ペンドラゴンと呼ばれる者
ウーサー=ペンドラゴン。
彼はこの〈ギリシア帝国〉において先帝からその実力唯一冒険者としてを認められた実力者であった。
ウーサーは若かりし頃からその先帝のことを助け、その先帝のために働いてきた。それは、ウーサーが先帝より受けた恩恵を返すために忠義を尽くしていたからなのかもしれない。
ウーサーは、先帝に「行け」言われた場所であれば、火の中、水の中、地の中とどこまでも行った。
「倒せ」と言われた者であれば、誰だって倒した。
自身に与えられた恩を返すべく頑張ってきた。
しかし、そんな先帝も長くは生きられなかった。
とある日、先帝はなぞの病気によって死に至った。その時にいた宮廷医術師の話を聞いたところ、皇帝の体には全身に黒い斑点が現れて死んでいたそうだ。
皇帝の死後すぐに次の皇帝が座についた。
その者カエテイル=パルステ。幼さを残すその表情、風貌、醸し出す空気感。誰しもがその少年の力を甘く見ていた。
皇帝の座についてから2年がたったある日、ウーサーは皇帝より呼び出された。
「なんでございましょうか。皇帝陛下」
「頭をあげよ、ウーサー=ペンドラゴン」
「ハッ!」
ウーサーはゆっくりと頭を上げる。そこには、2年前この国の党首として就いた時と変わらない顔立ちをしていた。
「…ペンドラゴンよ。このオレ様が直々に貴様に命を下す」
「ハッ!なんなりと!!」
この時ウーサーはウキウキであった。その実、先帝が亡くなってからというもの冒険者まとめ役としての仕事しかなかったために久しぶりの皇帝直々の命令は久しぶりである。
「ペンドラゴン…。貴様は、これより〈パルム〉地方においての冒険者組合の組合長として働いてもらう」
皇帝のそのセリフを聞いてウーサーは頭が真っ白になっていた。
無理も無い。皇帝が言った意味は「お前はこの地では役立たずだから、地方で頑張ってね」という意味を含んだ左遷であるからだ。
その皇帝の意見に対して、あんまりだとして多くの重臣が意義を唱える。
「彼は先帝の代から、陛下に付き従ってきた冒険者ですぞ!!その彼を地方に飛ばすなど、横暴が過ぎますぞ!」
「そうですぞ!皇帝陛下。この前も、ロデマール家の者を騎士団から追放したばかりではありませんか!!」
重臣からここぞとばかりに不平不満が飛び交う。どうやら宮廷通いをしていないうちにかなり国政は変化していると見受けられた。
「黙れ、ウジムシども。貴様らは誰に向かって申し立てをしているのだ?」
皇帝はその年に似合わぬような重圧で重臣どもを黙らせる。
ウーサーはここで素直に従わなければ、ここにいる人たちが粛清の嵐にあってしまうと察し、皇帝よりの命を承諾して宮廷を去る。
それから20年。この国は大きく変わってしまった。
カエテイルはあろうことか父親がやってきた事業を全て潰して、独自の政策を打ち出し、それを実践んさせた。
ウーサーが〈ローマ〉を去ってから1年で先帝の取っていた政治たいせは崩壊し、ありとあらゆる地域での表立った奴隷売買は禁止され、〈ギリシア帝国〉はカエテイルに独裁されるようになった。
そのカエテイルが皇帝になってからというものお金のめぐりが悪くなっていった。
そして、とある日膨大な魔力を所持した少年に出逢い。皇帝への復讐を誓ったのであった。
@
自身の企みが露呈したウーサー=ペンドラゴンは今目の前に存在する邪魔者を消滅させるためにアルトリアへ向けて、リグ・オンが行ったような突貫を仕掛けてきていた。
その突貫は見事アルトリアへと命中して背後へと吹き飛ばされる。
「っな!??」
唐突に吹き飛ばされたアルトリアさんを見てイサムは驚愕する。
「…その手は食いませんよ!アルトリア!!」
