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第二十話 信頼

すみません、三賢者はミスです。五賢者です

「誰が、誰を殺すって?」


 ノア達の前に突然、件のイフリートが現れた。本当に、急な出来事だったので、オスカーは止まることが出来ず


──ジュッ──


「熱っ! あぁあ!鼻がぁ!?」


 悶え苦しむオスカーを、カトレアは潰れた芋虫でも見るような目で見たが、すぐイフリートに向き直り、臆さずに告げた


「アンタが!エリオとか言う奴を殺すって言ってんのよ!」


 イフリートがそれを否定しようとする前に、カトレアが非難し始めた


「アンタら魔人なんて……人間のこと見下してるくせに……騙して、騙して、騙して! 使えなくなったら見捨てるだけ。アンタらにとって、人間なんて……」


 カトレアは、決壊したダムのようにイフリートに罵詈雑言を浴びせかけた。

 それを聞いたオスカーは、カトレアに苦言を呈した。


「カトレアちゃん、君の言いたいこともわかるよ。お兄さんの件もあるだろうしねぇ、でもあの一件だけで全てのイフリート、ひいては魔人全体を悪者にするのは、違うと思うなぁ」


 カトレアはオスカーの言葉に、目を伏せた。何か言い返そうと口を開きかけたが、結局何も言葉が出てこなかった。

 そんなカトレアにノアはなんて声を掛ければいいか分からなかった。


「…………オレが、アイツに憑いたのは魔女の呪縛から生き(ながら)えさせるためだ」


 そう、静寂を切り裂くようにイフリートが言葉を零した。

 イフリートは、こう続ける。


「お前の過去を、オレは知らない……お前の兄貴が魔人に何されたのかも、知る由はない。だが、オレはエリオを騙さない。傷つけもしない。危険から、魔女から守ると、そう誓おう」


 カトレアは、何も言わなかった。怒りに満ちた瞳が、僅かに揺らいだ。


「…………」


 それでも、納得したわけでは無いのだろう。カトレアは唇を噛み、イフリートから目を逸らしてしまった。


 イフリートは「信頼できなくても、今はそれで構わない」とカトレアに伝えると現れた時と同じように突然消えてしまった。




◇◇◇




 カトレアは、今日の授業が終わるまでずっと暗い顔をしていた。

 何度話し掛けても上の空で、心ここにあらずといった様子だった。


「……カトレアさん……授業、終わったよ?」


 ノアは、授業が終わっても帰る様子のないカトレアを心配して声を掛けた。カトレアは何も答えず、ただ空を見ていた。


 何分経っただろうかカトレアが、ぽつり、ぽつりと昔話を始めた。



「お兄様がいたの、とても強くて、優しくて、大好きだった。」




◇◇◇




「あたしね! 竜災学園に入学したら、お兄様の事を助けられるように防衛兵に志願するの!」


 カトレアが十二歳のとき、自分の兄にこう告げた。

 兄のノエルは嬉しくはあったが、防衛兵が受ける負荷の重みをカトレアに話した。ところがカトレアは「そんなのどうってこと無いですの!」と言うと続けてこう言った。


「お兄様の役に立ちたいの、あまり家に帰ってこないし、たまの休日に帰ってきても傷だらけで……あたしお兄様に傷ついて欲しくないの!」


 アッシュフォード家は、古の五賢者の一人、ルナ・アッシュフォードの末裔である。

 賢者の末裔には、とある決まりがある。それは国立竜災(こくりつりゅうさい)防衛学園(ぼうえいがくえん)に入学したその日から、防衛隊に入隊すると言うものである。

 本来、肉体的に成長しきっていない中等部の生徒は防衛隊には入れないのだが、賢者の末裔は総じて皆、幼い頃から特質的な力を保有している。魔女に対する抑止力にもなるので中等部からの加入をほぼ強制されている。


 名誉な事だ。だが、ノエルは正直、カトレアに防衛隊に入って欲しく無かった。


「カトレア、別に防衛隊じゃなくても、お兄ちゃんの役には立てるぞ?」


 ノエルがカトレアに対してこの手の質問をするのは何回目だろうか、妹の身を案じての質問だったのだが……

 果たして、カトレアには防衛隊に入る志がしっかりあるか確認するための物だと捉えられていた。


「もちろん! 大丈夫ですの!お兄様!あたしは、しっかりお勉強もしてますし、身体も鍛えてますわ!今からでも、防衛隊に入る準備はバッチリですの!」


 そうカトレアが言うと、ノエルはいつも優しく笑ってくれた。


あの日まで。


 ある日ノエルは、極秘任務に就かされた。その任務内容は、魔女の眷属の一匹を倒すこと。

 カトレアは、自分も連れてってくれと頼んだが、まだ経験の浅いカトレアを連れて行くことは出来ないと、ノエルは首を横に振った。


「大丈夫よ! 私だって戦えるわ!」


「うん。カトレアが強くなってることは、お兄ちゃんもよく知ってるよ」


 そう言ってノエルは、カトレアの頭を撫でた。


「でも、今回はダメだよ」


カトレアは、「なんで?」とノエルに問いかけた。ノエルは、「それは……」と、少し考え込むように黙った。

 やがて、一人の人物について話し始めた。


「実はね、お兄ちゃん魔人と契約を結んだんだ。彼女は凄く強くてね、だから心配いらないよ」


 いつもの優しい笑顔だった。

カトレアは、心ならずも兄達を送り出した。


ノエルは、その日以来帰っては来なかった。


 行方不明という扱いらしい。だが、ノエルと一緒に任務に行った生き残りがカトレアにこう言ってきたのだ。


「ノエルさんの魔人が……ノエルさんを盾にしたんだ」


 カトレアは、周りの音が遠くなっていくのを感じた。




◇◇◇




「……私の元に戻ってきたのは、この剣達だけよ」


 カトレアは、自分の腰に差してある剣を撫でた。

カトレアちゃんは、お兄ちゃんが居なくなって防衛兵に何の魅力も感じなくなったので、戦士兵に志願しなおした

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