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両親の離婚で別れた兄弟、波乱の再会を果たす  作者: 垣花 やお


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18/21

たそがれ時にサヨウナラ

挿絵(By みてみん)

 忙しい仕事の合間にデートだなんて、アルカンは店主として気疲れしてるだろうにーー

 ジニィが とりあえず選んだ行き先は墓地だった。ホラーデートが彼にとってのデフォではないので、そこは誤解無きよう。

「久しぶりだ。アルカン、ここには小母さんが眠ってる」

「小母さん?」

 周りと似たり寄ったりの小さな石の前に、ジニィは迷いなく膝を突いた。布で土埃を拭って、先ほど買った小さな花束を供える。

「シッターだ。仕事で居ない親父の代わりに、しょっちゅう世話んなってた。親父が行ったっきりになっても、俺が兵士になるまで何かと気にかけてくれてな。良い人だった」

 挨拶ついでにアルカンを紹介する。父親が再婚してから、彼女は家の出入りを遠慮するようになった。離婚して以前のような関係に戻ったが、彼女はアルカンの母が苦手だったようで……

「あの頃の弟は か弱かったけど、今は見違えるように元気になった」

「ジニィ」

「信じられない成長ぶりだ。兄貴よりモテるなんてけしからん」

「ジニィー」

「あの頃が一番のモテ期だったなあ」

「ジニィ?」

 墓参りも済んだし、次はアルカンにバトンタッチ。

「さあ、どこに行く?」

 尋ねると、アルカンが肘を曲げてジニィを誘った。

「おい、兄弟は腕を組まないぞ」 

「都会ではやるよ」

「マジで!?」

 中区に観光スポットなんぞ存在しない。どこに連れて行くのかと思えば、旅籠インだった。グレードは富裕層向け。客層もスタッフも垢抜けて行儀が良い。

「なんて治安の良い場所だ」

 ジニィには馴染みの無い場所だが、スタッフの方は“隊長代行”として彼を認識していた。

「こんにちは、隊長さん。ヒゲが無いのでドコのご子息かと思いました」

 失礼な。ヒゲは まだ目立たないだけだ。

 ひと言 余計な彼に、アルカンが小さく耳打ちした。スタッフは頷いて、バックヤードに入って行く。ロビーで待っていると、細長い木箱を抱えて戻って来た。その木箱はジニィの前へ押し出される。

「開けてみて」

「え、俺が?」

 ばか丁寧に結ばれた紐を解き、箱の蓋を開ける。次に厚手の布を開くと、漆黒の鞘のサーベルが現れた。

「わ……すごい」

 大切に磨かれた年代物のような落ち着いた色味。護拳の燻し銀がシビれるほどカッコいい。

「刀身も見て」

「え、いいの?」

 微笑むアルカンに勧められ、サーベルを持ち上げて少しばかり鞘を抜く。思った通りに手に馴染む柄。優雅な半湾曲の刀身。美しいが、刃の厚みも形状も お飾りのそれではない。

「実戦用か」

 実用性を意識した造りは、威圧感すら覚える。

「ふう。いいものを見せてもらった」

 刀身を鞘に納めると、詰めていた息を吐いた。

「気に入ってくれたなら良かった」

「ああ。……え?」

 アルカンの表情は、こう言っている。プレゼント フォー ユーと。

「恋人へのプレゼントにはチョット物騒ですよね?」

 お前まだ居たのかとスタッフを軽く睨む。

「俺達は兄弟!」

 怪訝な表情をしないで欲しい。勝手に間違えたのはそっちだ。

「アルカン。俺に こんな高価なものは」

「ジニィに合うと思ってぼくが見立てたんだ」

「今日 俺の誕生日か何か!?」

 アルカンは義兄の肩に優しく手を置いた。

 曰く、このサーベルは美術品として好事家に請われる逸品だが、持ち主が次から次へと災難に見舞われるので『呪われたサーベル』としてココに流れ着いたのだという。え?

