表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
両親の離婚で別れた兄弟、波乱の再会を果たす  作者: 垣花 やお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/21

天使にはなれない

挿絵(By みてみん)

 ジニィら中区分隊は、代官の指示に従い中区集会場に馳せ参じた。既に他区の分隊と支部の兵隊が集結しており、月例報告会と変わらぬ様子のデューガルドがいた。

「遅くなり申し訳ありません!」

「構わん。中区への報せは最後にしていた」

 代官の思惑を察し、ジニィは息を呑んだ。

(疑われている。いや、当然か)

 代官の狙いはカドマス本家。そこに一番近いジニィ隊は、特に信頼の置けない部隊だ。

「勘違いするな。君の忠誠と正義感は、この私、ソーン市代官アラン・デューガルドが認めている」

「!」

 背後に居並ぶ部下らから ざわめきが伝わってくる。周りを囲む他部隊も似たり寄ったりだ。ジニィも正直 驚いた。

「傾聴!」

 ソーン市衛兵隊はこれより、代官が立案した作戦に従事する。カドマス本家の強制捜査だ。その際、捜査を妨害する ならず者らから捜査官を護衛し、また敵を制圧するのが衛兵隊の役割となる。

「激しい抵抗が予想される。必要とあらば、その場で手討ちにせよ!」

 代官の決意は固い。彼はカドマス本家を完膚なきまでに叩き潰すつもりだ。

「た、隊長〜」

「ホントに やるんですかぁ?」

 不安がる一部の部下らに、ジニィは小さく頷いた。

「お前らはな、とにかく死ぬな」

 ジニィはともかく、隊員らの武装は心許ない。対するカドマス本家の兵隊は、銃を所持している可能性があった。

 突入の段取りなど詳しい説明を聞き終えると、ジニィは部下に囲まれる代官に直談判した。無謀は承知。彼を説得できるだけの理由は、人としての道義だけ。

「犯罪組織が孤児を使って法の穴をかいくぐっている事案は把握している」

 今宵の代官は迫力が一、二段違った。捜査員らも命がかかっている。生半可な理由では受け入れられまい。

「子どもを救うか。で、その子らは素直に従うかね?」

「いいえ」

 ジニィはバスカルを見る。強く噛み締めて血が滲む唇。怒りに はち切れんばかりの筋肉。ミチミチと悲鳴を上げるシャツのボタン……。

「ですが彼らは現状に苦しんでいます。まだマトモな大人になれる道筋もあるのに、このままじゃ犯罪者の道連れじゃありませんか。そんなの馬鹿げてます!」

 陽気で恋愛体質なバスカルは、時折 暗い目をする。決まって過去を振り返る時だ。ジニィはその片鱗を知っている。それは彼をこの道に引き込んだのが、先代隊長とジニィだからだ。

「おれもそう(・・)だった」

 バスカルが口を開いた。

「心の底から助けを求めてるのに、奴がソレを許さねえ。子どもを暴力と洗脳で縛ってる。だから あの地獄から連れ出せるのは、俺みたいな奴しかいねぇんですよ!」

 代官は重く頷き、控える部下に小声で何やら命じた。

「君たちには私の兵を付ける。子どもを救出した後は、必ず彼らの指示に従え」

 ジニィとバスカルは思わず目を見合わせた。望外の温情に胸が熱くなる。

「ハッ!」

 救出メンバーはジニィとバスカル、追加の兵で計四人となった。部下らはグレイズに任せ、代官の指揮下へ。

「ブレシュ。死ぬなよ」

 これまた思わぬ激励を受け、ジニィら四人は月夜の街を駆けた。

「俺は中区隊長代行のジニィ。こっちはバスカル」

「クライヴだ」

「俺はカーター」

 軽く自己紹介した後は、戦力分析だ。

「どれくらいやれる?」

 二人はサーベルを所持。一方でクライヴは拳闘が得意だという。なるほど、ムチムチだ。バスカルの目が釘付けである。

「お前さんの話は聞いてる」

 走りながらカーターが横に並んだ。視線はジニィの得物へ。分かりやすい男だ。身長はカーターが。筋肉量にはジニィに分がある。

「悪いが今回は諦めろ」

 カーターは引きつるような独特な笑みを浮かべた。


「ヘクターのねぐらはココで合ってるのか?」

「中区は狭ぇから縄張りの取り決めは厳格だ。おれを警戒してんなら、むしろ迎え撃つだろうよ」

 バスカルの表情は強張っている。助っ人らは目を見合わせた。ジニィには分かる。彼が何を懸念しているのか。

 バスカルの先導で、無法者の街へ足を踏み入れる。足下で建物からはがれ落ちた瓦礫がパリパリと音を立てる。侵入して一分も歩かぬ内に銃声が響いた。四人は分かれて物陰に飛び込む。

