第二十八話 別れ道
『■ぇ、こ■■■じゃ死■■ゃうよ』『君の大■■人が居なく■る』
誰かの声がする
ここは夢の中だろうか……暗く何も見えない水の底で、誰かが語りかけてくる。
『孤独な■来が嫌な■ば、因果■流れを断■切って』『一つ■命が惜■いなら、運命■紡いで■いで新たな■を』
耳を澄ませても、まだハッキリと聴き取れない。鈴のような声……
『『選べる未来は一つだけ』』
『輝く未来を掴みたいなら、女神を信じ進むべき』『望む未来を掴みたいなら、神の力を信じないで』
選べる未来……これは、警告夢のような物なのだろうか……
『『過去なら未来を変えられる』』
◇◇◇
顔に当たる温かい光で目が覚める。ノアは永く悲しい夢を見ていた気がするが、その夢がどんなものだったか思い出せずにいた。
(なにか、大切な夢を見た気がするのに……思い出せない)
夢の記憶は泡のように消え去り、ノアの中には思い出せないモヤモヤだけが残った。
◇◇◇
うざったいくらいに明るい太陽の光が、採光窓から入り込み目の前をキラキラと眩しくさせる。
もう、学園へ向かわねばならない時間なのにノアは、玄関に留まっていた。
「……母さん、本当に大丈夫……?」
そう言葉を発したノアの顔が、あまりにも捨てられた子犬のようで、母親は呆れと愛おしさが混じったような……そこに少し、哀しさを加えたような、そんな微笑をノアにくれた。
「まったく……大丈夫よ。行ってほしくない気持ちが消えた訳じゃないけどね、母さんは、ノアの選んだ道を応援してる。」
そう言った後、母親は少し視線を落とした。ほんの少しだけ、笑顔が寂しそうに歪んだ。
「ごめんね、母さんは世間から見たらいい母親とは言えないのかもしれない。ノアは優しすぎるから、きっと私が言ったことをしっかり受け取ってその道を歩こうと頑張ってくれる」
母親はノアに、自分に言い聞かせるように、こう続けた。
「でも、そうじゃないの。私はね、ノア。あなたに自分の道を歩んで欲しいの。家族の事とか、お金の事とか……勿論それも大切だけど。もっと、色んな世界を見て、自分の可能性を増やして欲しい」
親という役割は、子供を見守り、時には休息地になるものだ。
そう、分かっていても。愛ゆえに正しいと感じる道を、僅かながらに照らしてしまうものなのだろう。先の見えない人生の中で、少しでも障害が無いように……
それでも、母親はノアに自分で選んだ道を進んでほしかった。
どんな暗闇も楽しめるように。
不格好でも、自分で作ったランプで人生を歩めるように。
「……いってらっしゃい!」
その声にもう迷いの色は無かった。
そんな母親の想いを聴き、ノアは、初めて自分自身の未来にも目を向けた。元より、兄としてシェリーの為に。そして、母親にこれ以上無理をして欲しくないと思い入った防衛隊。
けれど、それだけじゃない。
「……うん」
ノアは、小さく頷いた。
シェリーを救いたい。母親を安心させたい。その気持ちは、これからも変わらない。
けれど、もう少しだけ前を向いて学園生活を、仲間たちとの生活を、謳歌してもいいのかもしれないと、ノアはそう思えた。
学園で何が待っているのか。
どんな人と出会うのか。
魔女との戦いがどうなっていくのか。
未来のことは何も分からない。
それでもノアは、少しずつでも自分の正解を見つけていこうと思った。いつか、自分が歩きたいと思える道が見つかるように。
「……じゃあ、行ってきます!」
「ええ、いってらっしゃい!」
ノアは、扉を開ける。温かい朝の光が身体を包み込む。
その眩しい光に目を細めながら、ノアは一歩を踏み出した。




