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ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→  作者: ぱちぱち


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第128話 番外編 3期生の不動さん

 VVV3期生・不動くさりこと安藤まいかがVタレを志したのは、ちょっとした好奇心からだった。


 数年前、ココロツナグの誕生によりVタレという存在が世に出た時。当時からヲタ活をしていたまいかが後学のために見た彼女の動画は、2Dの画面の向こうに居る筈の彼女が動き、喋り、ゲームをして、そして笑っている姿は、ある種の衝撃をまいかに与えた。3次元の壁を越えて向こうの世界がこちら側にやってきたような、そんな衝撃だった。


 凄いぞ、これ! 世界はここまで進化したのか!?


 今現在、VVVというとんでも企業の技術に比べれば、この当時のVタレの技術なんててんで笑える程度のものだった。だが、それでも数年前のあの頃。初めて見たココロツナグの姿は、そんな衝撃をまいかにぶちかました。


 この時の衝撃と衝動によって、まいかの心の中にヴァーチャルタレントという存在はどでかく、根深く巣食う事になる。ココロツナグの誕生からどんどん現れていった他のVタレを追いかけたり、自作の絵を使って自身も個人勢Vタレをやってみたり、活動的腐女子だった自身のバイタリティーの全てを駆使して安藤まいかは心の赴くままに高校生活という青春の黄金期間をネットの世界へと注ぎ込み続けた。


 そうして個人Vタレとして手探りで進んだまいかは、自分のマイノリティすぎる趣味を生かしたトークでそこそこ結果を出す事ができた。結果が出るという事は自身にもつながる。ホログライブ3期生の募集に応募したのも、自分がそこそこやれると自信があったからだろう。ものの見事に選考落ちしたのだが。


 これがかなりのショックだった。その後に「3期生は落ちたけど別枠で受かりまして」と口にする詐欺師の口車にのってよく考えず上京してしまうくらいにはショックだった。そして騙された結果、安藤まいかは不動くさりになったんだけれども。



 ~~~~♪



 でも、騙されたショックよりももっと大きな衝撃はこの娘と出会った時だったかな。父親から譲り受けたという古めかしいギターを弾く同期の姿に、小さく唇を嚙みしめる。


 桃源郷ろくこを初めて見た時。彼女がギターを爪弾き、歌を歌い始めた時。初めて見たココロツナグを超える衝撃が不動くさりを超えて、安藤まいかに襲い掛かった。歌うという事は、演奏するという事はこういう事なんだと。それまでカラオケの延長線上で遊んでいた私の内心を引っ叩き、力任せに顔を掴まれて「これが音楽だ!!!」と怒鳴り散らされたような気にすらなった。もちろんろっこちゃんはそんな事をしていないが、まぁ、比喩表現という奴だ。


 比べる事すら出来ないほどの差。それを感じ取った安藤まいかはマネージャーを名乗る先輩に相談した。その時の回答も、まぁ、衝撃的だった。



『それは仕方ない。ミュージシャンとしての力量が1から100までで表されるとしたら、ろっこはいずれ100に到達できる天才だからな。世の中のミュージシャンには2種類いて、いずれ100に到達できる天才とどれだけ頑張っても99にしかなれない凡才が居る。うちの会社で100になれるのはろっこだけだ』


「は、はぁ」



 衝撃的だった。思わず気の抜けたような返事を口にしてしまうほどには衝撃的だった。親身になってこちらの相談に乗ってくれたり、きつい言葉をかけながらも楽器の練習を手伝ってくれたり、どうやったら数字が取れるかと何くれとなく気にかけてくれている人。上京してからずっと世話になり続けた最も親しい異性の同僚。もしかしたら、少しだけ淡い思いを持っていたかもしれない相手の、1ミリもこちらの心労というか、安藤まいかに対しての気遣いが含まれていないその回答に心の中の何かが少し、軋むような音が聞こえた気がした。


 ただ、それから続く言葉があったから。


 不動くさりは今も、Vタレを続けている。



 ~~~~♪



 目の前で桃源郷ろくこが完ぺきな演奏を行っている。視界の端に表示されるコメント欄では海外のニキネキたちからの驚くようなコメントが流れるように表示されている。



コメ:(英語)おいおい、こいつらすげぇじゃん

コメ:(ロシア)楽器を初めて1年? 信じられない

コメ:ろっこの歌を聞いてると頭がぶん殴られるくらいの衝撃あるんだが俺だけか?

