第二十七話 過去に咲いた命
毎日投稿をやめた途端、自分に甘々になってしまって、ストーリーを考えるのは楽しくなったけど、投稿頻度が右肩下がり……
「…………コレ絶対、僕が持ってていいものじゃないよな……」
失われた歴史や偉人が記された本。普通、一般人が所有していていいものではないだろう。
そんな貴重な本をましてや床に置き、上にゴミの山を作っていた自分に冷や汗が止まらなくなっていた。
(…………でもこれ……どこに持ってけばいいんだ?)
ノアはどこに持ち込むべきか場所を考えながらページをめくる。貴重なものだと分かると身体に妙に力が入ってしまう。
ページをめくるとそこには、縁筆からインクが溢れ出し異形へと変わっている挿絵が描かれていた。今朝、この本を見つけたときに開いたページだ。ノアは(あ……このページ結構最初の方だったのか……)と文字の方に目を向ける。すると、ノアの目に、一つの記述が飛び込んできた。
「……魔具による疑似使役獣の作り方?」
使役獣、異国の昔話に出てくるような人に従う魔獣のことだろう。
(……作れるのか?)
魔獣は分かる、禁術扱いだが、錬金術の類で作れるだろう。それでも、人に従う使役獣を作れるなんて聞いたこともない。
(この挿絵は、魔獣を召喚……作ってる? 絵だったのか)
ノアは隅に描かれた絵を見ながら概要に目をやった。
───
一、魔具による疑似使役獣の作り方
【管理区分︰変身術 公開】
【概要】縁筆によって変異症が現れた体の部位に一定の魔力が溜められていることを確認した研究員によって発案された召喚術の一種である。ここから遠い東の国、幽冥に伝わる【式神】を参考に、変化の陣を改良したものを自身の変異症が現れた部分に直接刻むことにより、体の一部を別の生き物のように変化させることができる。この時変化部分を切り落とすことにより別行動を取らせることも可能となる。
───
「…………」
ノアは理解はできるが納得し難いというように顔をしかめた。
昔の価値観、という言葉で片付けていいモノなのか……竜と戦うために編み出された諸刃の技。だが、この時代の医療はまだ未発達で、痛みは勿論、失った部分も元には戻らないだろう。
(使えそうなものは全部使うって感じだったんだな……今残ってないってことは、すぐ使われなくなったんだろうけど……)
ノアは過去いた人達に思いを馳せ、過去の人々も魔女と戦っていたのだと空想に浸る。
……魔女が居ない。
ここまで読んでいて、魔女という単語が一回も出てきていないのだ。
竜災。
変異症。
精霊との協力。
戦術。
竜と戦うための記録はこれでもかというほど残っている。なのに、魔女だけがいない。
魔女が現れる前は、竜だけで人を襲っていた。そう考えてしまえば終わりなのだが、ノアたちが習う歴史の中では、魔女が現れてから竜災が始まったとされているのだ。
だがこの本では順番が逆さになっているように見える。
(……じゃあ、どこから?)
ノアはこの本では魔女がどこから出てくるのかが気になってしまい、魔法史という名を冠する本なら、絶対載っているであろう、とある事件を探すことにした。
その事件は、新暦五百七十二年に起こった。一人の賢者が魔女に殺害されるというものだ。
賢者が殺される。
それだけなら、魔女にとって脅威となる存在だったのだから、まだ理解できるだろう。
だがその殺され方が、問題だった。
彼女の死に様は、一部の芸術家のあいだで今に至るまで評価され続け、歴史の中で名を失った彼女のことを彼らは、「アリス」と呼んでいる。
「五百七十二年…………あった、きっとこれだ」
───
一、賢者ロゼ・ヘイズ惨殺事件
【概要】新暦五百七十二年 五月 二十六日 賢者ロゼ・ヘイズが、何者かによって殺害された。発見された時、彼女は自身が手掛けた薔薇庭園のガゼボの頭頂に串刺しにされ野ざらしになっていたという。
賢者ロゼ・ヘイズは齢二十四歳でその生涯に幕を閉じる。
───
「……何者かによって、か……」
ここでも魔女は出てこなかった。
ノアはきっと、後から魔女が関係してることが分かったんだろうと考えた。この本に書かれていることが事実だったとしても、歴史なんて長い年月のなかで少しずつ形を変えていくものだ。伝えられていくうちに、事実と認識が食い違ってくる事だってある。
そもそもこの時代の文献自体、数が少ない。魔女と竜の現れた順番が逆に伝わることだってあるだろう。
(まあ、そういうこともあるよな……)
ノアはそう結論づけた。
不意に、ふぁっと大きなあくびが出た。時間を見れば、もうとっくに十二時を回っている。
ノアはもう寝ないとマズいと目尻に浮かんだ涙を指で拭い、明日この本をどうするか決めようと鞄に入れた。




