25 スキル『収納』の重要性
腹黒イケメンメガネの薬師、『アロン』によれば、私の薬草売買はかなり目立ってたって話だ。たった、昨日と今日の数時間の商売でも。
売ってた薬草がマズかった。エンゲル草(腰痛に効く)、リエール(二日酔いに効く)、アカタケ草(風邪薬)はまだよかった。
頭の欠損以外、すべての欠損を瞬時に治せるハイポーションの材料、『月草』を──アロンに言わせればゴミみたいな値段で──売ったのがいけなかった。
『月草』は滅多に見つからない伝説級の薬草。普通、田舎町の市場でお目にかかれるような品ではないのだ。まして、何度も言うけどゴミみたいな値段で売るような薬草じゃない!
──て、そんなの知らないよ! だって、図鑑を参考にしながら簡単に『創造』できちゃうんだもん!
とにかく、薬草の最初の提供者を探してるっていう貴族の目はアロンがうまく誤魔化してくれるそう。よかった。変に目をつけられて、目立つわけにはいかないからね。
それから私とアロンは膝を詰めて契約について話し合った。決定した内容は以下の通り。
★今後、私の薬草はすべてアロンに売る。
その代わり、アロンは、
①薬草を転売しない。提供者も秘密にする。
②私達の素性を秘密にする。
③私達の情報がコーネットに渡らないよう情報操作をする。
こちらは安全に金貨を得られ、さらに素性がバレないよう守ってももらえる。結果として、いい契約ができたと思う。
「よかったね!姉さま」
「うん!」
ウィルを信じてこの人についてきてよかったよ。
普通は初対面の人の言うことなんて信じられない。コーネットに追われている現状ならなおさらだ。私一人だったら、アロンの提案なんて聞かずにさっさと逃げ出してたと思う。ていうか実際、逃げようとした。ウィルに止められたけど。
アロンとの契約がここまでスムーズに運んだのは、ひとえにウィルのスキル『真実の目レベルMAX』のおかげ。
言うなれば嘘発見器のウィルがアロンを『見て』信用できると判断した。だから、私も信じられた。
「さっそくだけど、君がいま持ってる薬草はどれくらいあるのかな? ぜんぶ出してくれる?」
100束ずどーん、とテーブルの上に出してやろうとも思ったけど、全部は乗らないね。
とりあえず、『月草』を含め色んな種類の薬草を『収納』から30束ほど取り出す。
どうだい、うちの薬草たちは。どれも今朝『創造』したばかりの新鮮なものだよ!
アロンは唖然としてる。
そうだろう、そうだろう、驚くべき種類の豊富さと鮮度だろう?
「………君、こんなに大量の薬草を、いまどこから出したの?」
「え? 『収納』からですけど?」
「はぁ─────君ってホント、非常識だな」
ねぇ、とアロンが睨んでくる。なんだろう、さっきまではまだ優しい雰囲気だった気がするのに。この変わりようったら………めちゃめちゃ怖いんですけど。
思わず隣に座るウィルに助けを求める。なんと、いい子いい子してくれました。思わぬご褒美!
「君が言った『収納』、それは君の『称号』だね?」
『称号』か。正しくは『スキル』だけど。って言っても、この人には理解できないか。
せこい教会のやり口と『スキル』の秘密は、『鑑定』を持つ者にしか見抜けない。
「『収納』は200年前、『勇者』の称号だったとされているのは、もちろん君も知っているよね?」
いや、知らないけど。とは言わない。なんだかこの人、目が怖いから……
しかし、勇者か。
暇な時間に面白おかしく読んでいた『勇者伝説』の本の内容を思い出した。
かつて魔王を倒したとされる『勇者』には謎が多い。性別も容姿も能力も現代まで正確には伝わっていなくて、様々な説がとなえられている。その中でも最大の謎は『魔王を倒した後の勇者の行方』。不思議なことに、分かんないらしいんだよね。
「かの『勇者』の他に『収納』の称号を取得した者がいるなど、私はこれまで一度も聞いたことがない。君がはじめてだよ」
「へー。じゃあ、いま『収納』を持ってるのは世界で私一人だけかもしれませんね」
冗談っぽく言ったのに、アロンはまったく笑ってない。
え、まじ……?
この警戒心の無さは無知ゆえか、なんてアロンは深くため息をついてる。
「その力を、人前でみだりに行使しないほうがいい。"悪い人間"につけこまれるよ」
「ひゃ、ひゃい」
なんか圧がすごいんですけどぉ……!
「これを」
アロンがずっしりした袋をよこす。中身はたくさんの金貨だ。
「うぇ!? こんなにもらえません!!」
「これが君の薬草に対する、正当な対価です」
「えー、でも、相場は……」
「だから、買い叩かれてたんだって教えたろ? これが正当な値段なの。わかった?」
「は、はい……」
巾着袋は手に沈む重さだ。す、すごい……
これでウィルにたくさん美味しいものを食べさせてあげられる!
意地悪な兄弟たちが自慢するように食べてた、だけど私達は決して口にできなかった高級菓子だって、買える。
「ありがとう、アロン」
お礼を言ったのはウィルだ。にこっと笑うウィルはどこか大人びて見えた。ほんの、一瞬だけど。
「君も何か、特別な『称号』を持っていそうだね。とても気になるよ。いつか教えてくれるのかな?」
あいまいに笑うウィルの瞳には何が見えてるんだろう。どこまで───スキル『真実の目レベルMAX』は何でも見通せる、イヴは冗談っぽく言っていたけれど、まさか、未来まで見通せるなんてことはないよね?





