伝書鳩
11話の続きです。
「ユーがいなくなった」
そう聞いた時には、既にSNSのアカウントは表示ができなくなっていた。
ひどく動揺したというのが正直なところだろうか。
自分のせいで招いている事態なのだから動揺などする立場にはないのかもしれないが。
とうとう愛想をつかされたのかと思うとなぜか自分の魅力が否定された気分になる。
(もともと魅力など皆無なのかもしれないが)
もうユーを引き戻す術は残っていないのだろうなと思いつつ、恐る恐るSambaを開いてみる。
どうやらメッセージは送れるようだ。
これは私の傲慢だが、この行動でいざこの事象を引き起こしてもなお寂しさを埋めるために近くいてほしかった。
祈りながらも今までの感謝も込めて私はユーにメッセージを送った。
「ラブだよ」
午後10:57
他意はない、和歌のように「想ふ」でもなく恋愛的な「好き」という意味合いでもない。
ネット上の友人として今までの献身的な姿勢に敬意を表するとともに、友人として「好き」だったよと。
感情としてはクラスにいる本命ではなく推しに対して抱く心情のようなものだろう。
私としては、ユーにはこの言葉に大いに惑い勘違いしてほしい。
そして戻ってきてくれば御の字だ。
一応私の信条として去る者は追わず来る者は拒まずが前提のつもりだ。
もしもこのままいなくなることも見越して、「風邪ひかないようにね」と餞別とも取れるメッセージも送信しといた。
それから3日くらい後の昼にユーから返信が来た。
「おれも、おれのほうがらぶだね」
午後0:42
どうやら同じ気持ちだったらしい。何なら私以上なのだと。
私はすぐに返信しなかった。
また3日くらい開けて最近例の中華街に行ったことを告げた。
この前中華街の話をしたのは、行く予定があったからだった。
そうすると一時間くらいしてすぐに返信が来た。
「えええ、おれとは行ってくれないの?なにしたの?」
そりゃあ、えええとなるよねと思いつつもそれとなくこれから行くことはないと示唆する。
「暑いときは行かないよ」
とこれからも夏休みにかけても君には望みはないと。
それから何枚か食べた小籠包の写真を送り付けた。
「3枚目の小籠包食べたことあるよ」と
案外ユーは取り乱していないようだった。
これ以上深ぼられたくなかったので、会話はそこで終わらせた。
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実は転職して入った会社をこの前辞めた。
この会社自体は悪くなかった。それなりのワークライフバランスだったと思う。
だけど私をこんなにも早く退職に追い込んだのは、人間関係だった。
毎日上長や先輩に叱られる毎日。私には社会人としての能力すらないのかと疑うほどだった。
私がどうにか貢献しようと思って行動すればするほど空回りして、失敗ばかり引き起こすようになりそのたびに怒鳴られて人格否定まがいの言葉まで浴びせられるようにエスカレートしていき出社すらしなくなった。
すぐに、事務職として他の会社に転職したけどそこではもう自分自身がわからなくなり
たまのお茶出しとあとはネットサーフィンをして時間をつぶす窓際社員になり果ててしまった。
かなり心が疲弊してたし、人はなぜ働かなければいけないのかと哲学的な考えも答えが出せないくせにしてしまう。次第に私は社会不適合者であり、役立たずだと自己嫌悪する暴論を唱える学者を心に宿してしまった。
二つの会社を立て続けに退職したところで次に働きたいと思うことなどできるはずもなく、自分のやりたいことを優先した。
それは日本中を旅することだ。そこで安住の地を見つけるのが私の夢だった。
だからといえど、生活にはお金というものがどうしても必要になってくる。
今までのように会社勤めではなく自由に稼げるものはないかネットを漁った。
ひとつ面白そうなものを見つけた。
それはハトというものらしい。
形態としてはギャラ飲みで、ホスト側とキャスト側がマッチングしてお酒を飲んだりして一緒に一定時間を過ごす。
強制的にわいせつなこともされず、しっかりと報酬も払われる仕組みになっており。
意味もない人とエロいこともせず、全国どこでも好きな時間にお酒を飲んだりお店に行ってお金が稼げるとは一石二鳥ではないか。
ただ問題なのが、ハトのキャストすなわちハト嬢になるのには審査が必要で通過率が以上に低いことが記載してあった。
(私が通過できるものだろうか。)
容姿に自信があるわけでもなかったし、審査では何を見られるのかわからなかったこそ不安が募った。
だが背に腹は代えられないので、まず会員登録をしたそのあとは2段階審査らしく写真審査と面接審査があった。写真審査は公式Itoを友達登録して、写真を送るとすぐに合否判定が出た。
もちろん写真は盛れていて化粧ノリが良く一番瘦せていたころの写真を使用した。
結果は意外にも合格との報せだった。人格否定に慣れ切った体へ承認されたことが染み渡る。
しかし、まだ気は抜けない。もうひとステップ、面接が残されている。
面接には簡単なドレスコードのようなものがあるらしく、飲み会に行くことを想定した服とある。
人と接することであるから身だしなみが重要視されるようだ。
面接はオンラインと対面の2種類があり、家から出たくなかったのでオンラインを選択しそうになったが合格率を少しでも上げておきたかったので、対面を選択した。
写真審査合格とともに面接の日程案内がきた。
選択できる日程で一番日付が遠い日にした。
理由はメンテをするためである。期間中初めて眉毛サロンに行ったり、私のパーソナルカラーに合ったリップなど化粧品を一新させ、服も少しタイトめな体のシルエットが出る青色の短丈ノースリーブワンピを買った。
面接日を迎え、面接時間の前に美容院に行って髪の毛を巻いてもらった。新調した服を着て眉毛も髪の毛も整えて顔も見栄えが良くなり、過去最高の私が出来上がった。
面接会場について即座に面接が始まると30分くらいで終了した。
質問も特有なものはなく当たり障りもなかった。あっけなく終わってしまったので手ごたえがなかった。
回答も「おいしいご飯屋さんありますか?」など答えにすらなっていない会話ベースになってしまっていたからというのもある。
その場で合否が伝えられる。
「合格です」
一瞬なんと面接官が言葉を発したか理解が追い付かなかった。
「へ?」
なかなかに間抜けな返答をしてしまったが、若そうなスーツ姿の面接官は淡々とWhile文でループ処理されたかのように合格ですと、適切な返答が返ってくるまで繰り返された。
「ありがとうございます」
そう答えるとようやく次のプログラムに移行したようだ。
アプリの登録とサービスの説明などを受けた。
晴れてハト嬢となれたわけである。
暫くしてコハトというマッチング方法でイイねが何個か送られてきた。
数人とメッセージのやり取りを介して一人話が合いそうだったので、続けて中華街で3時間のスケジュールができた。
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次の日付に変わってすぐにユーから追いでメッセージが来ていた。
「明日夜暇?」
日付変わったこと忘れてるのかと思い今日のことか確認する。
「久しぶりにおしゃべりする?」
午後20:02
20分もたたずに「したい!!」と来た。
準備できたら連絡すると返した。
(よかったまた私のもとへ戻ってきてくれた)
本作品はハトのようなサービス使用の奨励、促進をするものでは一切ありません。




