4話 方針
「うぅ……ん…」
気怠げに目を開けると、そこには知らない天井があった。寝起き直後なので頭が働かない。俺は何をしていたんだっけか…。確か異世界に転移してしまって、無一文に気づいて、空腹で大ピンチの所を助けられて、そのあとは……。
「……そうだ!傷は!?」
そこで魔獣とやらに襲われて、傷だらけになって力尽きたことを思い出した。
「え…?無傷…?」
すぐに身体を確認すると、そこには何の傷も見当たらなかった。そんなはずはない…あの激痛は今でも思い出せるし、傷跡も記憶している。あれが夢だったとは到底思えない。
「どうやら目が覚めたようだね…」
混乱していると、誰かの声がした。
その声の方に目を向けてみると、部屋の入口に白衣を着た茶髪の男が立っていた。そこで俺はようやく自分がベッドの上にいること。そして、着ている服が変わっていることに気づいた。俺が今着ている服は病院での入院時に着るような服だ。茶髪の男の服装と合わせて推測するに、ここはこの世界の病院にあたる施設だろうか。
「その様子だと、かなり混乱しているみたいだね」
俺の様子を見て、白衣の男がこちらに来ながら語り掛けてくる。この人がこの病院(?)の医者だろうか…。
「あの、貴方が俺の傷を治してくれたんですか…?」
「ん?ああ、そうだね。私で間違いないよ」
「ありがとうございます!…でもどうやってあの傷を?形跡すら無いんですけど…」
「え?通常どおり、治癒魔法を使用したのだが…」
さらりと答えられた。やはりあるのか治癒魔法。というか傷跡も全く残さず消せるのか…凄いな…。後遺症のようなもの全然無いし。
「いえ、すいません。それよりも助けていただきありがとうございました」
一番肝心なことを忘れていたので、俺は慌ててお礼を伝えた。正直死んだかと思ったので、この人は命の恩人である。まだこの世界に来てから少ししか経ってないのに、2人目の命の恩人である。ペース早くない?
「当然だよ。むしろ助けられたのはこちらの方だからね」
自分の情けなさを自覚しながら感謝を伝えると、白衣の男は真剣な表情になってそう言った。
「助けた…?俺がですか?」
はて…この人を助けた記憶が全く無いのだが。
「ああ。息子を魔獣から助けてくれて、本当にありがとう」
そう言って、白衣の男は深々と頭を下げた。『息子』…ということはこの人は恐らく…。
「それにしても……君はかなり特異な体質をしているね…」
俺が魔獣から助けた形になる人物の姿を思い浮かべていると、顔を上げた白衣の男が不思議そうな表情でそう言ってきた。特異な体質…?疑問が顔に出ていたのだろう、白衣の男は続けて話してくれた。
「治癒魔法を使用している際に気づいたんだが、君は魔…」
「父さん、彼の容態は……あ!起きたのか!」
しかし、彼の話は来訪者によって遮られた。その来訪者とは…
「あ、カイルさん」
そう、あの時の門番のカイルさん。そして目の前の白衣の男が先ほど『息子』と言った際に、俺が思い浮かべた人物である。どうやら間違っていなかったようだ。つまり親子揃って俺の命の恩人である。
「父さんの治癒魔法なら大丈夫だとは思ったけど。いやぁ本当に良かった。…そうだ、とりあえず君がホーン・ボアに勝った後の話をするね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カイルさんから、俺が気を失った後の話を聞いた。
『ホーン・ボア』を追い払ったのは良かったが、俺の身体の傷が多く、出血も酷かったらしい。なのでカイルさんは急いで俺を父親で治癒魔法の遣い手であるドイルさんの治療所へ運んでくれたらしい。
自身も怪我していたから運ぶの大変だったろうに…ありがたい。
「とにかく元気そうでホッとしたよ」
「はい、おかげさまで身体も問題なく動きます」
これなら今すぐに退院しても問題ないだろう。…とそこまで考えて、俺はある重大な問題に気付いてしまった。
「あの………すいません…俺、実は治療費が払えなくて…」
そう、無一文であるがゆえに、ここでの治療費が払えない。当然健康保険なんてものがあるはずなく、一体どんな額になってしまうのか。
「いや、治療費は不要だよ。先ほども言っただろう。君は息子の命の恩人だからね。これぐらいはさせてくれ」
「いや…でも俺もカイルさんには助けられてるし、それに元々カイルさんは俺を魔獣から助けようとしてくれましたし」
「いいんだよ、気にしないでくれ。あの時、僕は本当に死を覚悟したんだ…。今生きているのが奇跡的なくらいだ」
二人とも良い人すぎないか?正直言って非常に助かる。
「そうだ、君の名前を聞いていなかったね。良ければ教えてくれないかい?」
「あ、俺は夜宮大河って言います」
そういえば名乗っていなかった。カイルさんから名前を聞いた時に俺も名乗っておくべきだったな…。
「そうか、ヨミヤくん。改めてお礼を言うよ。本当にありがとう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの後、結局1泊させてもらって無事退院となった。カイルさん達はもう少し入院していても構わないとのことだったが、流石に申し訳ない気がしたので丁寧に断った。
ちなみに今着ている服はカイルさんから貰ったもの。何から何までありがたい。俺が元々着ていた服は、『ホーン・ボア』との戦闘のせいで酷い状態になっていたので、泣く泣く処分することになった。それと合わせて、カイルさんからは退院に際して、ある物を貰った。
「ホーン・ボアのツノ…ねぇ」
そういえば奴の左目に剣を突き刺したとき、何か無我夢中でツノを折ったような気がする。カイルさん曰く「売れば結構な額になる。君の戦利品だから持って行ってくれ」とのこと。
なんというか、既にこちら側の恩の方が魔獣から助けた恩大きいような気がしないでもない。しかし、お金には困っていたので、ありがたく頂戴することにした。
まぁこれを売るのはあとにするとして、俺はある場所を目指して歩いており、そして辿り着いた。
「ここか…思ってたよりも大きいなぁ」
そう、冒険者ギルドである。




