第12話 マネージャーは鬼畜クマネージャーと呼ばれるほどのどSである
『これ大丈夫!? 食べても大丈夫な奴!? ねぇピーピーピー本当に大丈夫な奴だよね!?』
(※オーイシアキコが食べているものはスタッフ一同によって毒見をしたものになります)
コメ:いや草
コメ:画面が真っ赤なんですがそれはwww
コメ:これが人の食べ物ってマ?
コメ:www
コメ:スタッフの犠牲で安全性は確認されたぞ。おら食えよ
コメ:wwwアキコちゃんの悲鳴期待してます
コメ:草。社長自らが模範を示してだね?
『お前ら私のファンだろ!!? 悲鳴が聞きたいってどういう事!?』
画面の下に差し込まれたテロップにコメント欄はwと草に包まれていく。我らが社長、アキコさんのVタレデビューは幾つかの幸運に恵まれたのとアキコさん自身の実力により、順調な滑り出しを決める事が出来た。
いくつかの幸運。その中でも最たるものはは、マネージャーをレンタルした時にせこそこと作っていた切り抜き動画が中々好評でSNSなどで軽いバズが起きた事だろう。
マネージャーは鬼畜クマネージャーと呼ばれるほどのどSであるが、Vタレの魅力を最大限生かす方法を熟知した存在だ。俺はその能力を利用して、これを宣伝工作に利用していた。アキコさんがデビューするまでの準備期間で他の個人勢Vタレなどを中心に扱う切り抜き師、鬼畜クマとして活動したのだ。
これが当たった。料金的な問題で頻繁な活動は出来ないが、目についた無名の個人勢Vタレなどの切り抜き動画を上げている一部界隈の目に留まり、あっという間に鬼畜クマは若干悲痛な声や悲鳴が上がる場面が多いもののそういうものを好む紳士達から高い評価を受けて、『理解っている』切り抜き師として人気になったのだ。
そんな鬼畜クマが作ったアキコさんの動画は当然、彼の切り抜きを楽しんでいる紳士たちの目に留まり、瞬く間に登録者数を増やす結果となった。
次の幸運は時期だ。たまたまとある大手事務所のVタレが引退する日とアキコさんのデビュー日が重なり、そのVタレとアキコさんの声が似ていた事から転生先だという風に騒がれたのだ。
まぁアキコさんはハナっから社長系Vタレとしてデビューしており、デビュー前の3か月はSNSなどで活動していたためこの疑惑はすぐに晴れた。デビュー配信を見たその引退したVタレのファンからは「声が似てるだけで明らかに陽キャオーラがする。この子は部屋でキノコの栽培とかはしてなさそう」というコメントがあり、声質が似ている以外に類似点が一切ないという保証までされる事になったためだ。
その判断基準はよく分からんが、まぁ問題にもならず注目度だけを稼げたのは大きい。他にも大なり小なり要素はあったが、総じて言えるのは良いタイミングでデビューしたというものだろうか。
もちろん、それらの幸運を踏まえた上でも、実力がなければ意味はない。その点、アキコさんは声質も良いし元々キャバクラなどで働いて話し上手の聞き上手だったため、ちょっとした雑談なども面白おかしく熟す事が出来るし、3か月のレッスンによって発音なども劇的に向上しているためちょっとしたラジオくらいの感覚で聞けるくらいには聞きやすい声をしている。
これは、武器になる。Vタレの配信を視聴する際、ずっと集中して画面を見続けるというのは意外と難しい。大体の人がなにかをしながらのながら視聴がをしているからだ。このながら視聴の際、一番困るのが他の作業に集中できないほど配信が面白い事だったりする。
面白い方がいい配信になるというのは間違いないんだが、現代人は限られた時間を有効活用するために複数の事を同時に行う事が多々ある。特に自分が何かしなくてもいい動画配信などは大体、それ単体ではなく他の作業と一緒に視聴するという事が多い傾向にあるのだが、面白すぎる配信はこのながら作業が出来なくなるのだ。画面に集中してしまうから。
そのためアキコさんの配信内容は、メリハリを重視している。冒頭で行っていたような企画ものの時に思い切りウケを狙いに行き、それ以外の雑談配信などでは程よく面白く、聞いていても苦にならない。そのくらいの内容を狙っているのだが、これが当たった。
『まぁ、キャバとかは資金集めとかでも頑張ってたからさぁ。意外と大変なのよ。ああいう仕事も。同僚ともギスギスしがちだしね』
コメ:やっぱ指名の取り合いとかあるの?
