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第11話 余すところなく使わないとな!

「はい、もっと足を上げてー」

「ふぐぎぎぎぎぎ!」

「大石さん、苦しそうにしない! 表情は笑顔。笑顔を基本にね。ほらにぱー」

「にににににぱー!!!」



 講師の方に足を持ち上げられたアキコさんは、まぁ、うん。大変そうだ。高校生の頃はテニスでそこそこ良い所まで行ったというアキコさんでもこれなんだから、体ってのは運動しなくなるとあっという間に訛るものなんだろう。幸いなことにアキコさん曰くうちの会社は副業オッケーなので、デリバリーの仕事は趣味として続けていこう。あと、ジムとかにも行った方がいいのかな。



「マネージャーさん、次はまた来週ですよね? 大石さんは基礎体力とかインナーマッスルとかが衰えちゃってるから毎日の柔軟は欠かさないよう見張っててくださいね」

「分かりました。しっかり監視しておきます。来週もよろしくお願いします」

「はい、お疲れさまでした」

「じゃあアキコさん。次はボイトレ行きますよ」

「はぇぇ……」



 ダンススクールの講師、山野さんにそう言われて頭をぺこりと下げる。本当にこの人にはお世話になってしまっている。本来はダンスの指導をお願いしていたのだが、自己申告よりも思った以上に動けなくなっていたアキコさんの状態を鑑みて彼女はまずは基礎からとトレーニング指導をしてくれているのだ。そのおかげか、アキコさんはトレーニングを初めてまだ2週間だが、目に見えて体の柔軟性や体力がついてきたのが分かる。


 まぁ、最初の内は筋肉痛で大変だったらしいが。プロポーションの維持のためにジムとかに通ってるって話だったんだが、メニューを聞いた山野さん曰く限定的なトレーニングが多いとの事だった。つまり、無駄が多かったわけだ。


 幸いなことに山野さんは基礎トレーニングの知識も豊富だった事から、現在は彼女観衆のトレーニングメニューをアキコさんは熟している。非常にキツイと毎日毎晩文句を言われているが、山野さんはどういった目的でこのトレーニングをやるかもきちんと言語化して説明してくれるためアキコさん自身もこのトレーニングを熟す事自体は必要だと認識しているから。まぁ、ようは愚痴だ。愚痴。


 愚痴を吐くってのはストレス解消に大きな効果がある。誰だって自分の中に貯めこむだけじゃいつか破裂しちまうものだからな。俺も、前の職場では毎日のように隣に居た竹永と延々愚痴り合っていたからその気持ちは分かる。でも、トレーニングの強度は変えない。これは必要なものだからだ。


 『電脳歌姫ろっくんろー』本編において宇多野りくから『鬼! 悪魔! マネージャー!』だの『鬼畜クマ畜生』だのと恐れおののかれていた片鱗が見えたかもしれないが、まぁ、うん。おっぱいおおきい女の人の色んな表情が楽しめたのは眼福だったよ?


 ああ、山野さんにはもちろん、通常の料金に色を付けて謝礼は払っている。プロの仕事にはプロの報酬を払わなければいけないからね。



「それでぇ……はぁはぁ……設備の方は……はぁ……どうなってるの?」

「田井中さん経由で隣の部屋を安く借りれましたんで、そちらを防音仕様に手直ししてる所です。反対側の部屋も確保したんで、後は上下の防音をなんとかすれば使えると思います」

「まぁ、あのマンション上下も人が入ってないんだけどねぇ!」

「悪評は中々消えませんからねぇ」



 元々事故物件として田井中さんが霊障を抑えていたマンションだ。数年間にわたる悪評のせいで住民はほとんどおらず、結果として今じゃ俺達しか住んでる住民は居ない。


 オーナーさんからはいっそこのマンション丸ごと買わないか? という打診も来てるらしいんだが、まぁ、その辺はアキコさん次第だな。


 さて、俺の中ではほぼ確定事項だったアキコさんのバーチャルタレント化計画は着々と進行している。元々こんな会社を作ろうとするくらいにアキコさんはVタレに興味を持っていたし、俺が提案して売り出し案を提示すると結構前のめりに会社の第一号タレントになる事を了承してくれた。



「それでガワはどうするの? 私SNSでフォローしてるこの絵師さんの絵柄が好みでこの人に依頼しよっか! あとはやっぱり名前よね。Vタレはやっぱ一発で記憶の深淵まで鷲掴みにする名前が必要で~」

「絵師さんはVモデル作成が出来るか聞かないといけませんし、名前はオーイシアキコでいきましょう」

「はえ?」



 などというやり取りをした後、アキコさんと小一時間ほどの格闘(意味浅)が起こったりもしたが最終的に『メンチ』を一日だけ呼び出してなんとかする(意味深)というやり取りの結果、準備期間3か月を経てアキコさんは無事にVタレとしてデビューする事になった。


