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千の魔術に導かれて  作者: しろうとしろう
序章
23/26

必中必殺の大槍

新年あけましておめでとうございます。

今年も「千の魔術に導かれて」をよろしくお願いいたします。



「それでは、始めましょう。 イサム手はず通りに時間稼ぎを」


「了解!!」


アルトリアの指示を受けるとイサムはまたもや大魔力を放出して、ウーサーへと飛びかかっていく。

しかし、その攻撃には先程までのような大雑把なものでは無く、スキをつき難い攻めの型になっている。

おそらく、誰かの動きを見よう見まねで真似ているのであろう。その見よう見まねでも十分にウーサーを惹きつけることはできていた。


『…それにしても、あの勇者(バカ)は動きが良くなりましたね…』


アルトリアの頭の中に直接語りかけてくるアスミス。


『…そうですか?まだ毛が生えた程度にしか見えませんが…』


アルトリアもまたアスミスへ向けて同じく語りかける。

これは、"念話"と言う距離の離れた相手と会話を行う、基本的な魔術の一つである。

魔術師であれば、一度会った相手の固有の魔力波を記憶している。その魔力波に合わせて自身の魔力を若干の形質変換させて行うのである。


『まぁ、お勇者(バカ)は放っておいて、アルトリア。かなり打ち合わせた手はずとは違いますわね。当初の予定だと…』


『ええ、そうです。少々予定を狂わせられましたが、アスミスがこちらに来た以上、もう大丈夫でしょう』


アルトリア、イサム、アスミスがはじめに予定していた手段と言うのは、アスミスが到着するまでの数分間にイサムとアルトリアでウーサーを押さえ込み、なるべくウーサーを弱らせる、と言うものであったが、アルトリアの想像を超えていたウーサーに存外苦戦してしまった。

しかし、ウーサーは魔術師を2人と剣士を相手にするにはさすがに分が悪い、と言うのは認識しているはずだ。

故に、ここからは迅速に行動することが求められる。


『アスミス、イサムの強化(バックアップ)は任せましたよ』


そう言い残すと、アルトリアはその戦場から姿を消す。


「全く、アルトリアはわたくしにひどく面倒なことを任せましたね…」


文句を言いつつも空中に術式を展開させてウーサーを威嚇しながらイサムへの手厚い強化(バックアップ)を行う。

当然ながらウーサーもアスミスがイサムの支援をしていることはとっくの昔に気づいている。

イサムとウーサーの能力(スペック)面においてはほぼ互角であるが、ウーサーの方が経験という可視不可能な能力(スペック)が秀でているため優位に立っていたが、アスミスの登場によってその優位性を凌駕する支援がなされているためにほぼ互角といったところまで引き上げられていた。

そのためウーサーは是が非でもアスミスを早めに始末しなければならない。

魔術師(スペルキャスター)であれば肉薄してしまえば、勝ったも同然であるのだが、アスミスの強化によって強くなっているイサムを無視するのは自殺行為。もし、イサムを突破できたとしても、この場から姿をくらませたアルトリアが所持しているあの追尾してくる槍があるせいでなかなか次の攻撃に移れなかった。


(これは、このガキを早めに始末するほかないな…)


方針を定めたウーサーはアスミスを狙うかのような動きを見せて、イサムの注意をひく。

その一歩引き、アスミスを狙う動きにイサムはまんまと引っかかり、ウーサーと自身の間に築き上げていた間合いを自ら崩してしまう。


(よし、これで……)


「……っ!?」


アスミスをこの場よりノックアウトしようとした瞬間に正面より矢が3本直撃コースで向かってくるのに気付き、慌てて防御態勢をとる。


「へっ!アルトリアさんが定位置にいつたんなら。俺も本気で行かなくちゃなっ!!」


防御態勢のまま矢を躱したウーサーめがけて剣を持って襲いかかる。


「ーーくっ」


一段階レベルの上がったイサムの攻撃に苦悶の表情をしながら応戦し、チャンスを伺う。

今のこの状況であれば、イサムが圧倒的に優位性を勝ち取っている。

同じレベルの身体能力(スペック)に、魔術師による強化(バックアップ)、見えない位置からの正確な投射とウーサーは完全に後手に回るような状況を生み出される。


イサムの攻撃は時間が経つほどに強力で素早くなっていくのだが、その分攻撃がワンパターンになりつつあった。

それを見たアスミスは…


『アルトリア…そろそろ決めないとイサムが落ちますよ…』



@



『了解した。こちらも十分な量の魔力回復ができた』


アスミスよりの報告を受けたアルトリアは使い魔(サーヴァント)よりの共通視界を用いて現場の確認をする。


(…なるほど、イサムはワンパターンな攻撃を始めたのですね…。あなたの焦る気持ちと恐怖心はわからないでもないですが…もう少し、頭を使って戦ってもらいたい)


