第十七話 喰事
ぱくぱく
「人間にしては、やるじゃねぇか! オマエを侮ったこと謝罪するぜ!」
ノアは、二人から少し離れた左斜め前の席についた。というのも、イフリートのテンションが上がったせいで、ノアが居る席でさえ暖房を焚いているのか? と思うくらいには暑くなっていたのだ。近くにいた生徒たちは、暑さに耐えられず皆遠目から見ている
(エリオ、大丈夫なのか……?)
エリオのいる場所は、イフリートの真横だ、肌が焼けてもおかしくはない。だがそんな熱さ気にならないとでも言わんばかりに、エリオは料理を掻き込んでいる
「イフリートさんよお! そんなもんか!?ペース落ちてんぞ!」
エリオのその言葉にイフリートは、さらにボルテージを上げ。周りはもっと熱気に包まれていく。
(暑い……エリオ、本当に焼け死ぬんじゃないか?)
そんな事を思いながら見ていると、オスカーがカチャカチャと食器の擦れる音をさせながら両手にトレイを乗せ、料理を運んでくるのが見えた。
ノアは、すぐ立ち上がりオスカーに駆け寄るとトレイの一つを引き受ける。
「ノアくん!ありがとぉ! 良い席取れたぁ?」
オスカーは、クオッカのような笑みでノアに聞いてきた。ノアは「一応、見える位置は取れたんですが……」と、二人の周りが熱すぎてこれ以上近づけないことをオスカーに伝える。
すると、オスカーは「そっかぁ……」と少し残念そうにするも、エリオ達の戦いを目にした瞬間。その表情はパッと明るくなった。
「見てよ!ノアくん! なんかイフリートの方が苦しそうにしてるよぉ!」
オスカーに言われ、ノアもエリオ達の方を見る。確かに、イフリート側の皿の減り方が明らかに遅くなっている。
遠いせいで顔はよく見えないが、エリオはイフリートの方をチラチラと観察している事が分かる。
「もう終わりか?イフリート! 魔人様が情けない!」
エリオが言ったその言葉に、イフリートの手が止まる。それと同時に、周りの温度が急激に上がり始める。
「熱っ! あの二人周りのこと、何にも考えてないみたいだねぇ!?」
(エリオは、あの中で大丈夫なのか!?)そう、ノアが思った時だった。
食堂のドアが、勢いよくバンッと大きな音を立て開けられた。
入って来た人物は、顔色一つ変えずエリオ達の前まで行き「そこまでだ。やめろ」とイフリートの炎さえ凍らせてしまう様な冷ややかな口調で言い放った。
入って来た人物は、エドワード・レインだった。
エリオは、すぐに食べるのをやめた。
「っ………!? レイン隊長!お疲れさまです!」
一方、イフリートは尚も、食べ続けていた。そんなイフリートをレインは、一瞥もせずに無視し、エリオにこう告げる。
「エリオ、医療班が腕と身体を検査させろと、お前を躍起になって探しているぞ」
エリオは、またかよ!? と、顔を青くしていた。
イフリートはレインの言葉を聞き、眉をひそめ、やはり……というように深く唸っていた。イフリートは、「オマエ、やはり魔女に喰われたか?」と エリオに尋ねる。
エリオは、先ほどまで馬鹿みたいに騒いでいたイフリートが、真剣にそんな事を言うので「ええ!? 俺そんなにヤバい状況なの……?」と先ほどとは違う意味で青ざめた。
「う〜ん……やっぱり腕、ダメだったのかなぁ?」
ノアとオスカーは、心配そうにエリオ達のやり取りを聞いていた。
エリオの腕……ノアもエリオから聞いている魔女の分身体がエリオの右腕に巻き付いてきた、と。
「魔女は、やっぱり人を食べるのか……」
ノアは、無意識に口から言葉が溢れていた。その言葉にオスカーは、しばらく考え込むと、語りだした。
「そうだねぇ……巷では、魔女は人を食べる存在として語られてるよねぇ、でも……確かに魔女は人を食べる。そういう事件もあったみたいだしねぇ、でもぉ……」
「……でも?」
ノアは、固唾を飲み聞き返す。オスカーはいつもの調子で、ニヤァと笑った。
「魔女は、人間の肉を食べるんじゃ無くてねぇ、生物が持つエーテル……もっと簡単にいうと、生命そのものを『喰らう』んだよぉ」
ノアは、エリオの右腕を見る。切り落としたはずの右腕は綺麗に治っている。それでも、魔女に受けた傷は身体に残ったままなのだ。
ノアの頭に、エリオ、そしてシェリーの姿が浮かんだ。
(……魔女は、生命力を喰らう、か……治る…のか?)
オスカーは、深刻そうな顔をしているノアを見る。そして、一呼吸置き思案すると「これは、都市伝説の話なんだけどねぇ?」と魔女のオカルト話を始めた。