 3か月も経ってるのでもちろん『電脳歌姫ろっくんろー』のレンタル期間は終わっている。じゃあ延長してるのかというともちろん、その通りではあるんだけれども、アキコさんたちの準備に関しては最初のレンタル期間に夜なべして作った予定表通りの行動だ。


 『電脳歌姫ろっくんろー』はその名の通り、電脳の歌姫に大舞台でロックを歌わせるという内容ではある。だが、そこに行くまでの過程が緻密に描かれている番組でもある。例を挙げるとシンデレラだろうか。かぼちゃの馬車を呼び出した魔法使いが言ってみればマネージャーであり、シンデレラである宇多野りくが舞踏会に出るまでが全13話中の12話まで。そして舞踏会本番が13話だと考えて欲しい。13話に関してはマネージャーは完全にただ送り出すだけの存在で、自分が育て上げたひな鳥が羽ばたくのを見送る親のような描写をされている。


 俺が『電脳歌姫ろっくんろー』をレンタルした理由もそこで、マネージャーと呼ばれる彼の育成能力を見込んでの事だった。事実、彼が一週間で作成した育成プログラムによってアキコさんのデビューをきっちり3か月で達成できた。これだけで、マネージャーの実力が分かるという者だ。


 もちろん、マネージャーの能力は育成だけではない。どれだけ能力を引き上げても、運が悪ければ埋もれてしまうのがネット社会。Vタレというものだ。その為の工作も、この3か月で行っていてそちらの結果も出てきている。


 そしてそれらの準備を経て今日、アキコさんは正式にデビューするわけだ。ひなちゃんの方はこれからデビューするアキコさん次第になるから、ここでしっかりと社長の威厳を見せて欲しい所だな。



「ほほほ本当にやるのね? 私がデビューしちゃうのね?」

「頑張ってください社長! 応援してます社長!」

「ででもね? 私、わたわた胸が、胸が凄いバックンバックンよ!? バックンバックン! これ避けるんじゃない? 私の胸からハートが外にダイブしちゃうんじゃない?」

「いつも通り大きい胸ですよ社長! ところでこれもう配信始まってます」

「はえ?」



 ちょっとしたトラブルはあったがアキコさんの初配信は無事に終わり、アキコさんは社長系Vタレという肩書でVVV第一号Vタレとしてデビューした。ちなみに名前が実名なのは普通に会社の登記簿に実名が乗ってるからだ。他のVタレは兎も角として、アキコさんは社長であることを前提にキャラクターを設計してある。これはまぁ、今後の企業運営を助けるためでもあるし、キャラクターへの味付け的な意味合いもある。味のしないキャラは流行らない。Vタレに求められているものは他とは違うという個性だ。


 初配信を見に来てくれた視聴者の数は20人ほど。これはかなり良い数字だ。企業勢とはいえ立ち上げたばかりの企業のVタレだからな。視聴者0人になってもおかしくはなかった。そうならないためにある程度事前に宣伝工作というか、SNSで公式アカウントを作ったり、キャラデザをお願いした絵師さんの宣伝なども頂いた結果だろう。


 初配信はもちろんアーカイブを残し、SNSの方で宣伝しなければいけない。むしろここからが、俺にとっての本番と言っていいだろう。


 『NEET NOW』アプリを起動し、プレミアムレンタル権の行使を選択。『電脳歌姫ろっくんろー』は、一日レンタルで3万円。非常に高い。高いが、これはプロの仕事であるからだ。


 躊躇なくレンタルボタンを押すと、すぐに自分の中にマネージャーが宿るのが分かる。マネージャーは『赤神さやか』や『坂東メンチ』のような強い個性がないため見た目では変化が分からないが、宿した瞬間に自分の中の考え方が切り替わっていくのが分かるんだ。


 『最高の逸材を、最高の舞台へ送り出す。そのためなら、何でもする。自分の身を削っても構わない。すべては、輝くあの舞台に立つ彼女たちを見るために』



「まずはデビュー配信の注目度を上げないとな。幸い取れ高は十分すぎるほどにある」



 アキコさんが頑張っている3か月の間、マネージャーの力を使いながら俺の方でも色々と準備をしていた一つの手札を切る。まずは育てていた切り抜き師のアカウントでアキコさんのデビュー配信を面白おかしくしてしまおう。これで上手い事注目が稼げたら二回目の配信の際にMAD動画を出してネットの玩具げふんげふん。一気にバズを目指すとしよう。


 うちの社長の可愛い所をちゃんと余すところなく使わないとな!




山里一也(男)25歳


視聴履歴

『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(料金8999円)

『煉獄列島』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)

『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』の権利を獲得しました(料金3万円)


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― 新着の感想 ―
魔女さんの料金がじわじわ下がってるw 偶には呼んであげてw
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