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第二十二話 支え

 ノアの言葉に反応を示したのは、オスカーではなく、トーマスであった。

 彼は、貼ってあったイラストを剥がすとノアに差し出した。

 紙には、魔女のイラストと屍人という文字、そして古い新聞の切り抜きが貼ってあった。


「……屍人?」


 ノアは、新聞の切り抜きに目を向ける。目に入ったのは『魔女から回収された少女の遺体 跡形もなく消え去る』という見出しだった。


「コレは、今から丁度、七年前の記事です。そして、世間で魔女が目撃されるようになったのも七年前……だからこそ、ボク達はこの少女こそが魔女なのでは無いかと思ってるんです」


 説明し終えると、トーマスはノア達に「あなた達は、防衛隊の人だから魔女に興味が有るんですね」

と、つまらなそうに顔をしかめた。


「……その魔女のことを、もっとよく教えてほしいです」


 ノアは真剣にそうお願いした。だがトーマスは、それを断った。


「防衛隊の方々が欲しいような情報なんて無いですよ、たかがオカルトなんですから。とんだ無駄足でしたね」


 ノアは言い方を間違えたかと思い、今度はしっかりと、なぜ自分が来たのかを伝えようとした。

 ノアにとって、あまりにも言い難い、他人には踏み入ってほしくないとまで思っているシェリーのことを。

 ノアが言うのを躊躇っていると、トーマスは「用が済んだのなら、帰ってください」と冷淡に言ってきた。


「トーマスくん、そんな言い方したらダメだよぉ、それにノアくんが知りたいのは、魔女の事だけじゃなくてぇ、魔女の呪いについてもでしょぉ? エリオの件だよねぇ?」


 そう、オスカーが仲裁してくれた。だが、ノアは(別にここでの情報が無くてもシェリーを救うことは出来るよな……)と帰ろうとした。

 そんなノアの腕をルークが強く掴んで引き止めた。


「…………」


 ルークは何も言わなかったが、その瞳はノアの事を真っ直ぐ見つめていた。

 ルークはいつも、ノアが諦めそうになると横に立ってくれた。一緒に考え、時には道を示してくれた。


 今も、そんな気がした。


 ノアは椅子に座り、深く息を吸い心を落ち着かせると、ゆっくりと、言葉を選んで話し始めた。


「…………妹が、魔女に……喰われてしまったんです。エリオと、同じように……まだ、生きていて。その絵に、描かれている、半分竜の魔女が……妹を、襲ったやつなんです」


 ノアは、なぜ自分が魔女のことを知りたいのかをオカルト研究会のメンバーに伝えた。

 一瞬の沈黙の後


「あなたが、魔女の被害者だったとは思いませんでした。申し訳ありません」


 トーマスがそう頭を下げた。ノアは「分かってもらえて、良かったです」と、トーマスに対して笑顔を見せた。







 オカルト研究会が集めた魔女の情報は、どれも確かな証拠の無い、まさに都市伝説と呼ぶべきものばかりだった。


「……じゃあ、その消えた遺体が魔女なんですか?」


「いや、世間的にはこの半竜の少女が魔女ってことになっている。けど、ボク達はこの半竜の少女を、魔女では無いと考えているんだ」


 魔女では無い、では何なのだろうとノアは思考を巡らせた。

 今日、ノアは色んな人から魔女について聞いた。エリオからは、魔女は分身体を作る時自分の肉を使うこと。オスカーからは、都市伝説、魔女の呪いについて。カトレアからは……



──お兄様は、極秘任務として魔女の眷属、その一匹を倒しに行ったわ──



「……眷属」


 ノアが、ポツリと呟くとオスカーが「ノアくん、よく分かったねぇ」とニヤッと笑った。


「……そう、眷属だ。ボク達はあの半竜の少女は、魔女ではなく、魔女の眷属なのではないかと考えている」


 半竜の少女は、魔女では無いかもしれない。そんな確証もない情報に、ノアは縋りつきたい思いだった。


 だが、ノアの中にまた不安が降りてくる。

もし半竜の少女が魔女でなかったとしても、魔女と同じような能力を持っていたとしたら。

 実際に、もうシェリーは魂の半分を喰われているのだ。


──少しずつ、少しずつ、変わっちゃうんだって 人じゃない何かさ……──


 オスカーが言っていた都市伝説が頭の中を支配する。また、恐怖が襲ってきた。


 そんなノアを見て、ルークはノアの背中を優しく擦り「大丈夫か?」とノアに聞いた。

 ノアは、「うん…」と答えたが、作り笑いする事さえ出来なかった。







「……もし良かったらさぁ、また来てねぇ、ノアくん、ルークくん」


 ノアとルークは「はい、紅茶美味しかったです。ありがとうございました」とオカルト研究会のメンバーに頭を下げた。

 帰り道、ノアの頭の中は、魔女のこと、半竜の少女のことで埋め尽くされていた。

 

「もし、魔女と半竜の少女が同じような能力を持っていたら……シェリーは……」


 ノアはそう零した。ノアのその言葉にルークは、「気休めになるか、分からないけど……」とこんな話をしてくれた。


「魔女に喰われて生きてる人は、必ず身体の何処かに痣が出来るらしい」


 痣、シェリーに痣はあっただろうか。


「その痣から侵食していってやがて人ではなくなる」


「…………」


「その猶予は三年だ」


 ルークは「人伝で聞いた話だから絶対とは言えないけど」とノアに言った。

 猶予は三年。ノアはそれを聞き、泥沼の中に微かな光を見た気がした。


 シェリーが喰われたのは、ノアが小学生のときだ。

オカルト研究会が集めた情報


・消えた少女と半竜の魔女が現れ始めた時期が七年前で被っている

・この少女は、死体として回収されたが、他とは違い変死体ではなかった。

・だが回収から数日たったある日研究所から突然姿を消してしまう。

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