制約
アルトリア達一行が皇帝に頼まれたポイントに向かう最中…
「そういえば、アルトリアさんって、ランクいくつぐらいなんだ?」
「……ランク?ですか??」
「そうそう!ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド、マスターとある中でのどのくらいなんだ?あっ、ちなみに俺はゴールドランクだけどな!」
えっへん!と胸を張って自慢をするイサム。
「私は冒険者でないので、ランク?と言うものは持ち合わせてはおりません」
「「「え!??」」」
イサム、ニーニャ、ルーサーが声を合わせて驚く。
その驚きにアルトリアも驚いたような表情を見せる。
「え!?アルトリアさん冒険者じゃないの!???あんなに強いのに!??」
「うちのお父さんと一対一で殴り会えるのに!???」
「そんなに驚くことなのですか?」
「そりゃー驚くよ!!ものすごい腕してるのに!!」
アルトリアはその3人の反応を見て、とある事をしていないことに気がついた。
「…そういえば、まだきちんとした自己紹介をしていませんでした。 私の名前はアルトリアと申します、家名はありません。スカルと言う地方の出身で、旅の吟遊詩人をしております」
「ぎんゆうしじん?」
「旅をしながら、その旅で起こった事を話して回る人たちのことですよ、ご主人様」
すかさずニーニャが補足説明を行い、ああ、なるほどっとイサムは納得する。
全く、イサムの痒い所へとすぐに手を届かせるニーニャは従者として立派であり、イサムには勿体無いような器の持ち主である。
「それにしてもすごいな〜冒険者でもないのに自在に槍を使えるなんて!!あれは誰からか教えてもらったの?」
「いえ、教えてもらったわけではないのですが…」
「ふぇ!?じゃあ、自分で編み出したの!??」
「いえ、そういうわけではないのですが……その、あまり言いたくないことなので…」
歯切れ悪く濁すアルトリア。
「そうだよ!イサム!!親しき中にも礼儀ありっね!!」
「すみません、アーサーありがとうございます」
フォローを入れてくれたルーサーに対して礼を述べる。
そのアルトリアの"アーサー"と言う言葉に対して、イサムは強い違和感を覚える。それは、その言葉をどこかで聞いたことがあるような、無いような、そんなホワッとしたような違和感であった。
「アーサーじゃあないよ、わたしはウーサー=ペンドラゴンで、先日はわたしの父親が迷惑をおかけしました」
ウーサーもアルトリアに対して、頭を上げる。彼女なりにやはり責任を感じているらしい。
実際、この皇帝からの直接の依頼もウーサーが自身らにできることは無いだろうか?と直接皇帝の元に出向いて取ってきた重要な任務である。
今回、ウーサーが取ってきた任務は、この警備を街中もボロボロで人員の足りていない帝都の防衛のために北の方の魔物の討伐を任されていた。
この時期、この季節になると各地の魔物達が繁殖期へと突入する。そのためいつもは静かに山の奥で篭っている魔物の達も食事を求めて下へと下ってくる。その強大な魔物のから逃げるためにどんどんと魔物が降りてきて、人里へと侵攻していく。
その一つの前触れとして、大量のダイアウルフの群などはいい指標になる。
そして、この〈ローマ〉も例外ではなく大量のダイアウルフの群がこのあたり一帯に溢れ始めていた。
その溢れ出したダイアウルフを処理するためにイサム達は北へと移動していた。
その途中、イサムはここの自己紹介も済ませ、自身の出生の地について多少喋った。
「そういえば、アルトリアさん」
「なんでしょうか?イサム??」
「…なんでアルトリアさんは"ルーサー"の事を"アーサー"って呼んだんだ?」
イサムは昨日の戦闘の時から気になっていた疑問を堪えきれなくなってアルトリアへと尋ねる。
アルトリアは、あーそうでしたね、という表情をして話す。
「私の故郷に…ルーサーさんと似た人がいまして。その方と姿が似ておりましたので…」
「あーなるほどね…それで間違えたのか」
このアルトリアが犯した間違えの知識を持ち合わせていないイサムは納得をする。そう、アルトリアは嘘をついていた。
イサムは知らないのだ、『ウーサー・ペンドラゴンの息子が、アーサー・ペンドラゴンである』と言うこの伝承をイサムは知らないのだ。
『アーサー・ペンドラゴン』と言えば、聖杯伝説で有名な5世紀から6世紀に現れたイギリス…ブリテンの王である。
その伝説はあまりにも有名で誰しもが知っている伝説であり、その伝説は多くの物語の下敷きにもなることが多い。
その伝説の中でも、最も有名で広く知られている伝説の聖剣がある。
その剣はとある石の台座に刺さっており、幾人もの勇者がその剣を抜きにかかったが抜けずに、アーサー・ペンドラゴンただ一人がその件を抜くことができたと言われている。
そう、その伝説の剣とは……「エクスカリバー」
「エクスカリバー」…その剣は一度抜けば、使用者に勝利をもたらす絶対の剣。
幾つもの戦いをその剣を使用して生き抜いた伝説の聖剣である。