コメ:削除されました
コメ:女同士の争いは怖いイメージ
『あったあった。私が見た奴で一番怖かったのは同じホストに入れあげてた嬢同士がお店で喧嘩した奴かなぁ。止めに入ったボーイ君が片方に刺されちゃって』
コメ:ヒエッ
コメ:とばっちりすぎる
アキコさんは社長系Vタレであり、合同会社VVVの代表という立場でもある。リアルと二次元。この二つの立場で会話する事によって、視聴者に画面の向こう側だけではなく現実的なオーイシアキコの存在を自然に感じさせているのだ。そしてごくごく自然な口調での雑談枠の会話で、コメントに対して返答するアキコさんの姿に、視聴者はリアルで彼女と雑談を交わしているかのような感覚になる……は目標であるが、まぁまだまだ難しい。
とはいえ他のVタレとは少し違う。そう第一印象を刻むことが出来ればしめたものだ。
この戦略の結果、オーイシアキコの現在の登録者数は2000人。全くの無名から登録1週間でこの数字は、現在の飽和気味と言われるVタレ界隈では快挙と呼べる出来事だろう。
まだ収益化申請は通っていないが基準はクリアしてある。これからは配信で金を稼ぐことが出来るフェーズになった。事業として一つの節目を迎える事が出来た訳だ。
そして、ここまでがマネージャーにとっての第一段階になる。まずは合同会社VVVの柱となる第一号Vタレを誕生させることが出来た。であるならば次は、第二段階。
Vタレを増やし、会社の規模を拡大するフェーズだ。
「という感じなんだけど、配線のつなぎ方とか感覚は掴めそう?」
「掴めません! けど、頑張ります!」
「うん、やる気は買う」
マネージャーのトレードマーク、というか『電脳歌姫ろっくんろー』の作中でほぼマネージャーとして扱われいたクマのぬいぐるみを持たせた蕎麦屋の看板娘、ひなちゃんは機材の山の中で明るく大きな声で情けない発言をした。
アキコさんのデビューにより、合同会社VVVは正式に事業を展開していく事になった。まぁ、今現在稼ぎはないが稼ぎを生み出すための準備段階って所になるわけだ。この稼ぎを生み出すための準備には、人員の拡充も当然含まれている。
という体で俺はひなちゃんにバイトを持ち掛けた。機材の準備や配信作業の補助という内容で、言ってみればアキコさんの業務の手助けをしてもらうというものだ。自給も高校生に払うものとしては結構色を付けた金額を提示している。勤務先は徒歩10分以内の場所、つまり配信用の借りているうちの隣の部屋だ。
『ほら。俺は男だから、配信に声とか入ると面倒なんだよね』
『あー。あれですね。ユニコーン!』
『意外と知ってるね、ひなちゃん』
『あはは。アキコさんと話してたらVタレに興味が出まして』
そんなやり取りを経て、ご家族にも相談の上でひなちゃんはバイトに来ることを了承。女子高生はなにかと入用だからな。実家の手伝いでもらえる小遣いじゃ色々大変だったらしい。まぁ、そうだとふんで声をかけたんだがその結果、彼女は我がVVV初のバイト生として所属する事になる。
この瞬間、俺の中のマネージャーとしての意識はこの会社の成功を確信した。
ひなちゃんは自分に与えられた役割を一生懸命に全うしようとする真面目な子だ。新しい事に挑戦する事にも物おじせず、家族のためにご両親が不慣れな電子機器についてもちゃんと調べてマニュアルを作り、デリバリーサービスを始める行動力もある。
そんな子が、長年の夢をかなえて、精力的に新しい事に挑戦する人物。アキコさんを間近で見て、なんの影響もないわけがない。恐らく数か月もせずに、ひなちゃんは自分からVタレの道を考えるようになるはずだと、マネージャーは予想している。
彼女は才能の塊だ。声質、喋り方、性格。プロデュースがよほど悪くなければ彼女は間違いなく花開く才能を秘めている。
アキコさんとひなちゃんは、ダイヤの原石のようなものだった。磨けば誰よりも眩しく光り輝く個性。『彼女たちを研磨し、ドレスを着せ、カボチャの馬車に乗せて送り出すために、自分は山里一也と共にある』。そんなマネージャーの意思を頭の中で咀嚼しながら、俺は新しい機材の導入の相談やらなにやら適当な理由を付けて、1週間ほど家に戻らないとアキコさんに伝えた。
「えー! 一也くんが出ずっぱりになるって、仕事どうするの? それにひなちゃんの教育も」
「ひなちゃんには基本的な仕事はもう教えてあるんで。書類仕事はリモートで出来るように整えてありますし、機材トラブルはちゃんと信頼できる業者に対応お願いしてます。それでも解決しない問題が起きた時は連絡貰えれば対処しますから」
「それなら、まぁ……」
「え。いきなり私一人でやらないといけないんですか???」
アキコさんたちは渋っていたが、ここはなんとしても飲み込んでもらわないといけない。なにせ1週間の間、山里一也として顔を合わせるのが困難になるからな。SNSの運用や機材の扱いなどはひなちゃんにも教えてあるから余程の事じゃなければ問題はないはずだ。
書類やらなにやらを鞄に詰め込み、大荷物を抱えた俺を見送ってくれる二人に手を振って湧かれる。たった一週間離れるだけだが、ちょっと寂しい。アキコさんの情熱に付き合う形だったこの3か月は本当に楽しかった。俺自身には、夢とか、やりたい事がないから。誰かの夢を共に追うというのは、自分が夢を持っているような気持ちでいられる日々だった。
いや。彼女の夢は、俺の夢でもある。俺の中にちょっとだけ残っているマネージャーをレンタルしていた頃の残滓がそう言っている。
だから、この離脱も重要なことなのだ。後発であるVVVはVタレの質以外で全てが他者に劣っている。資本はそこそこあるが、独自で技術開発する技術を持たないため宝の持ち腐れのような状況だ。
故に、次に求めるのは技術だ。
ここ数か月、会社の仕事に注力していたためあまり開かなかった『NEET NOW』を開く。このタイミングで1週間の時間を取ったのは、今週の特価レンタル作品が非常に魅力的だったからだ。
その作品のタイトルは、『九十九あきらは終末世界を諦めない』。ポストアポカリプスと呼ばれる近未来の崩壊世界を舞台にした、SFアニメーション作品だ。
この作品の主人公、電子工学・ロボット工学に通じた天才科学者である『九十九あきら』。
彼女の力が、今の俺達には必要なのだ。
……でも、その前に風俗行くか。アキコさん、風俗行くとすぐに感づいて微妙な顔するから行きづらくて……感が良い女の人は怖いね。
明日からは不定期です(多分)
山里一也(男)25歳
視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(料金8999円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』の権利を獲得しました
新しいプレミアムレンタルが可能になりました!
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル可能)
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