第十九話 神憑り
グレイヴ先生は、軽く風景画を描いて仕事に戻りました
「先輩、動かないでくださいよ」
オスカーは、デッサンモデルをしているようで、自身の縁筆を構えポーズをとっていた。
オスカーは、「えへへ ごめんねぇ」と謝ると、改めてポーズをとり、ピタリと静止した。
ノアは、ポーズをとっているオスカーが、これまで見てきた彼と全く違う人のように見えた。
(……なんか、いつもより知的な感じがする)
ノアは、そんな自分の頭に浮かんだ言葉を、先輩であるオスカーに対して失礼だと、頭から追い出した。
ノアは、「オスカーさんを描けばいいのか?」と周りを見渡す。すると教室の奥にも人だかりが出来ているのを見つけた。
その中心には、もう一人のデッサンモデルがポーズをとっていた。
それは、炎を身体にまとったイフリートであった。
(えっ!? イフリート!? なんで?)
先ほど、エリオと居た時より小さくなっており、熱も感じない。
彼は、自分の筋肉を見せつけるようにダブルバイセップスをしていた。
イフリートを見ていたノアに声が掛かった。その声の主は、美術教師のヴィンセント・モローだった。
「やあ、ノア君。噂はかねがね聞いてるよ! 家族のために入学し、新入生にして竜の動きを止めた。さらには、守護の壁のリーダーと知り合いときた! なんて素晴らしい! 悲劇的でいて喜劇的だ! 君はこれからも劇的な人生を送るんだろうね……」
ノアは、一気にそんな事を言われ、少しパニックになり、「え?……あ、ん? あ、ありがとうございます?」としか言えなくなっていた。
ヴィンセントは、「うんうん」と頷きながら笑うと「今日は、デッサン授業だ」とデッサンに必要な物を一式ノアに貸し出してくれた。
「ノア君は、オスカー君を描くかね?」
ヴィンセントが聞いてきた。ノアは、「はい!分かりました!」そう答えた。
オスカーは「おっ!いいねぇ!」と言いたげに顔を綻ばせた。
ノアがオスカーを描き始めようとした時、オスカーが小声で「ノアくん、ノアくん」と言ってきた。みんな同じ距離にいるのに、小声で言っても意味がないのでは……と思いつつ、ノアはオスカーの方を見る。
するとオスカーは、こんな事を言ってきた。
「ノアくん知ってるぅ? イフリートがねぇ、エリオに取り憑いたらしいよぉ!」
ノアは目を丸くした。魔人が人に憑くことがあるのは、知っていた。だがまさかエリオに取り憑くなんて。
「エリオは、大丈夫なんですか?」
ノアは、そう尋ねた。オスカーは、その問いに答えようとするのだが
「大切な話の途中申し訳ないが……今は私のレッスン中だ……」
とヴィンセントが悲しそうに言ってきたので、この話は中断された。
◇◇◇
「……よし!」
ノアは、オスカーを描き上げた。一番遅くなってしまったが、我ながらよく出来たとノアは自画自賛するくらいには、うまく描けていた。
はずだった。
「オスカーさん、出来ました」
オスカーは嬉しそうに「見せてぇ!」とノアの描いた絵を覗き込む。ノアは満足げに「どうですか!」とオスカーに問う。
オスカーは、色々と考えに考えた末
「…………呪いの絵画……?」
と言ってしまった。
それほどまでに、ノアの描いた絵は下手だった。ノアは「えっ!?」と首を傾げ、自分の描いた絵の何処がそう見えるのか自分の絵をもう一度見る。
そこには、しっかりとオスカーが描かれていた。
「オスカーさん眼鏡、新調したほうが良いですよ」
至極真面目にそう言い放ったノアに、オスカーは本当に、自分の目の方が悪くなったのかと思ったが、ヴィンセントがノアの絵を見た時に「ヒィッ」と小さく声を上げていた。
(……やっぱり僕の目が悪いわけじゃないよねぇ)
オスカーはおかしいのはノアの方なのだと確信した。
「あ〜……ノア君」
ヴィンセントがノアに何か言おうと、口ごもりながらも話掛けてきた。するとノアはヴィンセントに同意を求めてきた。
「先生は、分かってくれますよね!? こんなにうまく描けたのに!」
ヴィンセントは渋い顔をしながら、「げ、芸術的だ……」と言葉を絞り出していた。
◇◇◇
教室へ戻る時、オスカーがさっきの話の続きをしてくれた。
「イフリートがエリオに憑いた理由だけどねぇ?大食いの一件でさぁ!エリオと意気投合したからなんだってぇ!」
ノアはそれを聞いて安心した。
憑いたというより友達になった。と言ったところだろう。
「良かった……」
ノアが安堵の声を出した時
「良くないわよ」
カトレアの声が響いた。
「……良くないって……カトレアさん、どういうこと?」
ノアはカトレアにそう聞いた。カトレアは、イフリート自体があまりいい魔人では無いと教えてくれた。
「下手すれば、そのエリオとか言う人、殺されるかも知れないわね」
カトレアがそう言ったとき、目の前にイフリートが現れた。