先ほどの攻撃から位置を変えた屋根の上に白い洋風の弓を持った金髪の少女がいた。

そして、その少女は弓を構えながら呟く。


「…距離は740m。風速、北寄りの風5m。敵の位置把握…誘導射撃…開始…」


少女の手に次々と矢が現れそれを放っていく。

すると不思議なことに一射放つ度に矢が3本に増えて不規則な挙動をとって闘技場へと吸い込まれていく。

射撃を始めてから数秒でイサムはあからさまな変化を見せてしまう。


(やはり、バカですね…彼は…。まあいいでしょう、あのウーサーの動きが止まったのであれば…)


ウーサーは突然の変化に最大級の警戒をして動かなくなる。

それと同時にアルトリアも膨大な魔力を使い始める。


「…『原典投影(プロト・ゼロ)』……『優・必中必殺の大槍(グングニル・プロト)』…」


アルトリアのつぶやきと共に一本の棒が現れる。

その棒の長さはアルトリアの身長のちょうど半分ほどの大きさをしており、その棒から放たれる魔力の量は非常に濃密で膨大であった。


「穿て、貫け、刺し殺せ! 『優・必中必殺の大槍(グングニル・プロト)』!」


弓より放たれた棒…『優・必中必殺の大槍(グングニル・プロト)』は真っ直ぐウーサーを目掛けて突撃して行く。


小競り合いの真っ最中であったウーサーはそのこちらへと直進してくる尋常ならざる魔力に気付きイサムを盾にしようとしたが、イサムは霧のように姿をくらませてしまう。


「…っ!なんていう魔力量!!」


全力で後ろへとバックして、全力疾走で襲い来るであろう衝撃に備えるために逃げる。

アルトリアの放った一撃は元々ウーサーがいた左腕あたりを通りすぎ地面に直撃し、辺りに爆風を撒き散らす。


「ぐっがぁああ!!」


爆発とほぼ同タイミングでウーサーが始めて痛々しい叫び声をあげる。


「何がを起こったのだ??」


唐突に苦しみだすウーサーを見て、イサムは困惑する。

それもそのはず、アルトリアが放った一撃はウーサーへは命中していない。

そう、当たっていないのだ。

それにもかかわらず、ウーサーは自身の左腕(・・・・・)から不自然に滲み出てくる血を抑えていた。


(……ほう、アルトリア…。かなり強大な魔術を有していますね…。これは"因果の逆転(パラドックス)"によく似ているが、少し違う。これは…)



「……"固有空間固定魔術"。これが『優・必中必殺の大槍(グングニル・プロト)』の最大恩恵。本来であれば、その対象の空間ごと固定できるのだけれども、そこまでは『複製』できませんか。しかし、"必中必殺"に相応しい恩恵であるのは、事実ですね」


アルトリアは自身の魔術への理解を再認識するとともに魔術宝石を口にして、魔力の回復を促進させる。

アルトリアが行った一射…『優・必中必殺の大槍(グングニル・プロト)』は、アルトリアが言ったように本来であれば、放った瞬間に相手のいた空間ごと固定させてその場に貼り付けさせて、そこへと必中必殺の大槍(グングニル)が襲いかかってくるものであるのだが、アルトリアの扱う"千の魔術(プロト・イディア)"ではそこまでの再現が不可能となる。

そのためにアルトリアが行える必中必殺の大槍(グングニル)は「相手のいた空間にあった部位に事実の逆転(パラドックス)を発生させて命中させる」と言うものであるのだが、空間を完全に固定出来ていないために命中精度は下がっている。

要は、"君さっきそこにいたよね?なら、この槍の一撃ここに当たってたよね。だから命中"と言うぶっ壊れの能力を保持していることになる。



「…まだ、空間固定が甘いですか、かなり強力な一撃であるのは間違えないですね。全く末恐ろしい人物です。貴方(アルトリア)は…」


その魔術を間近で見ていたアスミスはその魔術の正体を悟り、この戦闘の行く末を見守る。

イサムとイサムの付き人ルーサーとニーニャは何が起こったのか理解が出来ていないようであった。

この勝負の勝敗はほとんど先が見えていた。

左腕を潰された武闘家(モンク)一人に対して、無傷の魔術師と規格外(チート)の剣士、さらには大魔術で攻撃してくる槍使い(ランサー)と完全に詰みであった。

その事を悟ったのか、勇者(バカ)イサムはウーサーに語りかける。


「なぁ、ウーサーさん…。あんただってこんなことするような人間じゃあないんだろ?だってよ、右も左も分からない俺をここまで引っ張ってきてくれたじゃんか!!あの優しいウーサーさんに戻ってくれよ!!」


