第131話 知らないよ、そんな作曲家集団
VVVアメリカ支社のお祖母ちゃんことレイチェルさんの退院に合わせた退院おめでとうパーティー配信は、瞬く間に世界中を駆け巡った。この配信によって1年間研ぎ澄ませていたVVV3期生、そして桃源郷ろくこと偶然の産物とはいえVVVに取り込めた天使の歌声を持つ少女、ケシー。そして60年もの間世に出る事が無かった天才ピアニストお祖母ちゃんが世界にその存在を知らしめることとなり、この光景を見たくてずっと画策していた『マネージャー』の奴は大歓喜。あと何故かアホ毛が生えたりと激動のパーティー配信から1週間がたち、俺たちの生活は日常へと戻る……
なんて訳もなく。
『ひぃん! ひぃん! ニューヨークの大手音楽会社からお話がきてるんですけどぉ! 今日だけでもう5件目ですぅ!』
「あ、そうなんだ。うちは現在、提携会社を増やすつもりはありませんってお返事しといてね」
『なんでぇぇ!! ひばりちゃんのらくちんおきらくごくらく給料ドロボー生活がぁ! 社畜のように働かされる不条理! 降りかかる責任! のしかかる残業! こんなやりたくない事ばっかの世の中じゃ!!』
大きな話題になるという事は当然、こういう事でもある。特にケシーとろっこの二人はもう脂の乗り切った特上のトロみたいなもんだから、食通よりもなお度し難い音楽通共に早速目を付けられたようだ。どいつもこいつも聞いてくることはこの二人の楽曲はいつ、どこで出すのかだろう。狙ってやっていたなんだが分かりやすい入れ食いである。
「あのぉ、社長。うちの古巣からも二人のデビュー曲がいつになるか聞いてくれって言われてて……ホログのメンバーも被らせたくないって結構聞かれてるみたいでぇ」
「ああ、そういうルートで聞かれる事もあるのか」
はちじくじから移ってきた社員の一人が気まずそうにそう口にすると、他のVS社員もうんうんと頷いてこっちの様子を見るように眺めてくる。彼らにとっては桃源郷ろくことケシーとかいう特大の競争相手が爆誕したわけだから、そういう反応になるのもまぁ分かるっちゃ分かる。特にホログライブさんはアイドル売りの事務所だからモロだし。ただろっこちゃんはデビュー自体は1年前だし今更かよ危機感ねぇなぁ、とも思うけどね。一部のファンは桃源郷ろくこの歌唱力と演奏が化け物染みているのに気付いてたんだけどなぁ。
そういう所謂古参のファンとかはSNSなんかで桃源郷ろくこがついに発見された、と大盛り上がりみたいだ。彼らがわざわざ用意してくれた過去のろっこちゃんの切り抜き動画とかも軒並み再生数を稼ぎ始めているようだし、ファンへの還元って意味でも本当に最初期から応援してくれてる人は公式切り抜き師とか認定してあげた方がいいかもしれない。
「ろっこちゃんとケシーのデビュー曲自体はもう用意してるけど、その前にVVV全体のテーマソングを発表してそれからソロ曲を出したいVVV所属Vタレがソロで出していく予定。デビュー順で出していくからアメリカ勢は10月末になるかな。その近隣で楽曲発表する人が居たら残念って伝えといてね。全楽曲バリバリ力入れたから今年の秋はVVVが音楽シーンをかっさらうよ」
「あー、マジかー! ポン子さん残念!」
「うわ、番長もろ被りだー。可哀そうに連絡してあげようっと♪」
「え、あれ。10月いっぱい逃げ場なし……!?」
「ホログさんとはちくじさんに伝えるのは良いけど、そこから他に漏らさないでって言っといてね」
「「「はーい!」」」
「あ、あの。社長、私、10月にソロ曲出す予定で組んでて、あの。MVとかも大分力入れてて」
「そっちが良ければVVV公式にはVSからも曲出しますって宣伝しとこうか。VVV公式・3期生・アメリカ組・VSって順番で発表すれば相乗効果が見込めるでしょ」
