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千の魔術に導かれて  作者: しろうとしろう
序章
24/26

その手で

 なんでこんな風な日になったのかよくわからない。


 唐突に現れた知らない怖い人たち、その人達が僕のお父さんを…


「…カルぺ、さーこっちにきなさい」


 少年は母親と思われる人物に抱きしめられる。


「なんだって、こんな日になったんだろうね…お父さんも……」


 大会から数日が経った今日、唐突に彼らの家は襲撃された。その関係を壊された。


 理由は一つ。皇帝派に従っている重臣の一人であったから。ただそれだけ理由で父さんは殺された。


 そして、母さんも僕を守るために自身の身を挺して、悪党から僕を救ってくれた。


「…母さん……」


「…大丈夫よ……カルペ、私は…ちょっと、疲れた…だけだから…」


「で、でも…」


「いいのよ、カルペッツェ。貴方は、母さんとお父さんに守られているんだから…」


 そう言い残して、少年の母親は永い眠りにつくのであった。

 それは幼い9歳の少年でも十分に理解が出来た。そして、少年は母親の死に泣いた。泣きじゃくった。


 母親の死を嘆いている少年に突如として何か不吉な"違和感"を感じた。

 今日の朝感じた"違和感"とほぼ同様な"違和感"を強く感じた。


 そして、その違和感は的中してしまう。


「動くな!!!」


 左腕を引きずっている男が僕の目の前に現れる。そして、その後すぐに、男は誰かの存在に気付いたらしく、僕を乱暴に抱き上げて向かってきた女の人との間で盾とする。


 何やら男と女、と言うよりは少女が言い争いをしている。そうしているうちに少女の右手より一本の槍が露わになる。

 そうして"直感"した。「あ〜この槍で…殺されるのだと…」そう直感した。

 その悪夢のような予想は現実のものとなり、自身の心臓ごと一貫きにする。


「……ばか…な…子供…ごと……」


 少女に全くの迷いは無いように見えた。

 人質も含めて貫くことに一切の躊躇は感じられなかった。


 不思議な感覚だった。心臓を貫かれたのに全然痛く無い。いや、心臓を潰されたことによって痛覚が消し飛んだのかもしれない。

 そんなことなんていいや、今は……


「……眠いや…母さん、父さん…」


 少年は目をゆっくりと閉じて眠りにつく。



 @



「な、なんでそんなことを!???」


「と、父さん!!!!」


 ルーサーとイサムは取り乱す。そして、イサムは自身のその正義感から「助けられたであろうその少年の命もろともウーサーを殺した」アルトリアが許せなかった。


「なんで、そんなことをしたんだ!!アルトリアさん!!」


 遅れてアスミスも合流する。そして、アスミスは一つの事実に気づく。


「??なんでと言われても、これが一番手っ取り早い方法でしたので…」


「そんなこと無いだろっ!!その子だって救えただろうっ!!」


 イサムはほぼ癇癪を起こしかけていた。アルトリアもそのことを察したのか一歩イサムから引く。


「助けられただろう…助けられただろうがぁあああああ!!!!」


「イサム、おちつけ!!」


 大魔力を放出し続けるイサムに対して、アスミスが抑えようと促すが、全く聞かない。

 そのまま剣を握りしめて、一歩、二歩とアルトリアへと近づいていく。

 そして…


 グゴーーーン


 金属と魔術で生み出された盾がぶつかった時の独特な音がなる。


「落ち着きなさい、ヤマダ・イサム!」


「うるせぇええええええ!!」


 我を忘れて、助けられたはずの命を助けずに殺し、罪を償うチャンスのある人間を抹殺したアルトリアが許せずにイサムはもう一度斬りかかろうとするが…


「……イサム、自身の胸を見てみなさい」


 唐突にアルトリアがそのような言葉を発し、胸元に強烈な違和感を感じて見てみると……

 そこには、一本の槍が突き刺さっていた。


「!????」


 その後すぐに闇がイサムを襲った。




「……っはぁっ!??」


 気付けばそこは見知らぬ天井でした。よくあるような異世界転生トリップであるようなネタであった。

 しかし、この使い古されたネタには、やはりロマンがたくさん詰まっている。

 だが、そんなような異世界トリップネタでは一切無いようだ。

 なぜなら愛し麗しいニーニャがそばにいるにだからな。


「ご主人様お目覚めのようで…」


「……ここは??」


「ここは、皇帝陛下が用意してくださったお部屋です」


 あたりを見渡しながらイサムは考える。


「ということは…ここは…」


「はい、宮廷の一区画の一部屋となっています」


「なるほど…。あ!そういえば、あの後どうなった???」


 身を乗り出して、ニーニャの手を掴んで息すら聞こえる距離まで接近するイサム。

 その急接近にニーニャは顔を真っ赤にしてしまう。


「…あ、あぅ……ご、ご主人しゃま〜ち、近すぎます…」


「あ、ごめんごめん。つい…。ってそんなことよりあの後どうなったの?」


「はい、簡単に説明いたしますと…」


 イサムが倒れたすぐ後にルーサーとニーニャも"槍で心臓を貫かれる"と言う幻覚を見せられて眠らされて、ここまで連れてこられたとの事をニーニャも今さっきルーサーから聞いたらしい。