必死にウーサーを説得して、このような横暴をやめさせようと必死になるイサム。


「ルーサーだって、あんたに憧れて、俺と一緒に頑張ってるんだぜ。だから、あんただって…なっ」


ゆっくりとゆっくりとウーサーへと近づいていく。

イサムの目にはこのウーサーと言う男が善人にしか見えていなかった。それはこちらの世界へと呼び出された時からこの時も、イサムの目にはウーサーが輝かしい"正義の味方"に映って見えていた。


「!??イサム!!!」


ーーしかし、イサムは間違っていた。


「……がっはぁあ!??」


突如として、お腹に重たい一撃が打ち込まれる。

そう、ウーサーが腹へと一撃を加えたのだ。警戒を完全に解いてしまったイサムの失策である。


その直後にアスミスは反撃を加えるのだが、アスミスより放たれる無数の魔弾を全て使用可能な部位を用いて弾き、その場より姿をくらます。


「……やはり、あの弱り方は演技でしたか、あの状況であれほどの気を抜く人間がいるとは…」


『アルトリア、やつは西へと逃亡しました。方向から察するに港より再出発を図るようです。こちらは、イサムの治療をしてから追います!』


念話よりの報告を受けたアルトリアは、やはりあの甘ちゃん勇者(バカ)にあの場を任せたのが愚かだったと失念する。が、そのような事を言っている場合ではない。

ここで逃げられて再起を取られてからでは、取り返しのつかなくなるような予感がした。

全速力で西へと向かう。幸い、槍を一本作るだけの魔力が残っていたのが救いである。



アスミスは思いっきり殴られたイサムの治癒をしようとニーニャやルーサーよりも早くに駆け寄っていた。

そして、アスミスはそこで驚愕する。


(まさか!??あの一撃を喰らって、どこも傷付いていないですって!??どんな身体をしてるんですか!!魔術強化の保護もなく無傷だなんて…。アルトリアなら即死でしたでしょうね…)



@



左腕を庇いながらウーサーは西へと駆けていく。

しかし、一人の存在が後ろから急接近してきているのに気付き、路地を曲がったところで泣きじゃくっていた子供を捉えて人質として、急接近してきているであろうアルトリアに備える。

場所は闘技場(コロッセオ)から徒歩10分といったような距離。街は騒がしく、いたるところで剣撃の音、市民の悲鳴が聞こえてくる。


「はぁ…はぁ…。やはり、追ってきたな…アルトリア…」


「ええ、少し大変でしたよ。東側から回ってくるというのは…。しかし、ここまでだウーサー」


暗闇の向こう側からアルトリアの影がゆっくりと露わになる。

その格好はひどく見窄らしかった。

きていた翡翠色のドレスはボロボロで、その金糸の美しい髪もかなりきたなくなっていた。


「それ以上近づくなっ!!この子供がどうなってもいいのかっ!!!」


ウーサーはなきじゃくる子供を盾にして、アルトリアの歩みを止める。


「ほう、最期の足掻きがその程度か…ウーサー。そんな赤の他人の子供の命などどうでもいい。殺したければ好きに殺せばいい。私には関係のない人間ですから」


「…貴様、正気か??」


「ふん、死に損ないが他人の心配とはお笑いぐさですね…。そうだ、ウーサー。その子供を殺る前に一つ聞いておきたい事があります。 ルーマッシュや、ロッポを殺したのはあなたですか?」


「……そんな事を聞いてどうする?」


「どうするも、自分の知的好奇心に素直なだけです。 どうしても、気になりましてね」


ウーサーはアルトリアの調子を見て、自身の元へ引き込めるかもしれないと期待をする。

その期待は根拠のないものであったが、そのアルトリアの無慈悲さがその期待を生んでいたのかもしれない。


「…その二人の事は、わたしの計画には元からない…」


「なにっ!?」


そのウーサーの答えに予想外の反応を示すアルトリア。

そして、説き伏せようとした時、


「なるほど…そう言う事(・・・・・)か、ならば貴様に要は無い…。死ね」


何かの事実を把握し、ウーサーを用無しと判断したアルトリアはウーサーの心臓をその自身の盾としていた少年の心臓(・・・・・)ごと槍で貫く。


「……ばか…な…子供…ごと……」


ありえない。と、アルトリアの存在を否定するかのような表情で穿たれたウーサーと少年はアルトリアを見つめる。

すると背後から…


「アルトリアさーーーーん!!!アルトリアさーーーーん!!!」


追いついたイサムとニーニャとルーサーは穿たれている少年とウーサーの姿をはっきりとその目に焼き付ける。


「アル…トリア…さん?」

ブックマークや読者の方々の数が日に日に増えていって嬉しい限りであります。

これからも面白く、わかりやすいような作品にしていきたいと思っています。


今後ともよろしくお願いします。

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