吹き飛ばされたすぐ後にアルトリアはウーサーの背後へと周りその槍で穿とうとしていた。
そのアルトリア目掛けて左ストレートが飛ぶ。
「っ!!」
ある程度は予測していた反撃にあい強制的に間合いを開かれる。
「あの時は、どのような手段を使ったのか不明ではあったが、今ようやく理解した」
今度はウーサーの方から一歩一歩アルトリアへと間合いを詰める。
「…あの時、おそらく君は"盾"なような魔法を展開させ、あたかも自分が殴られたように見せて、あたかも吹き飛んだような演出をする。しかし、実際は相手が殴り飛ばす直前に背後へと周り込み、攻撃の用意をする。周り込む時はイサムがやっていた魔法による光の屈折を利用したのであろう。察するに君は魔術士だな」
ウーサーは8割型正解に近い推理をしていたが、少し違う。
確かに"金山羊の円環"を展開して、殴られ飛ばされる演出をしている。事実そうして初撃をやり過ごし、相手の上ギリギリをすり抜けて背後から攻撃しようとしている。
8割正解である理由は言わずもがな"その過程において魔法は一つも行使していない"という点にある。
一般的に"魔法"とは2種類の意味を持っている。
一般の人が示している"魔法"と魔術師が示している"魔法"がある。
とりあえず、説明のために後者における"魔法"というのを説明する。
この後者における魔法とは、魔術師が一般的に「魔術における最高位の秘法」という意味での"魔法"と示す。
この魔術師が示す魔法と言うものの具体例を挙げると、"性転換"や"種族入替"、"並行世界移動"などと言ったような神秘を示す最上位魔術のことである。
そして、次に前者における魔法と言うのは、そのままで「魔力を用いた方法による神秘」という意味で魔術師が扱う魔術をただ単に魔法と呼んでいるだけである。
前者の示す"魔法"を魔術師は"魔法"とも"魔術"とも呼ぼうとしない。
なぜなら、彼ら、彼女らにとっては魔術とは、生きた証の証明でもあり、次世代へと受け継ぐ神秘であるからだ。
故に、一般的に広まっている魔術を魔術師は"魔法"とも"魔術"とも呼ばない。
「やはり、同じ手は通じませんでしたね」
アルトリアは槍を握り直して、予測される攻撃に備える。
「ふん、そんな貧相な槍で何ができるっ!!」
ウーサーは拳、脚へと"身体強化"を行う。それもただの"身体強化"の魔術ではない。
(!!?これは…ガルルド魔術!??)
アルトリアがその魔術の正体に気づいた時には、超加速でアルトリアに目の前へとすっ飛び、思いっきり殴り飛ばす。
「今回は手ごたえがありますね」
吹き飛ばされたアルトリアは、追撃を防ぐために軋むからだに鞭打って立ち上がる。
「肋骨2本に…内臓に損傷が…。それに円環が2枚も破られた…」
「ほう。私の全力の一撃を喰らって立ち上がる人間がいるとは思いませんでしたよ」
「ええ…この程度の…一撃で、倒れるほど…柔ではありませんから」
「そうですか、そうですか。強がるのもあまり美しいとは言えませんよ」
そう言って、さらに詰めてくるウーサー。
実際、余裕ぶって返していたアルトリアであったが、実際のところはギリギリのギリギリである。
(円環の残りはあと8枚。1日1枚回復するとはいえ、かなり辛い…。"千の魔術"の治癒能力も高さのおかげで命があるものだ、これが無ければ、おそらく死んでいた。 魔術宝石のストックは15個。これを使って次の一撃を凌ぐほかない)
ウーサーが加速し、マシンガンのような拳がアルトリアへと降りかかる。
その拳の数々を首の皮一枚のところで槍を使い、身体を使い交わしていく。
全ての攻撃に対して無駄のない回避をしていく。この回避のレベルは反射をすでに超えている。
そんな、死地の淵を寸分で躱しているアルトリアに対して、イサムはその恐怖に対して震えながら立ちすくんでいた。