 ルーサーもニーニャが目をさます数分前に目を覚まして、そのことを部屋の扉の前にいた衛兵たちに聞いたらしい。

 その起きたばっかりのルーサーは自身のお父親の身を案じてただいま屋敷を捜索中とのことらしい。


「ん?てことは??あの時の少年もルーサーの父親も両方とも生きてるって、ことか??」


「はい、ルーサー様のお話だとそう言うことだそうです」


「…なるほどな〜。存外いい人なのかもなー」


「え?ご主人様、今なんと?」


「ん?いや、なんでも無いよっ!それよりもニーニャ、お腹すいちゃったから、少しご飯にしようか?」


「…はいっ!!」


 猫耳と尻尾をフリフリしてひまわりのような笑顔でイサムに返事をする。

 その笑顔から感じられるのは、ただただの嬉しさといつも通りの主人が帰ってきたことの喜びに感じられた。




 時を半日ほど巻き戻す。


「アルトリア、さすがに少しやりすぎだと思いますよ」


 そこにはアルトリアとアスミス、倒れているウーサー、ルーサー、イサム、ニーニャの姿があった。


「…この程度は、普通では無いでしょうか?」


「いくら幻覚と催眠の魔術とはいえ、さすがに心臓を穿つのはどうかと思いますよ…」


「……そうですね。次から気をつけましょう」


「…次は本当に心臓を貫いてそうですね…」


「お望みとあれば…。それよりもここをお任せしていいでしょうか?アスミス」


「ええ、いいけれど?どちらへ?」


「皇帝に新たな一件の報告をしなくてはなりませんので」


「……なるほど、銀の聖杯はそう言う意味でしたか」


「はい、アスミスそう言う事です」


「確かに、私も皇帝陛下がわざわざあの銀の聖杯を用意する意味がわかりませんでしたが、そう言う事ですか」


「…通常であれば、聖杯は一器あれば十分です。あの大会の表彰の時に聖杯は二器存在していた」


「そうね、通常であれば優勝者一人に一器の聖杯を渡せば十分になる。しかし、それを皇帝陛下はなさろうとしなかった。それは、つまり………」


「ええ、皇帝は"銀の聖杯"を本来の使わせ方をしたかった。すなわち、酒を入れる"杯"として使わせたかったのです」


 アスミスは全て納得のいった顔をしてアルトリアを見送る。


 そう、皇帝カエテイルはアルトリアに渡した銀の聖杯を商社の証として使わせたかったのではなく、本来の杯として使わせたかったのだ。

 これをさせる事の意味は、そこに酒を入れて満たしてみれば自ずと分かる。

 器に溢れた酒を見て人は何を思うか?そんな事は誰かが言わなくたってはっきりしている。

 そうする事によって、アルトリアは皇帝とのパスを得たのである。


「やはり、アスミスよりも先に貴様が戻ったなアルトリア」


「ええ、それがお望みでしょうに」


「ははは、よくわかっているなアルトリア。それで?報告とはなんだ?」


「………なるほど、"千里眼"を通して見ていたのですね」


「もちろんだ!久々に興が乗ったぞアルトリア」


「それよりも、カエテイル」


「よい、知っておる。と言うより今さっき知ったばかりだ」


 アルトリアは少し驚いたような表情を見せる。