コメ:(英語)ろっこのシャウトがあるたびに背筋が震えてる

コメ:くさりのベース安定感やばすぎだろ。初めて1年でこれて

コメ:(英語)たべるのドラムもだ。これだけどっしりとした下地があるからろっことみつきが好き放題出来てる

コメ:(フランス語)キーボードも悪くないぞ。なんて名前だっけ?



 その中に、ちらりと自分の名前が見える。その度に、口元がにやけてしまうのを感じながら1年間。豆を潰しながら毎日演奏してきた相棒にピックを走らせる。


 頭の中でかつて。安藤まいかが絶望して不動くさりが希望を見出した、普段は厳しいけど時折ひどく愛らしくなるおバカな師匠の言葉がよみがえってくる。



『音楽は、エンターテイメントは、100の天才だけが勝つ場じゃない。100と99の違いなんて大衆にはわからないものさ。100人の前で天才と凡才が演奏をして、そのうちの99人はもしかしたら凡才の演奏の方が好きになるかもしれない。だから凡才は、天才に成れない俺達みたいな凡才は99を目指すんだ。ちょっと不利なくらいで諦められるような生半可な熱じゃないんだ』



 その言葉はもしかしたら、彼が自身に向けた言葉だったのかもしれない。だからこそ、不動くさりには余計に強く光り輝いて見えたのかもしれない。



『ろっこの音楽(アレ)は世界に届きうる武器だ。真っすぐ育てばあいつは来年の今頃、天下に殴り込むだけの力を持ってるだろう。それは他の3期生にはない武器で、だからこそそのろっこと同期という立ち位置はお前らにしかない、ろっこにすらない武器になる。俺はお前や、みつきやたべる。それに……ああ、クソ。泣かせるつもりはないんだけどな。お前らがろっこと同じやり方で頂点に立つことは出来ないが、頂点を目指すだけの力がお前らに無いわけじゃない』


『持ち味を持て。同期の才能を利用しろ。誰にも負けない一を手に入れろ。100の天才様に勝ち得る99の凡才になれ』


『それがきっと。お前がVタレとして頂点を目指すための、ただ一つの道になるはずだ』



 そう語った時の、全てを押し殺したかのような無表情の先輩の顔は、今もまいかの瞼に焼き付いている。困難が目の前に降りかかった時、心が落ち込んだ時、脳裏によみがえってくる。


 才能だとか、そんな言葉で諦めてしまうほど生半可な熱じゃないんだ。こちとら花の高校生活を棒に振り、大学も中退してこれ一本で勝負しようって腹積もりなんだから、やらないなんて選択肢は毛頭存在しないんだ。


 桃源郷ろくこの添え物でも良い。同期のお笑い枠でも良い。アキコさんにごまをすり、先輩方の肩を揉み、鬼のような練習で悲鳴を上げ、同期にハリセンでしばかれて。


 それでも、頂点を目指すと決めたんだから、やるんだ。


 ベースという楽器は、そんな自分によく合っている。縁の下の力持ち。いなくなったら困る奴。最初はそれで良い。暫くはそれで良い。桃源郷ろくことVVVガールズバンドのベース担当、それが今の自分の立ち位置で、まだ99どころか60にすら届いてない自分はここで力をつけなければいけないんだ。


 力をつけて、腕を磨いて、トークを磨いて、知識を蓄えて。



 ~~~~♪



 その先に、この背中があると信じてやり通す。


 それが、自分がVタレとして頂点に立つための唯一の道だと信じて。









「はい、VVVガールズバンドの皆さんありがとうございました。えーコメントの方でアンケートを取ったところ、途中で明らかに力んだというか前に出過ぎと苦情があった不動くさりさん」


「はぁい……」


「本来ならなにもなしとなりますが視聴者からピザの端っこの耳だけは食べさせてあげようとお慈悲がありました。おめでとうございます」


「ありがたくないれすぅ!! 頑張ったじゃないですかぁ! お慈悲ぃ!」


「はい、お慈悲ですね」


「先輩の鬼! 悪魔! 鹿先輩との総受本作ったの根に持ってるっすね!!?」


「おう、絶対許さねぇから」



 ニコニコと微笑み先輩の悪魔のような笑顔を見ながら、不動くさりはカメラに向かって祈るような姿勢で悲鳴を上げた。いやまぁ美味しいポジションなのは分かるけど、もうちょっとこう、手心というかないかなぁ?

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