薬草さえ手に入ればいい。そのはずでしょ?」
それ以上深く関わる必要はないし、関わりたくないでしょ? お互いに。
「あはは。そうだった」
そうだった、って。なんなんだ、この人。距離感がうまくつかめないな。
結局、アロンは食材の買い込みにまで付いてきて、あれやこれやと『常識』について説教してきた。ムカつくから、荷物持ちとしてたくさんこき使ってやりましたとも。『収納』があるのにって? 人前では使えないからさ。常識的にね。
心配していたように、村の外までアロンがついてくることはなかった。
これから先、薬草はすべてアロンに売る。その取り引きは週に一度、あの古民家で行うことに決まった。