「はぁい……あ、あの子の後かぁ……いや、前の方がもっと悲惨だけど……!」
若干一名、うちの社員にも被害が出ているようだが事前に教えてあるんだからなんとか頑張って対処して欲しい。というかろっこちゃんとケシーのダブル核爆弾にも対抗できるように実力を上げていく! 位の気概を見せて欲しいと思うのは求めすぎ……なのかなぁ。
まぁ、天才に対抗するってのは中々気構えが必要だし無理強いするようなものでもないか。ともあれVVVは設立1周年と半分くらいで初めてVVVを象徴する楽曲の作成を行い、1週間ほどで全体曲を完成させた。早いと感じるかもしれないが3期生が加入した時から用意してたものだから、実質1年も製作期間があったからね。レコーディング以外は全部終わってたしそりゃ爆速で終わるって。
「レコーディングなんて初めてしたけど、結構簡単に終わったわねぇ」
「ボイトレの方が難しかったですね!」
VVVの全体曲、つまり会社を象徴する楽曲の名称は“ぶいすりー”。VVVではなく俗称のひらがな読みで“ぶいすりー”だ。“A virtual voice comes to visit”では長すぎるし、VVVじゃいつも通り過ぎる。悩みに悩んで結局決まらず、じゃあひらがなでいっか、という事で決まったのがこのネーミングだ。
ネーミングは小学生でも考えられそうな単純な代物だが、内容はガチもガチ。1年かけて『マネージャー』が作り上げた楽曲はそのままアニメの主題歌にされてもおかしくないクオリティで、それらを1年以上基礎トレを詰み続けていたアキコさんを始めとしたVVVのメンバーが合唱スタイルでうたい上げた“ぶいすりー”は配信されたその日に100万回再生を突破。恐らくこの調子なら1週間もしないうちに1000万に届きそうな速度で再生数を稼ぎまくっている。
そしてこれに続く形でアキコさんを筆頭にVVVのVタレ達が一斉にソロ曲を発表していくと、SNSのトレンドは連日VVVで埋め尽くされる事となる。10月末にようやく発声装置の問題が解決したヴァーイの楽曲が配信されるまでの間、VSを含めたVVV関係のVタレが発表した楽曲は30。VVV所属のVタレは鹿谷くんなどの男性Vタレも含めて全員が楽曲を発表し、更に3期生に至ってはVVVガールズバンドとしてソロ曲以外にも数本楽曲を発表しており、これら全ての作詞作曲は『マネージャー』の名義で行われている。
うん、言いたい事は分かる。1年の期間があったとはいえ、一人で30曲も一線級の歌を『マネージャー』の奴は作り上げたのだ。控えめに言って化け物である。あ、いや。一応『さやか』や『あきら』は自身が出る作品のOPかEDを歌わせてるから実質はもう少し減るか。それでも20数本は完成してあるんだからやっぱり化け物だろう。
この謎の『マネージャー』とかいう化け物の存在に界隈が色めき立つ中、刺激を受けたらしい桃源郷ろくここと百山さんは早速自分で作曲をやり始めたそうだ。ケシーとかいうライバルが登場したのもあり、百山さんの自己研鑽が留まるところを知らない。彼女が動くとほかの3期生のやる気スイッチも入るから非常に良い流れと言えるだろう。アメリカのケシーも百山さんを意識してかボーカルだけじゃなく歌や音楽に付いての勉強も始めているそうだし、相乗効果が止まらない。
後は、他社さんからの引き抜きが激しくなってる事だけが面倒といえば面倒か。『マネージャー』とかいう作曲家集団を紹介して欲しいって申し込みが後を絶たないんだよね。知らないよ、そんな作曲家集団。
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