 千里先を見通せる透視能力を持ち、自身が望んだ時の未来を見せる事のできる魔術の結晶にして神秘の一品"千里眼"。

 これは現代では再現不可能と言われた神にも通づる魔法の一種。

 その千里眼が一体どの程度の事を知っているのかの興味がアルトリアにはあったが、今はそれ以上に大事な事を優先させる。


「それでは、隣国が攻めてくるという事も…」


「いや、それに関しては知らん。まぁ貴様がそのように思うのは無理の無い事ではあるがな。奴らが企んでいたのは、内部よりの崩壊と侵食って言ったところであろうから、3、4日すれば時期に姿を見せよう…。もっとも、この離反が失敗に終わったこの状況下で何ができるのかは楽しみだがな」


「なるほど、カエテイル。あなたが言うのであれば間違えないであろう」


「ほう、貴様人を見る目だけはあると見た」


「ええ、そのようです。守護者の半霊格(・・・・・・・)を持ち合わせている貴方に言われるのは光栄です」


 アルトリアの言葉でカエテイルの顔が、あたりの空気が一変する。


「貴様…いつ?」


「…気付いたのは今さっきです。私の唯一まともに扱う事のできる"解析魔術"ですら、捕らえられないその半霊格の正体に気付いたのは」


 皇帝はアルトリアの言葉に怯えているようにも見えた。


「思いもつきませんでしたよ、捉える事のできなかった半霊格の正体に気付くのは」


「っ…」


「気づくきっかけになったのは、貴方が私に銀の聖杯を手渡さなかった事でもしかしてと思いました。それからーー」


「やめろ!アルトリア!!!それ以上口にするのはこのオレが許さない!!」


 鬼のような形相でアルトリアを威嚇する。

 ここまですごい気迫を見たのは久々であった。


「わかりました、カエテイル。貴方がそのように言うのであれば、何も言いません」


「……そうか…」




 @



 イサムが目覚めた日の次の日。

 イサムたちは荒れた街を散策していた。ここ〈ローマ〉の街にはいつものような活気はなく、街全体は荒らされた街の修繕に励んでいた。


 離反を起こした冒険者や国に属している騎士たちは、ジーク=フリードが率いた冒険者連合によってあらかた確保、もしくは無力化に成功していた。

 無力化には成功したものの、この離反でここ〈ギリシア帝国〉の戦力は大幅に低下していた。

 その理由としては、国内にいた有力冒険者たちのほとんどが、ウーサー率いる反カエテイル派の人間であったためにかなりの即時戦闘力を失ったことを意味している。

 そして、その膨大な戦力喪失に加えて皇帝に付き従っていた軍部もこの離反に関わっていたために、その所有していた戦力の8割をロストしていた。


 このことを十二分に理解しているジーク氏は自身の揚げたて柄をほっぽり出して、ここ〈ローマ〉の修繕に励んでいた。


 さすがは、〈ギリシア〉内部における最大級の大会だった事はある。膨大な離反組冒険者を内部に抱え込んでいたせいで街の至る所がめちゃくちゃになっていた。

 そのほとんどの主要機関を破壊された上に、外からの侵略を阻止するために築き上げられていた防壁の一部が崩壊していたり、〈ギリシア〉内部の冒険者の管理を統括している組合(ギルド)本部までもめちゃくちゃにされていた。

