59番
13話の続きです
どうしても声が聞きたかったから、追いで連絡することが本来敬遠されている行為だということは理解している 。
けれどそんなこと知った話ではない。
メッセージを送る。
送ってしまった。いくらメッセージで会話していてもなれない。
(月さんが嫌がったらどうしよう)
危惧するが、もう戻れない。
落ち着かないながらも返信を待った。
送ったのが日を跨いだ夜中だったので寝ているのだろうと思い、いったん眠りについた。
返信が返ってきたのはその日の夜だった。
返信が返ってきたことと月さんも乗り気だったのが嬉しかった。
情けなのかもしれないけど嬉しかった。
すぐに、したい!!と文面でも勢いが伝わるように返した。
そのあと数分開けて
「しようお風呂とか終わってからでもいい?」
僕もそうしようと思っていたので、タイミングもばっちりだと思い
僕もそのつもりだからと返した。
いいとき連絡するねと言われたのでわかったと一旦会話を終わらせた。
すぐにできるのだから楽しみだし、待っているぐらいがいいと思い、家族で囲んで食べる夕飯を急いでかきこむ。
途中ご飯粒がのどに引っかかって、むせて涙目になりながらも急いで食べることをやめなかった。30分しか休憩時間のない証券マンのランチのように。
「ごちそうさま!」
勢いよくそう唱えて、食べ終えた食器を持って席を立つと親が何かあったのだろうかと不思議そうな目でこちらを見てくる。
特に言葉にも発さず、食器を台所のシンクに置いて、先に浴槽を洗っておいて湯を沸かしておいたお風呂にそのまま直行した。
着替えのパンツやパジャマも夕食前に脱衣所に置いておいたので、すぐさま服をはぎ取るように脱ぎ捨て洗濯かごにまとめて放り込んだ。
シャワーがあたたかくなるまで風呂の湯船の付けておく。
これが我が家の節約術だ。
シャワーヘッドをつかみ素早く頭を濡らす。
おそらく銭湯のシャワーが勝手に止まることよりも早く栓を締めたのではなかろうか。
泡立ちも少しばかりのところで洗い流す。
例え水に流したとしても月さんは僕の頭からは黒カビのようにこびりついている。
(もちろん良い意味で)
身体をボディソープでごしごしと洗っていく、それでもこびりつくものはこびりつく。
若干嵩増しされた湯船を追い炊きし浸かる。給湯器のパネルを逐一確認する。
パネル上のデジタル時計は10分早く表示されている。
いつもは湯船につかりながら熱唱し、1時間以上いるが今日はデジタル時計にグリニッジ天文台とする。
幼少期にやっていたあと10秒数えたら出るというのを久方ぶりにやった。
このワクワクはノスタルジーを感じてなのか、フューチャー・オリエンテッドなのか
いずれにせよ心が躍った。
浴室で一日の喜怒哀楽を含んだ水滴を丁寧に拭き取る。
準備しておいたユニクロのパンツと水色のドル札がプリントされているTシャツとグレーの短パンを履き、スマホの画面を確認するが通知は来ていない。
ドライヤーをする時間さえ惜しかったが、ちょい濡れくらいまでは乾かした。
歯磨きを終え、スマホの画面を確認するが通知は来ていない。
時刻はちょうど21:30だった。連絡をしてから1時間しか経っていないことに驚いた。さすがにまだかかるだろうと思いゆっくりと二階にある自分の部屋へと向かった。
おもむろにカーテンを開けて夜空が纏う月明かりをたどって月を見つめる。
あれは上弦の月というのだったか。満月ほどではないが明るい。
月に連絡がいつ来るのかと心の中で問いかけたが無論返事はない。
うっすらと眠気を覚え始めた。
このままでは寝てしまうからと部屋の掃除と動画を見たりして耐え凌ぐ。
既に何時間経過したのだろうか。
ようやく返信が返ってきた。
意識が混濁しながら返事をしたら少し誤字をしてしまった。
またまた少し間隔をあけて、おはなししようと合図が来た。
我慢の限界をきたしていたが、電話をかけていいのかの最終確認をした。
結局電話をし始めたのは夜中の0:20だった。
その我慢でくたびれた心と少しばかり覚えてしまった怒りは開始数分で吹き飛んでいく。
(遅れてごめんもなかったことに少し憤りを感じたが。)
食べ物の話から始まり、月さんは赤いシロップがかかったイチゴかき氷の写真を送ってくれた。いつかは一緒にお出かけすることができるのかなとかき氷ににじんだシロップのように淡く話しながら思い浮かべていた。
遠足で食べていたお菓子という話の流れから月さんがボンタンアメを知らないことが発覚して驚いた。正直メジャーの食べ物だと思っていたからなおさらだ。
自分の好きなお菓子だっただけに説明に饒舌になってしまった。
月さんが圧倒されながら笑っているのが伝わって、ようやく我に返った。
南国生まれでもないが力説したことに恥ずかしくなった。
オブラートの包み紙のことなどを話していたら月さんは大あくびをして眠くなってきたとオブラートを包まず言ってきた。僕はそのほうが好きだ。
なぜなら気を遣わせたくないからストレートに言ってくれて清々しい。
「わかったよ、もう寝ようおやすみ月さん」
おやすみ。ユーと言われてうれしかったし安心した。
おやすみを言い合える間柄になったことをかみしめて
「ありがとう」と気持ちを込めて白色のハートの絵文字を送って就寝した。




