第129話 なんかアホ毛が生えた。
なんかアホ毛が生えた。
うん、分かる。ろっこちゃんとケイトが全力で互いの歌をぶつけ合う熱い演奏バトルの最中に何言ってんだこいつって思うよな。でもマジなんだよ。なんかうきうきする『マネージャー』に体の操作を預けてたらいきなりアホ毛が生えたんだよ。
しかもこれ、見覚えがある。どう考えても『マネージャー』のアホ毛である。今まで『マネージャー』をレンタルしつづけていても生えてこなかったアホ毛が、いきなり生えてきたのだ。ケイトとろっこちゃんの歌を聞いてたら。
俺が何故驚愕しているか説明するのはちょっと難しいが、これを説明するにはプレミアムレンタル権者の中で『マネージャー』と『セシル』は特殊な立ち位置にある事から語らなければならない。他のプレミアムレンタル権者と違ってこの二人はプレミアムレンタル権を獲得して以降、常にレンタルし続けているのだ。
これは二人の特徴によるもので、彼らはプレミアムレンタルをしても姿が変わらず別人のプレミアムレンタル権を行使する事が出来る。
例えば『マネージャー』はそもそも原作上ではほとんど登場せず、専らクマのぬいぐるみに代弁させるキャラクターであり、作中で全身が出たのは最終回に後ろ姿だけと作品通して正体が明かされなかった人物である。プレミアムレンタルのほぼ唯一の弱点である姿が変わるという点に苦しんでいた俺は姿がないという特徴を踏まえて彼をレンタルし、その結果『マネージャー』をレンタルしても元の姿のままでだったため、それ以降『マネージャー』は常時プレミアムレンタルし続けている一人になった。
『セシル』の場合も似たような理由だ。俺がレンタルした『セシル・ファラウェイ』は『ドッペルゲンガー』というもう一人の自分を創り出す特殊能力の持ち主だったため、彼の『ドッペルゲンガー』によって『セシル』を創り出す事ももう一人の自分を創り出す事も出来るようになった。このおかげで俺は『セシル』に山里一也役をお願いして、別のプレミアムレンタル権を行使するという事が出来るようになったのだ。
この二人はプレミアムレンタル権を手に入れてからはずっとレンタルしっぱなし、使いっぱなしであり、どちらももう1年以上の付き合いになる。ある意味自分自身と言っても良いくらいだとは思っている。思っては、いたのだが。
――まさかまさかねぇ
ちょいちょいと頭に生えたアホ毛を手で弄ると、頭の中で『マネージャー』が照れたようなイメージを投げてくる。イメージだ。30過ぎの男が顔を赤らめて照れているイメージがぶん投げられたのだ。思わず頭の中で中指を立てて返答をしてしまうくらいには、その。気持ち悪かった。
アニメでは後ろ姿しか出ていないマネージャーだが、髪型は結構特徴がある。といってもショートヘアーに何故かアホ毛というものだが、このアホ毛がやたらと目立つというか自己主張が激しいのだ。感情の動きに合わせてガンガン動く。
どのくらいかというと、原作の第一話で宇多野りくはマネージャーと対面しているのだが、その際に終始このアホ毛に目を奪われたために結局作中で一度もマネージャーの顔が思い出せないなんて馬鹿な事になってたりするくらいには自己主張が激しい。
そのアホ毛が、俺の頭に生えている。まさかまさかの事態である。
『元々、髪型はマネージャーっぽくなってたんだろ? じゃあ問題ないんじゃないか?』
――いや、その通りなんだがこの前まではこうじゃなかっただろ? 急に生えてきたんだから流石に気になるって
今現在も『マネージャー』はレンタルしっぱなしだし多分解除したらこのアホ毛も消えるんだろうが、問題はそこじゃない。これまで通りじゃなくなっている点こそが問題なのだ。変化はこれで終わるのか、それともまだ先があるのか。そもそも何が原因なのかも分からないし、いきなり体がクマのぬいぐるみになったりする可能性だって否定できない。
『メンチ』が言うように気にしすぎかもしれないんだが、問題があった時に備えているかいないかでその後の対応は大きく変わると思うんだよな。ただ、そうは言っても『NEET NOW』ってアプリはこんだけ長く使ってても良く分からない所ばっかりであり、また分からない点をメッセージやヘルプで尋ねても返事はほとんど返ってこなかったりする。
俺の知り合いで一番機械に強い『あきら』だって『よくわかんにゃい! にゃーん!』って猫耳つけてメイドのコスプレしながら言ってたしね。なんでコスプレしてるのかと聞いたら蝶子ちゃんが学校の文化祭でコスプレメイド喫茶をやるから羨ましくて通販で買ったらしい。『あきら』が創った立体投射機は来ている衣服も3D化してくれるため視聴者にも中々好評だったから、アホ毛で悩んでいた俺を励ますために着てくれたそうだ。ありがたい。でもお前じゃ妹のコスプレ眺めてるような微笑ましい気持ちにしかならないんだ、すまんな。
まぁ、明らかにこのアプリ、科学とか超越したパゥワァ使ってるからな。そうするとおファンタジーな能力を駆使する『メンチ』や『リリーベル』、あと『残夢』あたりが専門かというとそうでもないらしく。明らかに超常現象染みた力と科学が融合した超高度な技術だそうだが、技術力が違いすぎてなんかすっごいとしか分からないんだそうな。
『……ねぇ。なんで私に聞かないの?』
――いや、なんとなく
『…………よし、やるか』
――バカ、よせ、やるかじゃない! 俺のベッドを二度と破壊するんじゃねぇぞ!!!
『ふんっ! 私が最初だったのに』
そう言って頭の中にむっすーとしたイメージを残して『さやか』は返事をしなくなった。あれ、もしかしてこれマジでなにか知ってるか……?
よく考えたら『さやか』は運営と喧嘩?するほど仲が良い間柄みたいだし、まぁうちのプレミアムレンタル権者の中で何か知ってるとしたらそりゃ『さやか』になるんだよな。普段の言動と行動のせいでこういう知識面で頼りにする場面が少なすぎるから、頭の中の選択肢から削除しちゃってたよ。
ま、まぁ脛を曲げた『さやか』は後でジャンボパフェジャンボで懐柔するとして、今の『さやか』の反応から考えるに恐らくこのアホ毛はそれほど危険なもんじゃなさそうだな。もしも『さやか』がこのアホ毛について何か知っているとして、それが危険なものだったら恐らくもう教えてくれてる筈だ。それが無かったって事は、そう危険な状況じゃないって事だろう。
あと、私が最初だったのにって捨て台詞も気になるな。レンタルをした順番になにか関係があるのか、ないのか。その辺も詳しく聞いておきたい事だが、それはそれとして、だ。
体の操作権を持った『マネージャー』が演奏に乱入したり暴れ散らかしてるんだが、これ無理やり体の操作権を取り戻して止めるべきかな。いや、テンション上がり過ぎてさっきから返事がないからさ。これ、アホ毛の影響じゃないよね? 今後ずっとこんなだったら流石にレンタルするの止めるぞ? 違うよね???
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