「ご、ご主人様…」
ニーニャもイサムの隣で恐怖で震えていた。
「あ、ああ、わかっているよ。ニーニャ…。でも…」
「し、しかし!!このままでは、アルトリアさんが!!」
ニーニャの言うことはよく理解できていた。
このまま無茶な戦闘を続けていれば、アルトリアさんは必ず死ぬということを直感していた。
しかし、イサムは尋常ではないほどの猛攻を目の前にして、恐怖の奴隷と化していた。我が身の大切さ故に飛び込めずにいた。
ーーその時、一人の影がウーサー目掛けて突進していった。
「ル、ルーサー!??」
イサムが飛び出していったルーサーに気付いたのは、ルーサーの父親ウーサーに吹き飛ばされる直前であった。
「っ!!!」
飛び込んでいったルーサーはウーサーに思いっきり蹴り飛ばされる。
何か別の力が働いたようでアルトリアのようには吹き飛ばなかった。
「ルーサー!!なんて無茶を!!」
イサムは恐怖の奴隷から解放されて一気にルーサーの元へと駆け寄る。
「だ、大丈夫か!??ルーサー!!」
「…ううん、私は無事だから…アルトリアさんを…父さんを…止めて!!」
ルーサーは泣きながら懇願する。
その懇願を嘲笑うように父親ウーサーは唸る。
「ッハ!なんて無様な、このペンドラゴン家の生まれでありながら、誰かに守られるなんてなっ!!」
思いっきり地面を踏み抜くウーサー。イサムはウーサーの発した"守られる"という言葉が反射的に気になった。
「どういうことだ!!守られるとは!??」
「あ?そんなこともわからないのかよ!!勇者イサムさんや!!そのままの意味だよ!!そのままの!! こいつは俺が蹴られる直前にアルトリアが張った盾に守られたんだよ!!」
そう、ウーサーの指摘は正しい。ルーサーがウーサーより蹴られる直前にアルトリアがルーサーの行動を察しルーサーに対して"金山羊の円環"を3枚張り、自身はウーサーより一撃くらい右腕が使い物にならなくなっていた。この時点で、アルトリアはルーサーに咄嗟に張った3枚の内2枚を破られ、かなりの魔力を磨耗、同じくして精神もかなり磨耗していた。
"金山羊の円環"は未だにその構造理念が理解できていないためにかなりの魔力を消費する。
魔術攻撃であれば、円環でなくても十分であるのだが…
しかし、この挑発に反応したのはイサムであった。
「き、きさま…」
「んーなんだってー?聞こえんぞ!!勇者様!!」
「ルーサーは…ルーサーは必死に頑張ってるんだ!今は守られてても、いつかは、いや、今だって……。ゆるさん!!」
何か触れてはならないものに触れられたイサムは魔力を大量に放出させて、剣を、『ウェーニー・ウィーディー・ウィーキー』を輝かせる。
「ルーサーは頑張っている。貴様に、いや、ウーサー=ペンドラゴンという人物に追いつくために頑張っている。今は決して守られるだけの人間じゃあない!!」
大魔力を放出しながらイサムはウーサーへと突っ込んでいく。
@
皇帝付き魔術師アディアナと皇帝付き従者ハサスの戦闘は、きらびやかで豪勢であった宮廷はそのほとんどが消え去り、後には灰と煤まみれの瓦礫の山と化すほどのものであった。
アディアナもハサスも両名以前として顕在しているが、ハサスはもうすでに満身創痍である。
ハサスとて魔術師に劣るような人材ではない。何しろ皇帝が直々に手ほどきをしてここまでの武人に育て上げた一流の武闘家である。
接近戦に有利な武闘家に対して、接近戦が不利な魔術師がこの戦いにおいて有利になる可能性はほとんどないに等しい。
しかし、実際は違った。
武闘家は接近戦が得意ではあるが、遠距離戦は苦手だ。この宮廷という会議られた広さしかない舞台であれば、武闘家が圧倒的有利だ。ならだろうするか?
