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満員最終電車乗客抜き

9話の続きです。

僕と月さんはSambaを用いて「二人きり」で通話をすることが増え、次第に他愛のないメッセージもインターチェンジしていった。

時には日常をかたどった一枚を言葉と一緒に同封して送信し、今日は何を食べた、どんなところに行ったみたいな(あくまで地名などの明言は避けて)やり取りも徐々にではあったが互いを垣間見せるようにもなっていた。


久しぶりにルームをやることになった。

僕たちは月さんのお寿司屋さん行こう発言に踊らされている最中だった。

急にお寿司屋さんに行きたいと言い出し、具体的なお店のURLまで送られてきた。


発言はひとまず置いといて、URLをタップした。

お店のサイトには艶やかにでかでかとそれでいて開放的に肉体をさらけ出す姿が映し出されていた。

月さんはそんな「極厚の肉体」に舌なめずりしたのだと言う。

そんなお店の場所はというと東京に位置していることを明示している。


まさか直接会うという意味合いではないだろうと認識しつつ(プレの住んでいる場所を鑑みても非現実的なのもある)

だが僕の見立てなどお構いなしに月さんが率先して段取りを立てはじめる。

どうやら月さんもそれを見越したのか長期休みを利用して集まろうという算段のようだ。


(ほ、ほんとうに会うことになるのか?)


その思惑を確固たるものにしたのは月さんの予約しないとだねという言葉だった。

現実味を帯びてくると勝手に期待と妄想を繰り広げてしまう。

(これは僕の悪い癖だ)


会ったときに身だしなみが変だ、顔はどうか、身長はどうか、さてはて相手はどのような見た目をしているのか、軒並み現代ルッキズムによる思考を引き起こす。

ポジティブな部分の妄想もあるが大部分を占めるのはそんな感じだ。

そのまま僕の脳内は文字通りすし詰め状態のまま暖簾を下した。


板前はとっくに仕込みを終えているであろう時刻に起床した僕は昨日のことを振りかえる。

おいしそうな東京のお寿司屋さんに行く予定が次の夏休みに立つことになり、3人が一堂に会すこと。

月さんが中華街に行った時のご飯の写真でおなかが鳴ったこと。

そして憶測として浮かび上がる月さんの住んでいる場所。


それらをぐるぐると山手線の路線図の上各駅停車で思考停止する。

なぜ山手線の上にいるのか、それは大学が東京にあるからだ。

この前山梨に住んでいると言ったがあれもまた事実ではある。

なぜなら 僕は山梨に実家があるだがあの時はまだ東京に住んでいると言い慣れていなかった。

そのまま電車にガタンゴトンと大学へと揺られる。


筋つかん同じようなことを考えながら家路につくとあの後月さんは本当に予約したのか気になった。

(夏休みまでまだ1か月近くあるがなかなかの人気店のようで予約は早くに取らないといけないと言っていた)

だから僕は月さんにメッセージを送った。


本当に行くの?

午後7:02

                        え?いかないの?いくつもりだったんだけど。

                        午後9:12


行くことは当然かのように言ってくるので本気だったんだと思った。


そうなんだ。

午後9:16

                         おしゃべり

                         午後9:16


このように返信が来たときは月さんが通話をしたいという合図だ。

「おしゃべり」がしたいときの月さんの返信スピードは急に速くなる。


いいよ、と返信するとすぐに電話がかかってくる。

電話に出るといつもの調子でやっほ、ユーと言ってくる。

通話が開始するや否やこの前近所の人が大根を差し入れてくれた話や最近始まったファストフードの商品早く食べなきゃなどと息をつく暇もないほどにさながら「ランボー」のM60顔負けのマシンガントークがさく裂した。

ただそのM60もリロードが必要なようで隙ができる。

その隙を見逃さず僕は攻勢をかける。

「お寿司は行く予定ですし、お昼に行くんだったら夜何するか考えないとですね」


「あ、そう。そうだね。」


なぜか歯切れの悪い返事が返ってきた。あたかもバツが悪いみたいに。

気のせいかと思い僕はもう一度聞いてみた。


「お寿司行った後次はこの前言ってた横浜中華街行きましょうよ。僕修学旅行以来行ったことなくて、ゆっくり見てみたいな」


「いいね、いこうね」


そのあと月さんは黙り込んでしまった。

そしてまた装填が完了したのか全く関係のないことを話し始める。

少し驚きもしたが、こんなに話したいことがあったのだなとなにか微笑ましい気分になって疑問も打ち砕かれていった。


ひとしきり装弾していたトピックを喋りつくしたからか、月さんが大きなあくびをしたのが電話越しからも伝わってきた。

月さんがじゃあ良い子は寝る時間だよと言ってきた。

次の日も大学が2限からあるので、正直それが良いと思った。

おやすみなさいと互いに言い合った後僕は眠りについた。


それから数週の間でなぜか段々と月さんが僕たちから距離を置くようになった。

原因という原因に心当たりはない。強いて言えばこの前の通話での一軒でのことか。

だがあまりにも考えすぎか。月さん自身も乗り気だった。。と思うし。


プレとも連絡を取りながら二人して月さんを気に掛ける。

時にはルームを開いたり、投稿をして反応をうかがった。

DMで聞くこともできたのだが、心配し過ぎているのがバレたくなかったからしなかった。

時々イイねが来たりするからいるにはいるのだろうということだけはプレとの会話でも確認できた。


ただ以前のようにルームをすることはおろか二人きりでの通話もぱたりと無くなった。

ひどく悲しい気分になった。こんな気分になったのはいつぶりだろうか、思い出せない。

体調が悪いのかな、嫌いになっちゃったのかな、どうしたら戻ってきてくれるんだろう。


理由を探せば探すだけ見つからない、これまだ月さんのことを少しばかりわかり始めたと思ってたけどそれはただの主観でしかなかった。


その状態が続いたまま2週間が過ぎたところで、段々と僕に「あきらめ」が生じ始めた。

何をやっても帰ってこない、ただのネット上で2か月ぽっちの関係別に固執する必要はないんじゃないか

もう特に話すことも、三人で集まることはない。

現に月さんとは愚かプレとの会話は月さんが平気なのか確認したのが最後で止まっている。


(もう終わりにしよう)

堪忍袋の緒が切れるとはこのことかもしれない。

もしくはいろいろ考えてしまう自分自身に辟易して、疲れたのかもしれない。


手始めに三人でよく団らんした「居間」があったSNSアカウントを削除した。

やり方がわからなかったから検索して消した。

(これで終わりだ)


肩の荷が下りた感覚とともに、走馬灯のように今までの楽しかった思い出が降り注いでくるようだ。

ある意味走馬灯という表現はあながち間違いではないのかもしれない、YoUという存在は今この時消滅したのだから。


だけど自殺志願者が死を目前にして死をためらうのと同じように、もう一つのアカウントがあるSambaがどうしてもすぐには消す決心が付かなくなってしまった。

僕は心のどこかで月さんが心配して連絡をくれないか期待してしまっている。

どちらかというとこの「自殺」だって気を引くための最期の一手という意味合いのほうが強い。

「自殺」したら残された人たちは僕のことをどうしてくれるんだろう。

観測することに興味があった。


だから僕はホームの切れ端と黄色い点字ブロックの間で立ち往生した。わざと。

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