この非常に有名な伝承を知らなかったイサムは、アルトリアが自分と同じく召喚された人間だということに気付けただろう。
そんな話をしていた直後、
「…!?イサム!!!」
「ああ、わかってる!!"サンダーウォール"!!」
直前で誰かからの襲撃を感知したルーサー、イサムはその誘導されてくるレーザー光線のような魔法に対しての回避行動をとる。
ルーサーはその予測される攻撃範囲の外側へとイサムはその光線を"サンダーウォール"を活用してニーニャと自身を包み込んで守護する。
「だれだ!!!」
攻撃を防いだ直後に襲撃者を探すが見当たらない。街がボロボロになっているせいもあるためか、襲撃してすぐさまに離脱した後のようであった。
「みんなだいじょーー」
「アルトリアさん!!」「ご主人様!!早く!!」
切迫した声のルーサーとニーニャの声が聞こえる。
何事かと急いでルーサー達の方を向くと、そこには左太ももと右脇腹から出血してうずくまっているアルトリアの姿がそこにはあった。
その場にいた全ての人間がその襲撃に気づいていた。当然アルトリアも気づいているような素振りを見せていた。
さすがに、あの大会の準優勝者を防壁で保護すると言うのはアルトリアに対して失礼になると思うし、距離も離れていたために"サンダーウォール"で包むということをしなかった。
しかし、そのイサムの考えは甘かった。そう、アルトリアはその誘導されてくる攻撃を回避することができなかった。
「ご主人様!!早くに治癒魔法を!!」
イサムはすぐさまアルトリアの元へと駆け寄り、治癒の上位魔法である"再生魔法"を行使する。
「…ぐっ…がぁあああああ!!」
アルトリアから今まで聞いたことのないようなが悲鳴が上がる。
「な、なんでだ!??」
イサムは始めての反応に困惑する。今まで治癒魔法をかけてきた相手はこんなような反応をしたことがなかったために混乱に混乱をしていった。
「…や、やめて……まりょく…を、流し込まないで!!!」
アルトリアは治癒をしていたイサムを蹴飛ばしてイサムの行っている魔術行使を無理やり中断させる。
「な、なにを!??」
「…うっ…ぐがぁっ…」
グシュゥウ、という音を立ててアルトリアの身体にできていた傷はあっという間に消えて無くなってしまう。
その光景を見ていた3人は身をすくめる。
「はぁ、はぁ…はぁはぁ…」
「ア、アルトリアさん…今のは一体…」
「すみません、イサム。迷惑をかけました。ここに感謝を」
イサムは今起こった事実の把握をしようとしていた。
今、目の前で怪我をしたアルトリアさんがいたはずだ。その怪我は左太ももと右脇腹にかなりの重症を負っていたはず、その怪我に対して俺は治癒魔法をかけたが、その行為をアルトリアさんは嫌がって突き飛ばされたら後、その傷は綺麗さっぱり跡形もなく消えていた。
何が起きてああなったのか気になるし、なんで自分を嫌がったのか、などと疑問が一気に溢れてきたのをグッとこらえて、アルトリアの心配をする。
「うん、いや、大丈夫なの?」
「はい、一応は、問題はありません」
「そ、そうなのか……それよりもさっきのは一体…?」
ああ、やっぱりそう思いますよねっと言ったような表情を見せながらアルトリアは立ちあがろうとするが、身体の平衡感覚がまるで機能していないかのような崩れ落ち方をする。
「おおい!!大丈夫か?本当に??」
「ええ、少々身体の平衡感覚がないものでして…」
「へ、平衡感覚がないって!???本当に大丈夫なのアルトリアちゃん!!」
「ルーサーの言う通りだぞ!アルトリアさん!!平衡感覚がないって本当に大丈夫なのか?やっぱり、今日は休んだ方がいいんじゃないか??」
心配をするルーサーとイサム。
「で、ですが…それでは、皇帝陛下よりの勅命を…」
「いやいやいやいや、そんな身体で狩りに行っても何もできないよ!!!しっかりと休まないと!!」
「ですが…」
「いいから!!」
結果、アルトリアはイサムとニーニャに説得させられてイサムの泊まっている中級宿屋へと送還させられたのであった。
@
「アルトリアさん大丈夫でしょうか?」
「あら?心配なの?」
「はい、少しだけは心配です」
「少しだけ…ってなんだよニーニャ」
「すみませんご主人様。あのようなお方が早々にくたばりそうにないものでしたから…」
ちょっぴり笑みを作ってイサムにすり寄ってくるニーニャ。その姿を見たイサムは、ちょっぴり安心したようであった。
「それにしても、どうしてあんなにアルトリアさんは皇帝陛下、皇帝陛下ってずっと言っていたんだろう?」
「確かに…アルトリアさんずっとその事ばっかり気にしてたな」
「好きなんじゃないでしょうか?アルトリアさんは皇帝陛下様の事を…」
「ま、まっさか〜」
「まーどっちにしても、アルトリアさんが欲しいのならイサムはもっと気をくばることね」
「な、なんだよ!!ルーサー!!」
そんなこんなで和気藹々とイサムたちは魔物大量発生地域へと赴くのであった。
その頃、アルトリアは…
イサムが手配した宿屋で歯痒い表情でそこにいた。
「劣・不敗の剣の時とは違って強烈ですね…やはり、ランクS級武具の"複製"は反動がでかいですね」
