第十八話 噂話
若干、錯綜してしまった…
「これは、都市伝説の話なんだけどねぇ?」
オスカーは唇に指を当て、話し始めた。
「魔女に喰われた人たちは皆、変死体として見つかる。それはノアくんも知ってるよねぇ……でも、ごく稀に死なない人間もいるらしいんだよぉ」
死なない人間……エリオとシェリーがそれに該当するのだろう。
オスカーは、もう一段階声のトーンを落とし、話し続ける。
「……でも、死ななかった人はねぇ……少しずつ、少しずつ、変わっちゃうんだって」
ノアは息が詰まる、これ以上聞きたくない。
そう思っているのに、言葉が勝手に口から漏れた。
「……な、何に…」
オスカーは笑っている。いつものように、人懐っこい笑みを浮かべて、けれど、その瞳だけは笑っていなかった。
「人じゃない何かさ…………その姿は、まるで生き物を溶かしたような見た目になるらしいよぉ……」
ノアの脳裏に浮かんだのは、シェリーの姿だった。もしシェリーが自分の見ていないところで化け物になってしまったら
ノアは浮かんだ考えを必死に否定した。
(そんな…こと……)
オスカーは、そんなノアを不思議そうに覗き込む。
「?………!?」
ノアの表情を見て、オスカーの顔から笑顔が消えた。
「……まぁ! ほら! 全部噂だからさぁ! エリオが人じゃなくなるとか、そんな事きっと無いよぉ……ね? ほら泣かないでよぉ…」
ノアは自分が泣いているなんて思っていなかった。ノアは、自分の目元に手を当ててみる。確かに少し濡れていた。
「泣いて、ないです……」
ノアは、そう否定する。
オスカーはそんなノアに「すごい泣きそうな顔してるからぁ! 怖がらせてごめんねぇ……?」と心配した面持ちで謝った。
ノアが、「大丈夫です」と言いかけた時、昼休憩終わりを告げる鐘が鳴り響いた。
「……ヤバいよ!ノアくん! お昼の時間終わっちゃうよぉ!早く食べちゃわないと!」
オスカーは、急ぎ、料理を口のなかに詰め込んでいく。
ノアも急いで食べようと思ったのだが……
「な…コレ、食べても大丈夫なやつですか?」
そこにあったのは、いろんな料理を一纏めにしたような、何とも不格好で、色味の悪い、お茶漬け? のようなものだった。
「僕の好きなものだけを詰め込んだ、オスカースペシャルだよぉ…………ノアくんのことびっくりさせようと思ったんだけど、ごめんね……」
オスカーは、さっきの事も含めバツが悪いのか、シュンとした顔をしていた。
ノアは、そんなオスカーを見て、要らぬ心配を掛けてしまったと思い、オスカースペシャルなる料理を、思い切り口に含んだ。
(色んな味がする……不味くはない…かな)
ノアのそんな行動に、オスカーの笑顔が少しだけ戻った。
「あはは、ノアくんハムスターみたいだねぇ」
◇◇◇
「じゃあ!僕こっちだからぁ! またねぇ!ノアくん!」
すっかり元気になったオスカーと別れ、ノアは自分の教室へと駆け足で戻っていた。
ノアが戻っている途中、担任のエレノア・グレイヴ先生に鉢合わせた。
「あら? ベルク君?どうしたの忘れ物?」
ノアは、「いえ! 昼食に手間取ってしまって……今から戻るところです」とグレイヴ先生に答えた。
グレイヴ先生は、困ったように「あら……」と言うと、ノアに今日の5限目は、美術だから別棟だと教えてくれた。
「へ!? あっ…すみません!」
ノアが謝るとグレイヴ先生は、「謝らなくても大丈夫ですよ」とにこりと微笑み、美術室までの案内を申し出てくれた。
ノアが「ありがとう御座います!」と伝えるとグレイヴ先生は、軽く微笑んだ。
◇
美術室に向かっている途中、ノアはある一つの教室が目についた。
『オカルト研究』
そう張り紙が張ってある教室。その教室の少し開いているドアの隙間、薄暗い室内にある手描き風のイラストが見えた。
その一枚のイラストに、ノアは足を止めてしまった。
(……なんで)
そこに描かれていたのは、あの日、シェリーと入ったあの洋館、そこで出会ったあの魔女だった。
「ベルク君? どうかしましたか?」
グレイヴ先生に呼ばれ我に返る。ノアは絵から目を離し、「いえ、なんでもありません」と笑ってみせた。
◇◇
美術室が近くなるとグレイヴ先生が「ベルク君は、美術は好き?」と尋ねてきた。
「魔法陣は、そこそこ描けますが……絵は、あまり……」
ノアがそう答えると、グレイヴ先生はふふっと笑い、自分もあまり得意ではないと教えてくれた。
でも楽しいから好きなのだと。
「私も美術室に着いたら、何か絵を描かせてもらおうかしら?」
そう言ったグレイヴ先生の足取りが、少し軽やかになった気がした。
そんなグレイヴ先生に連れられ、美術室の扉を開けると、なぜか「あ! ノアくんやっと来たぁ!」とオスカーの声が響いた。
魔女に喰われて、生きてる奴は化け物になる可能性を秘めているって事だけ覚えてれば大丈夫です