「あーあーやっちまったな」

「防犯がしっかりしてやがる」

 ジニィとバスカルが舌打ちする向こうで、助っ人二人は目を白黒させた。

「なんで分かったんだ!?」

「情報が漏れたのかっ?」

 一旦 銃声が止んだので、バスカルが声を掛けた。

「ほれ、瓦礫を踏んだろ」

「なに?」

 この街の散らかり様には、それなりの意図がある。鳴子だ。

「中の人間は、外部の者に敏感だ」

 こうなったら気配を消す意味はない。バスカルは大声でヘクターに呼びかけた。その間、ジニィとクライヴは示し合わせて裏に回る。

「よう、ヘクター。こないだは よくも追いかけ回してくれたな!」

「チッ。しぶとい野郎だ」

 月明かりに照らされたヘクターの顔に、見覚えがあった。

(アイツ、パブで暴れたヤク中じゃねーか!)

 ほんの数日前に暴力事件を起こし、留置所に突っ込んでいた男である。そう、バスカルが妙に気にしていた奴。

(そういうことかよ)

 表では厄介なヤク中として奔放に振る舞い、裏では子どもを食い潰す悪鬼。ジニィの内からフツフツと怒りが湧き上がる。

「まずは子ども達の保護を」

「了解」

 途中、何度か襲撃されるも、当て身や絞め技で素早く昏倒させる。なるべく大きな音を立てないよう慎重に。

(まだ十五かそこらだ)

 痩せて ろくな力もないのに、殺意だけは一丁前。彼らの境遇には反吐が出る。バスカルの顔がチラつくから余計だ。

 クライヴは器用にジニィの後をついてくる。収容所のような建物の中で、僅かな空気の揺れを感じたジニィは、とある小部屋の中をそっと覗いた。静まり返って物音一つしない。そこで わざと声量を上げる。

「なあ、バスカルが言ってた奴を覚えてるか? 子どもを手ゴマにしてる悪党だ」

「? ああ、ヘクター」

「実は奴も、ガキの頃は同じ外道に飼われてたんだってよ」

 ジニィの意図に気づいたクライヴは、上手く話題に乗った。

「なんてこった。なら早くヘクターを捕まえないと。子どもらまで神に見放されちまう前に」

「ああ。奴に力を貸す野郎共も、一人残らず捕まえる。それが代官さまの指示だからな」

「てことは、子どもらには 今夜がヘクターから逃げる最後のチャンスか」

 若干の気恥ずかしさを覚えながら、二人は部屋の前をゆっくり通り過ぎた。

「ーー待って!」

 軽い駆け足と共に、少年が廊下へ転がり出た。

「お前達、バスカルが言ってた子どもか?」

 バスカルの名は覿面に効いた。

「へ、ヘクターを捕まえるのか?」

 少年の表情からは、兵士への不審感と恐れが察せられる。

「ああ。今はバスカルが足止めしてる。俺らはお前たちに逃げろと言いに来た」  

「逃げるところなんかない!」

 ジニィは渋い顔で頷く。

「孤児院に行け」

 少年は首を横に振った。

「嫌な大人が居るからか。ならヘクターの下で大人になるか?」

 少年の顔が歪む。ジニィも言っていて嫌な気分になった。

「孤児院はブタ小屋だ。あそこじゃ おれたち人間じゃない」

 露見するのは みなし児の苦悩。まとわりつく偏見。世間に厄介者として扱われ続ける苦しみ。嫌われる痛み。真っ当に生きて行くことの難しさ。幸せへの渇望。

「ああ。だが他に行く場所は無いぞ」

 クライヴの視線を横顔に感じる。彼は何を感じ、これをどう受け取るのだろう。

「クソ野郎の下にいたなら、もう分かってるな。大人に縋るのが、どれだけ恐ろしいか」

 クライヴ氏がギョッとした。今のジニィは、幼気な子どもに酷い現実を突きつける冷たい男。もっと酷いのは、ヘクターは真正のクズで ジニィはヘタレ。大概の大人は世の中に失望し、不満ばかり垂れ流す。正義は真に必要とする者に届かず、不条理ばかりがまかり通る。

 少年の顔が しわくちゃに歪む。小さな手を固く握り、可哀想に肩を震わせて。

「それなのに俺の友だちは、今のお前らを助けたいんだってよ」

 少年はハッと目を見開いた。

「言っとくが、期待しすぎるなよ。俺たちは天使じゃない」

「それって……」

 少年は唇を尖らせてジニィを睨んだ。

「おじさん、クソダセぇ」

 横でクライヴが噴き出した。別にいい。ジニィには今できる事だけが精一杯だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