おぼつかない足で立つ上がって自身に受けたダメージと理念も理論もすっ飛ばしているイサムの魔力を体外へと吐き出させようとする。
イサムの治癒魔法ではアルトリアの傷を癒すことはできない。治癒を行うことができない大きな要因として上がられるのが
『アルトリアとイサムの魔術回路の作りにある、魔力波の干渉の影響によるもの』
アディアナもアルトリアに対して言っていたが、アルトリアの身体と魔術回路は大きく他の人間と外れた作りをしている。いや、確かに狐尾族であるから人外ではあるのだが、その事実を差し置いてもその身体構造、魔術回路は特殊であった。
アルトリアの身体が特殊なのは魔術師の家ならではの理由で、単に魔術師の親が自身の子供へと魔術を継承する為に必要な身体改造の結果と言うのが大きな理由になる。
そのため、"結果"重視のイサムの魔法ではアルトリアの身体を癒すことは不可能なのだ。
前にも説明したことだが、一定量の魔力を持ち合わせている人間であれば、必ず固有の魔力波と言うのを身体から発生させている。
この魔力波はその人間の鍵穴のような役割を担っており、対外から流れくる魔力の流れを鍵穴と合致しない限りは身体へと通さない役割も担っている。
これがイサムがアルトリアの事を治癒できない最大の要因である。
イサムから放たれている魔力波は非常に特殊でどのような鍵穴にでも適合させられるという類の稀有な物になっている。同時にこれは「どのような鍵穴を強制的にこじ開けられる」ということを意味している。
そう、イサムは通常の人間とは違った作りをしている人物の鍵穴を強制的にこじ開け開けさせたのだ。
当然、閉鎖的な魔力波を有しているアルトリアの魔力波は敏感に反応してその魔力を体外へと排出しようとして、逆にダメージを負ってしまう。
では、あのときイサムはどのようにすべきだったのか?
目の前で傷を負った人間が現れれば治癒をして早くに回復させてやりたいと言う気持ちはわかるが、その行為を行うのであれば『回復させる』と言う結果を求めるのではなく、『その人間が持ち得る魔力を活性化させる』という手段を用いるべきであった。
イサムが扱う"治癒魔術"…と言うより、イサムが行使している魔術全てに共通して「結果」を最優先に求める、理念も理論もガン無視の魔術の行使方法にも問題がある。
例えば、風邪を引いた患者が3人いたとしよう。その患者3人が医師の元へと行き、ろくな診察もせずに薬を貰うであろうか?いや、そのようなことはしない。きちんとその患者から話を聞き、原因に沿った対応をされる。つまり、一言に風邪と言っても、その対処は千差万別である。
すなわち、イサムが行っているのは、前者のように原因を探らないで、物事の治ると言う"結果"に執着した使用方法にも原因があるのだ。
イサムの魔術には共通して「念じれば、イメージすれば」その魔術を発動できるという特殊性能を持ち合わせている。これはアルトリアの扱う"千の魔術"と非常に酷似しているが、根底にある魔術理念が違っている。
アルトリアは伝承にある情報からそれに酷似した魔術を"千の魔術"でイカサマをして引き出して、顕現させると言う手段を持ち得て行っているために、その魔術理念が存在している。
イサムのようにただイメージするだけで特大魔術を完成させるようなスッカスッカな魔術とはわけが違うのだ。
しかし、イカサマをしてもその魔術を引っ張ってきているために大きな欠点が存在している。
その欠点は、今のアルトリアの「平衡感覚がない」と言う状況が物語っている。
アルトリアは『優・必中必殺の大槍』を先日使用している。その武具の能力は解説したと思うが、その武具は"固有空間固定"の魔術を有している。
そう、現状のアルトリアの"平衡感覚の喪失"は昨日イカサマをして使用した『優・必中必殺の大槍』の反動である。
このように"千の魔術"にはこのような制約の他にも、自身のその目で見たことがない魔術を行使した場合、使用後から再使用まで一週間の時間がかかるという制約があったりと、いささか不便ではある。
「劣・不敗の剣の時のような全身に痺れが走るときよりかはずっとましですね」
そう言って、アルトリアはベットに仮面とピアスをとって銀糸の狐尾族の姿で横になるのであった。
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ここはとある〈ローマ〉の一画に、二人の男がいた。
一人は太っており、もう一人はひどく痩せこけていた。
「…予定通りに彼奴等は、内乱を起こしてくれましたな〜」
「確かに起こしたがな…皇帝を排除できんではなかったか」
「落ち着いてくださいな、我々にはあの"黒龍"がおるのですから!!」
「そうだった!!そうだった!!頃合であろう、始めるのだ」
「御意に…この国を我が手に」
ちょっとうんちく
fateではセイバーが粛々と聖剣の台座の前で抜いていましたが、一説によると、たまたまその台座を通りかかっていたらそこに剣が刺さってたから抜いたみた。
と言う説もあるらしいです。




