シャイレンドルの闇 3
膨大な量の記憶の中を進むのは半ば落下に近い。深い水底に飛び込んで、延々と潜っていく感覚。周囲を光景が流れていく。音もない絵だけが飛ぶように過ぎていくところから見て、求めるものはここにないのだろう。
できるだけ周囲は見ずにただ底を目指してユレイオンは潜っていった。関係のないところで時間を食っている暇はない。それに、必要がない限り相棒の記憶など見たくなかった。……たとえ、すでに自分の中に自分と彼の記憶が混在していようとも。
長い時間だった。
それとも自分が長く感じただけなのか、どこまでも続く螺旋。自分が上っているのか下っているのか、それもわからなくなるほどの時間。ただ、前に進むことだけを思い描きながら……。
正しい目的地へ、相棒のいるところへ向かっているのかさえ定かではなかったが、時折目に入る相棒の姿が若くなっているのは確かだ。
――あいつはこんな遠くまで来たのか……?
次第に辺りを流れるものが、重く、ねっとりと粘りを帯びてくる。体が重い。目的地へは自分の勘を頼る他はないのだとわかっていても不安になる。その不安を振り切るようにことさら前だけを目指した。
……と、目の前に突然壁が出現した。
扉だった。
この場にそぐわない、鉄製の無骨な扉。ご丁寧にも頑丈に鎖がかけられ、錠がおろされている。
だが、その鍵は不自然な力で引きちぎられ、ぶら下がっていた。
「……この中か?」
シャイレンドルはこの扉の向こうにいるのだろうか。
扉が行く手を阻んでいる以上、この先は相棒が触れたくない記憶。だが、その鍵が壊れているということは、相棒はその向こうだ。
仕方なくユレイオンは扉を開けた。




