シャイレンドルの闇 5
たどり着いた最深部は白の世界だった。目が痛くなるほどの光。思わず手でかばって閉じた目を次に開いた時、その白さの向こうに人影が見えた。
ふわふわと頼りない地面に足を取られながら駆け寄る。白い霧の向こうから見慣れた金髪が見えた。
長く波打った金髪を振りまいて、男が一人、倒れている。
飛び跳ねた心臓を押さえつけ、歩み寄るとそこに転がっていたのは確かに探してきた相棒だった。安らかに倒れた顔は、まるで眠っているようにみえる。だが、組み合わされた腕の下にある胸は、上下している様子はなかった。
恐る恐る手を当ててみる。
反応がなかったことにうろたえて耳をつけてみても、心臓はコトリとも音を立てない。
指を組み、安らかに微笑んで、いつの間にか衣服まで真っ白に戻っている。それがまるで死に装束に見えた。
こいつは、自分の記憶に耐えかねて、自分で自分を葬ってしまったのだ。
「……シャイレンドル」
思わず漏れた自分の声があまりにも抜け殻のようだったことに、自分で驚く。
「……おい、嘘だろう……おい!」
手が勝手に相手をつかみあげ、揺さぶっているのを他人事のように感じる。
心理の呪縛を抜けて、倒れているシャイレンドルを見た時から……そしてそのシャイレンドルを呼び戻すために禁を犯してその心の中に飛び込んだ時から、何が起ころうと覚悟していたはずだった。失敗してもろともに自分が死ぬことも覚悟の上だった。そして、シャイレンドルの中に自分への軽蔑を発見して……彼を死よりも遠く失うことすら、半ば覚悟してきたのだ。
――だが。
「これはないだろう、シャイレンドル。これはあんまりだぞ!」
奴自身が己を放棄して葬ってしまっていることだけは考えなかった。そこまで手ひどく自分を裏切ることがあろうとは、想像だにしていなかった。
これでは泣くに泣けないではないか。シャイレンドル本人に対してどう戦いようがあるというのだ。
他の誰が敵でも、戦って取り戻すつもりだった。だが、死こそが本人の願いならば、どうできるというのだろう。
「シャイレンドル、何とか言え! 死ぬなら一言ぐらい弁解してからにしろ……ぉ」
手荒に揺さぶった手の中で、あまりに無抵抗に揺れる相棒の首を自分がへし折ってしまいそうで、半ば無意識に揺さぶっていた手を止める。
「……諦めがよすぎるぞ、おまえ。そんな、安らかな顔しやがって……!」
手の中で、何の反応もない体はただ従順に滑り落ち、いささか歪んで地面に再び横たわる。シャイレンドルの心の中では本物のその死体は、たしかに現実の重さと冷たさを持っていた。
「現実」でももうすぐこうなるのだ。
死者の沈黙。生きている者が何を訴えても、死んだ者には届かない。それを包む真っ白の空間はさながら白い闇だった。
ユレイオンの沈黙が、すなわちその場の沈黙だった。
死者は語らない。
彼は重い徒労を感じた。両肩にのしかかり、押しつぶしていく深い徒労感。それは眠りに似ている。氷の沈黙。体の芯から凍えていくような、真冬の沈黙……。