答えは簡単だ。
『狭いのであれば、広くして仕舞えばいい』
そう考えたアディアナは宮廷の三分の一を吹き飛ばした。
比喩はない。言葉そのままの意味で宮廷を吹き飛ばした。
当然その場にいた関係のない人間も巻き込まれたであろうが、そのような被害を気にしていたら自分がやられてしまう。そのため無差別に吹き飛ばした。
それからの戦闘と言うのは一方的なもので面白みに欠けていた。
遠距離から高魔力を帯びた魔術の連射によってハサスを自身の元に近づけず、自身は空中からモグラ叩きゲームのような感覚で魔術を放っていた。
「もういい加減に諦めたらいかがですの?ハサス」
余裕の笑みでハサスを文字通り見下ろす。
「…いえ、この任務を任された以上冠水しなければなりません」
「そう、命令にはきっちり従うのね。それがあなたのいいところでもあったけれど……。それにしても、なぜあなたのような忠臣がカエテイル様を裏切ったのかしら?」
アディアナの質問に対してハサスは口を紡ぐ。
どうやらカエテイルよりも尽くすべき主人を見つけてしまったのだろう。
「…其奴が裏切った理由は明白であろう」
意外なところより一声が上がった。
その声の先を見るとワインを片手に玉座に座る皇帝、カエテイルがそこにはいた。
「なに、訳なんて簡単よ。このオレがこやつを拾った時には、オレの父親の紋章が入った奴隷証明と契約呪を見たからな」
「…まさか…」
「そうだとも!!元よりこやつは先帝の奴隷なのだよ!!」
「…っ」
そこまでバレていたのかと、ハサスは自身の考慮の無さを嘆く。
「死して嘆くがよいぞ、ハサス。貴様をその奴隷と言う身分から解放してやったその恩を仇で返した報いとして、このオレ様が直々に潰してやろう。 さぁ、オレに殺されることを死の誉れとするが良い!」
カエテイルがその玉座から一陣の風とともに降りる。それと時を同じくしてハサスの首も地面に落ちるのであった。
「やはり、くだらん戦であったな…」
カエテイルは赤く炎によって明るい街を見ていた。
その横顔はどこか悲しさが感じられた。
カエテイルの悲しさなど知らず、イサムは剣をかざして日本人らしく突貫を敢行していた。
「ウラァアアアアア!!!」
「ふんっ!!」
イサムの勇ましい突貫もウーサーの前では一払いで蹴散らされる。
「ちっ…」
「弱いな…イサム。貴様の戦闘レベルはその程度なのか?隠しているなら遠慮なんて要らないんだぞ」
言われなくたってイサムは全力全開の攻撃をウーサーへとした。
ウーサーは先ほどの一撃がイサムの全力全開の攻撃であると知っていてわざとイサムを挑発する。
イサムには基本的に煽り耐性がほとんどないに等しい。
それ故に…
「まだまだぁぁああああ!!!」
またもや無防備に突貫する。
やはり、お頭が少しばかり弱すぎる。しかし、先ほどのようなスキを丸出しというような突貫では無く、誘い受けを狙ったような突貫であることにウーサーは気付き、その攻撃を流す。
しかし、そのウーサーの采配は間違えであった。
その容易い挑発染みた誘い受けの攻撃に乗っていれば、第三者の攻撃に早くに気付きていたであろう。
「"巨神兵の神槍"!」
上空より神格の焔を宿した焔の柱が降り注ぐ。その直撃をウーサーは気付かずに喰らってしまう。
イサムはアルトリアから直前に聞いていた通り、突貫後すぐに"加速"を使用して、その神槍の射程より離れた位置にいる。
「……遅かったですね、アスミス」
上空より灰色のローブに身を包んだ魔術師が降臨する。
「少々、魔術の構築に時間がかかりました。 それにしても、敵は健在ですよね?」
「ええ、まだ敵の主格はピンピンしてます。 それに、こちらの傷もすぐに治ります」
「なら、すぐにでも反撃に出てそうですね」
イサム、アルトリア、アスミスが並び神格の焔を払いながら現れるウーサーの前に立ちはだかる。
その3人の戦士の姿をニーニャとルーサーは指をくわえて眺めていた。
この自身らの運命を決める闘いを。
「それでは…手はず通りに!!」
ルビ修正
「パラレル・アウト→パラレル・イン」