 そのため街の完全復興には、最低でも3ヶ月はかかるだろうとされていた。


「…めちゃくちゃにされてたんだな…」


「はい、そうですね。ご主人様…」


 瓦礫やらなんやらが積み重なっている中央広場で、イサムとニーニャとルーサーがそこで1人の人物を待っていた。


「はぁ〜こんなことになるなんてね〜」


 ルーサーが「あーもーやだー」とこの街の惨状を観て、心苦しくなっていた。

 無理もないだろう。この美しかった街〈ローマ〉が瓦礫の街と化してしまった原因の張本人の娘なのだから致し方ない。


「ルーサー、あんま気にすんなって。幸い、この事件の首謀者がお前の父親だってことがばれてないんだし。壊れた物はいつかは戻るんだからって…」


「そういうけどさ…」


「だったらよ!こんなこと以上のことをルーサーがやればいいんじゃんか!!お前の父親以上のことを!!」


 イサムはルーサーのことを励ますつもりで言っているのであろうが、はたから見れば励みにも何にもなっていない。

 しかし、ルーサーはイサムからそんなことをかけてもらっただけでも嬉しいようであった。


 そんなじゃれあいをしていると、ついに待ち人が来た。


「おはようございます、イサム」


 鈴のような静謐な声がイサムの耳に突き刺さる。

 戦闘の時のような怖い声ではなく、優しい天使のような声であった。

 イサムはその声とその格好に思わず見惚れてしまった。

 見麗しい肩にかかる程度の金糸の髪に、どこかお嬢様を思わせるような服装に、つい見惚れてしまっていた。

 仮面があってもその美しい顔を思い出せてしまう。


(やっぱり、アルトリアさんは仮面つけてない方が幼く見えるな…)


 仮面を付けているアルトリアを見て、イサムは不意に気になって聞いてみてしまった。


「あの、アルトリアさん?」


「はい?なんでしょうか?」


「アルトリアさんはおいくつなのでしょうか?」


 イサムは出来心で、女性に尋ねて(・・・・・・)はいけない(・・・・・)質問をしてしまった。

 その質問をした瞬間にルーサーは露骨な引き顔をし、ニーニャはその引き顔を必死に堪えていた。

 質問をした瞬間に「しまった」と、思ったが後の祭りである。

 しかし、アルトリアは意外なことに引き顔と言ったような顔はせずにただただイサムを見つめていた。


「…はぁ〜。イサムさん」


「はいっ!?」


「そういうことを女性(・・)に対して、質問することは失礼ですよ」


「は、はい…」


「反省しているようなのでこれ以上言いませんが、気をつけるように。 それで、イサムさん?今日はなんのためにこちらへ?それにその装備は??」


 アルトリアはイサムたちのこれからどこか危険な場所へと向かうような装備を見て、疑問に思う。

 アルトリアはイサムたちのような装備はしておらず、ウチのバカ元海賊集団が選んだ服を着てきた。否、それしか持っていないのだ。


「?あれ?行ってなかったけ?これから、狩りに行くって??あれ?」


「はい、行ってませんでしたよ。ご主人様」


「言ってなかったわね、あの時」


 ジト目でルーサーとニーニャが横から睨みつける。

 実のこと、昨日の夜に奇跡的に会うことができたアルトリアに、イサムは皇帝に頼まれた「都市の防衛のために魔獣狩り」の件を伝えたつもりでいたが、どうやら伝えたつもりでもアルトリアには伝わっていなかったのであろう。


「そうでしたか…。私は大丈夫ですので、その狩りとやらに行きましょうか」


「え?でも、アルトリアさん槍とか持ってこなくてもいいの?」


「ええ、お気になさらず。私は私で戦えますので」


 そう促して一行はその場を離れる。

今更だけど、アルトリアの被っている仮面は顔上半分だけを隠すような仮面です。

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