「これはジニィが持っても大丈夫」

「ど、どゆこと?」

「このワンちゃんは飼い主を選ぶタイプだから」

 なるほどわからん。 


 なんかヤバイ贈り物を貰った帰路。ジニィはアルカンに手を差し出した。

「何?」

「少し遠回りして帰ろうぜ」

 義兄はキョトンとする義弟の手を引いて歩き出した。少し先に教会が見えてくる。昔 二人で通ったなと呟くと、アルカンが横に並んだ。教会の鐘楼に夕日が重なり、儚きノスタルジーを覚える。ジニィの手を握る力が不意に強まった。

「ジニィが言ってた先代隊長の事、聞いていい?」

 世にも珍しい紫の瞳が夕日に中和され、仄暗い薄紅色に変わっていく。

「それは……」

 曖昧模糊とした暮れの空に、夜魔の気配が忍び寄る。

「あの人は、黙って やられるような人間じゃなかった。彼には覚悟があった」

 横顔に視線を感じる。針の先端で柔い皮膚を撫でるような。十字路に差し掛かり、足が止まる。建物の陰になって一層暗い。辻に棲むといわれる精霊が、ジニィの首に冷えた息吹を吹きかけた。サーベルを強く握る。

(俺は何を恐れてる)

 繋いだ手には、いまだ人の温もりがある。

「俺は」

 ふと目の前が かげって、唇に温かいものが触れた。気づくと、もう教会の前だ。

「ねえ兄さん。秘密を暴いたからには、もう元には戻れないよ」

「……え?」

 天から鐘の音が降り注ぐ。太陽の時間が終わる合図だ。甲高い金属音が鼓膜を刺す。月の時間を警告するように。

「どうして」

 夕闇が体に絡みつく。地面に縫い付けられたように足が動かない。

「ーー隊長!!」

 耳馴染みのあるハスキーボイスが、ジニィの怯えを吹き飛ばした。

「支部から早馬です!」

「グレイズ、どうして」

「急いで来てください、代官より武装指示が」 

 ジニィは義弟を振り返った。

「兄さん、気をつけて。行ってらっしゃい」

 手を振る彼の その表情から、心中を読み取る事は叶わなかった。


 屯所に直行したジニィは、急ぎ予備の軍服に袖を通す。同じく非番のバスカルも、ゴロゴロしていた所を起こされて渋々 着替えを終えた。

「隊長、サーベル忘れてんぜ」

「あ」

 バスカルは感心したようにサーベルを眺める。胡散臭い模造品とは違う、確かな代物が持つ気配を感じているようだ。

「あの弟がくれたんか?」

「なんで分かんだよ」

「まぁなんとなくな」

 ジニィは肩をすくめる同僚を睨んだ。

「なんだよ。ずいぶん不機嫌じゃねえか」

「そういうお前は何か吹っ切れてないか?」

 未だ傷痕が目立つ顔で、困ったように笑っている。

「悪い、隊長。俺はヘクターん所のガキ共を助けに行ってくる」

「……命令違反だぞ」

 それだけの覚悟があるのかと問えば、真剣な眼差しが返ってくる。

「せめて誤魔化してくれって言えないのかよ」

「バッカ。お前、やっと昇進できんだぜ。少しは欲張れよ!」

 ジニィは返事を保留して更衣室を出た。その時、物置き代わりになっているロッカーが目に留まった。中には先達らの残した備品が眠っている。

「何やってんだよ」

 足を止めたバスカルは、ロッカーを漁る隊長を後ろから覗き込んだ。彼が手に取った物を見て、その心を知る。

「へえ。全然 使えそうだな」

 それは先代隊長が愛用していた剣帯だった。ベルトを腰に巻き、ホルダーにサーベルを差し込む。ベルトの穴は二つばかり大きくて、ジニィは難しい顔を更に顰めた。

「いいじゃん」

「もっと筋肉があれば……」

「いい加減 小柄なの認めろよ」

「うるせー!」

 隊員らは全員揃っている。例の二人組が、小走りでジニィに駆け寄った。

「隊長、あの」

「ああ。確かに届けたな?」

 二人揃ってコクコクと頷く。

 そうだ。だから緊急招集がかかっている。

「バスカル。今は とりあえず ついてこい」

「おい」

 ジニィは有無を言わせぬ眼差しで彼の反論を封じる。

「行くぞ!」

「「「ハッ」」」

 代官もジニィもバスカルも、大きく括れば目的とするものは同じなのだ。

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