5話 冒険者ギルド
―――――――――――― 冒険者ギルド
カイルさん達と初めて会った時、『冒険者』という単語を確かに聞いた。このことから、もしやと思ってカイルさんに訊ねたところ、案の定存在していた。
この世界の冒険者ギルドの役割についても併せて訊ねたところ、「冒険者の登録や管理、クエストの受注やその達成報酬の支払い」などが主な業務であるとのこと。日本で見てきた創作物内の冒険者ギルドと似たような役割という認識で問題なさそうだ。
さて、俺がここに訪れた目的であるが、別にお金稼ぎのため冒険者になりに来た―――――というわけではない。というか冒険者にはなりたくない。だってあんな化物みたいな奴らと戦わなきゃいけない可能性があるんだよ?常に死と隣り合わせと言っても過言ではない。俺はそんな方法でお金を稼ぐつもりは毛頭ない。
ここに来た目的は、『ギルド職員』になるため。
この冒険者ギルドの正式名称は「シルト王国所属冒険者ギルド」(通称シルト冒険者ギルド)。所属職員の仕事や身分に関しては、聞いた限りでは、日本で言うところの『公務員』に限りなく近い。ちなみにここまでの情報もカイルさんから得たものであるが、ギルド職員の情報を訊ねた時には怪訝そうな顔をされた。目指す人少ないのかな…ギルド職員。
もしかすると、かなりの激務なのかもしれない。それでも、死と常に隣り合わせになる冒険者よりも、安全かつ安定して収入が得られるはずである。
元の世界に戻れる見込みは今のところ無い。であれば、せめてこの世界にいる間は、安定した収入でゆったり暮らしたい。夢が無いとか言ってはいけない。
「とりあえず入るか」
早速ギルド内に入ろうと扉を開けようとした。しかし、俺が触れる前に扉が開き、中から一人の男が出てきた。
オレンジ色の髪、背中の大剣、戦士を思わせる服装………恐らく冒険者だろう。背丈は俺とそれほど変わらない。
「邪魔だ、どけ」
その男は俺を一瞥した後、吐き捨てるようにそう言った。え…怖っ…。変な因縁をつけられては堪らないので、サッと横にずれた。その開けた道を、そいつは悠然と歩いていく。
すると、その直ぐ後ろから続けて数人、そいつに追従するようにギルド内から出てきた。鎧を着て盾を持った男性、短剣を持った女性、弓矢を持った男性……。そして最後に、水晶のような物が上部についた杖を持った女性が俺の前を通り過ぎていった。
その時、最後の女性だけがオロオロしながら俺に頭を下げていった。良い人だ…。
恐らく冒険者パーティなのだろう。俺にお辞儀した女性は、見た目の年齢的に俺より年下に見えたし、あんな感じのパーティだと何かと苦労してそうだなぁ…などと一瞬考えた。全員漏れなく『自分たちは偉い』感が出てたし。
「っと…そんなことより、まずは求人情報を探さなくては」
ここに来た目的を思い出し、まずはギルド内の掲示物を見てみる。職員採用関係の張り紙とか求人冊子とか無いんだろうか。
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「無さそうだな」
ギルド内をじっくり散策してみたが、職員採用関係の掲示物や書類は見つけることができなかった。
「仕方ない…直接ここの職員さんに訊いてみるか」
このギルド内には受付窓口が7カ所ある。イメージとしては市役所の窓口がこんな感じだった気がする。幸いにも、長蛇の列ができている窓口は一つも無いので、近くの空いている窓口受付のお姉さんに訊いてみることにした。
「あの~、すいません」
「こんにちは!クエストの申請ですか?」
こちらが声を掛けると、溌溂とした声と眩しい笑顔で応じてくれた。かなりの美人なので、少し緊張してしまう。
「いえ、クエスト関係ではなくてですね…」
「となると…あ!冒険者登録ですか?」
「いや登録でもなくて…。お姉さんに訊いていいのかどうかも分からないんですけど…」
「?」
「実はギルドの職員になりたくて。募集要項とか職員になるまでの流れを知りたいんですが」
「ギルドの職員…ですか?」
見事にきょとんとされてしまった。これが漫画であれば頭に『?』マークが浮かんでいるに違いない。やはり訊ねる場所を間違えたか。
「すいません。聞く場所を間違えたみたいなんで、出直して来ます」
「あ、大丈夫ですよ!私でお答えできる範囲であれば、説明しますよ」
「!!…ぜひお願いします!」
他を当たろうとその場から立ち去ろうとしたとき、まさかの答えがお姉さんから返ってきた。もちろん、間髪入れずに説明をお願いした。
「でも珍しいですね~。ギルド職員になりたいなんて」
それ言って大丈夫なやつです? 他の職員とかに聞かれたらマズくない?
