27 みんなでゆっくり
カーテンを開けると、ガラス窓から朝の眩しい光が入ってくる。ベッドで眠るウィルが顔をしかめて、体に巻きつけた布団の中にもぐっていく。ふふ、ミノムシみたい。
イヴはソファで寝てる。コーネット産の高級ソファは彼女のお気に入りで、朝から晩までほとんどソファでごろごろしてる。食べたいだけ食べて、そのまま寝落ちするのが毎日のお決まりのパターン。
もうさ、そろそろ駄女神認定していいよね?
「いい天気だなぁ」
私の心もこの空に負けず劣らずすっきり晴れている。
アロンに正体がバレた時にはどうなることかと思ったけど、結果として強力な味方を得ることができた。そのおかげで、心に少しだけ余裕ができた気がする。
★今後、私の薬草はすべてアロンに売る。その代わり、アロンは、
①薬草を転売しない。提供者も秘密にする。
②私達の素性を秘密にする。
③私達の情報がコーネットに渡らないよう情報操作をする。
アロンと交わした契約の件、過保護な神様ズは心配するかなと思ったけど………
『ウィルくんが『真実の目』で見て、信用できると判断した相手との契約なら、いいと思うわ』
自分が授けた『スキル』に絶対の自信を持っているのだろう。イヴはすぐに納得した。
ハティも、気は進まないみたいだけど、一応納得してた。まぁ、何かあっても俺が守れるしっていうかんじ。
というわけで、これからはアロンとも週に一回の薬草取り引きを通じて付き合っていくことになるのだけど、よく考えれば、アロンってすごく──言い方は悪いけど──便利だと思う。
薬草を売るだけで、私達を守ってくれるし、この世界の常識とやらも(キレながらだけど)教えてくれる。
アロンはお望みの薬草を手に入れるために私を利用しようとしてるけど、私もこの『安寧の地』での平穏な生活を守るためにアロンを利用する。
もしアロンに善意だけで手を差し伸べられてたら信用できなかったけど、私達は利害で強く繋がってる。お互いに利があるうちは裏切らない。そういう冷めた契約だから、安心できる。
それにしても、追手はいつになったら私達を探すのを諦めてくれるだろう。
アロンによると、夫になるはずだったボルドー侯爵は私を血眼になって探しているって話だ。どうして、私にそこまで執着するのかな。会ったこともないのに。お望みの"変わった子"なら、ほかにもいるでしょう。早く諦めてくれないかなぁ。
侯爵の手前、コーネットの両親も私を探し続けないといけないんだろうな。たとえ彼らにとって、私がいらぬ子でもね。
いまのところ、この辺りにはまだコーネットの捜索の手は及んでいないみたいだし、私達の居場所がバレないようにアロンが情報操作をしてくれる。
大丈夫、私達は見つからない。
「早いな、ララ」
のっそりと、ハティが私の背にすり寄る。
寝起きだからか、重低音のいい声がかすれてる。
「おはよう、ハティ。ごめんね、町までの送り迎えが続いて、ハティも疲れたでしょ。今日はみんなでゆっくりしようね」
「『体力∞』のスキルをやったのが俺だと忘れたのか? 俺は疲れなど知らん」
耳の後ろを掻いてあげると、ハティは気持ち良さそうに目を細める。半開きの口から、長い舌が垂れ下がる。ふふ、だらしない顔。
「お礼に、何か美味しいものを作るね。何が食べたい?」
「それだと、ララがゆっくりできない」
「料理は好きだから、苦にならないの。これもゆっくり過ごす内だよ」
「そうか……ならば、『マンゴー』が食べたい」
「えー、そんなの今10秒で出せちゃうじゃん。もっとほかに! 昔食べたこんなやつ、とかないの?」
「うぅ……とは言っても、俺はそんなに多くの料理を知らん。強いて言えば、甘い物が食べたい……と、思う……」
ハティってば、強面な見かけによらず甘党なんだよね。たぶん、自分でも似合わないって自覚してるんだと思う。ちょっと恥ずかしそうに言うところがまた可愛い。
「ふむふむ、いいこと思いついたよ! それなら、フルーツパフェを作ろう!」
「ふるーつぱふぇ?」
「すごーく甘い幸せのデザートだよ! 朝ごはんには流石に重いから、おやつに作るね」
「ああ。楽しみにしている」
にぃ、と口角を上げ、ハティはあの特徴的な笑顔を見せた。
ログハウスの前に作った簡易キッチンでベーコンと卵を焼いていると、ウィルとイヴが起きてきた。
「姉さま、おはよう」
「おはよう、ララちゃん。今日の朝ごはんは何かな~?」
今日の朝ごはんは、以下の通り。
・カリカリベーコン
・目玉焼き
・柔らかい白パン
・サラダ
・玉ねぎのスープ
ベーコンと卵とパンは市場で購入したもの。サラダに使うべビーリーフとレタスと水菜、それから玉ねぎは『植物創造レベルMAX』で出した日本産の美味しい品種のものだ。
ログハウスの中にある二人用テーブルでは小さいから、大きなテーブルを庭に出して、そこで食事を取っている。
テーブルも、クロスも、食器も、食卓を彩る花瓶も、ぜーんぶコーネットの屋敷で『収納』してきたものだ。売るつもりだったんだけど、まさか、こうして自分が使うことになるとは。
ありがとう、お父様、お母様。おかげですごく助かってます!
初代様の箱は鍵をかけてそのまま聖堂に置いてきたから、誰も中身が消えたことに気づかない。そもそも、中身が『収納』と『鑑定』のスキルだと、コーネットの人間は誰も知らなかった。だから、私が『収納』と『鑑定』を持って逃げ出したことは、知られようもない。
屋敷から消えたいくつもの品について、家族がどんな想像を巡らせているか気になるところだ。
「たまねぎ、すごくあまーい!」
玉ねぎが苦手なウィルでも食べられるように、甘い品種を出したんだよ。
「はぅぅ、野菜がこんなに美味しいなんて……」
サラダをほおばりながらむせび泣くイヴ。
迷惑そうにイヴを見ながら、ハティは大皿のスープに舌鼓を打っている。
コーネットから逃げ出すことを決意し、ウィルも一緒に逃げることになって、ハティと再会して、イヴが仲間になって。
なんだか、随分賑やかになったなぁ。
シャキシャキのサラダを、私もほおばる。
レモンと塩とベーコンの油だけで味をつけたサラダは、野菜の新鮮さのおかげで十分美味しいけれど、ちょっと物足りない感じがする。
オリーブオイルがあればよかったんだけどな。
市場で見てみたけど、動物性の油しか売っていなかったんだよね。
あ、そうだ!
自分で作っちゃえばいいんだ!