「目指す人少ないんですか…?王国に雇われてるって聞きましたし、収入とか安定しそうな印象なんですけど」
「少ないですよ~。大抵の人は冒険者や魔導士を目指しますし、目指さない場合もその冒険者や魔導士を顧客対象にした商人とか道具屋、鍛冶師なんかになるのが基本ですね。そちらの方が儲けますし…」
「な、なるほど…」
先ほどまでの笑顔に少し陰りが見えているのは気のせいではないだろう。お姉さんもなりたくてこの職に就いたわけではないのかもないのかもしれない。
「お兄さんはならないんですか冒険者?ランクを上げていけば、稼ぎも増えますし名前も売れますよ?」
そこでお姉さんは素朴な疑問といった表情で訊ねてきた。
「いやぁ、俺は冒険者にはならないですね。危険なことは極力したくないですし…。それよりも、安定した収入でゆったりと暮らしたいんですよ」
お姉さんが先ほど言っていた『ランク』というのは、恐らく冒険者の強さや格みたいなものだろう。
そういうのが上がって名が売れるのは、ひと握りの冒険者だけだろう。この世界に来て間もない元高校球児の大学生では、到底高ランクにたどり着けるとは思えない。何なら既に死にかけてるしな。
「なるほど、そうですか…分かりました」
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その後、受付のお姉さんはギルド職員になるまでの流れを教えてくれた。
ギルド職員になるためには、不定期に開催される職員採用試験に合格しなければならないとのこと。常時募集しているというわけではないらしい。
他にも、試験は一次試験が筆記、二次試験が面接。筆記試験については、出題範囲の資料や過去問が街の書店で売られている。また、希望する職種によっては、特定の魔法もしくは技能や実績があれば試験の点数に加点される…などなど。
「詳しく教えていただきありがとうございました。助かりました。」
「いえいえ、これくらいで良ければ。」
再び眩しい笑顔で答えてくれる。この窓口を選んで正解だった。ここまで詳細に知れるとは嬉しい誤算である。
「しかし…こうなると問題は試験までの稼ぎ口か」
そう、新たな問題発生である。次の職員採用試験まで、この街で生活しなければならない。家探しや食料問題解決など、やらなければならないことは複数あるが、一番大事なのはやはりお金だろう。手元にあるホーン・ボアのツノがどれほどの値段で売れるか分からないが、すぐにでも稼げる仕事を探さなければならない。
「あの…どうされました? 何か説明の際にご不明な点がありましたか?」
唸るように悩んでいる俺を見て、心配そうに受付のお姉さんが声をかけてくれた。
「あ、いえいえ。説明は十分でした。ただ、次の試験を受けるまでの繋ぎの仕事を探さないとなぁと思って…。実はこの世か…じゃなくてこの街には来たばかりで無職なんですよね」
苦笑しながらとりあえずそう返答しておいた。「異世界から来たばかりなので無職なんです」とはとても言えない。どう考えてもヤバい奴である。
「でしたら!とても良い稼ぎ口がありますよ!」
「マジですか!?」
「ええ、マジです!」
『マジ』という言葉はこの世界でも通じるという発見はどうでもいい。そんなことよりもその稼ぎ口を是非知りたい!
「今すぐにでも始められて、自由に働けて上手くいけば大金だって稼げます!」
「良いですね…!どういう仕事なんですか?」
俺は思わず食いついてしまった。大金は別に稼げなくてもいいが、今すぐにでも始められるという点が素晴らしい。ぜひとものその仕事を紹介していただきたい。
「冒険者です!」
受付のお姉さんは満面の笑みでそう言った。ちなみに俺はというと、固まった。
「……………」
俺はそのまま無言で固まった状態でお姉さんの顔を見る。お姉さんはニコニコと笑ったまま、こちらを見ている。
「…………冒険者登録します」
結局、俺は絞り出すようにそう言った。




