第十六話 炎の魔人
「オレにも食わせろ!」
エリオの目の前には、頭の上から爪の先まで炎で覆われた大きな人型の姿があった。
エリオは一瞬、火事でも起きたのかと思ったが、周りの生徒は、こちらをみてコソコソ話をするだけで逃げる様子は全くない。よく見ると人型の後ろには尻尾らしきものが見える。
(ああ、なんだサラマンダーか)
エリオはそう思った。すると目の前の精霊は、身体を乗り出して「違う!」と口から轟々と炎を吹き出した。
その炎に焼かれ、エリオが頼んだ料理の殆どが、炭となってしまった。エリオは、そんな料理たちを見つめ、呆然としてしまった。
エリオが呆然としているのを見て、畏怖の念を抱いていると思ったのか、彼は鼻高々に自己紹介をしてきた。
「オレの名前は、イフリートだ! サラマンダーなどと一緒にするな!」
(そういや、精霊は心が読めるんだったなぁ……)と、思いつつ、エリオは「どっちも同じ炎の精霊だろ!それよかオレの昼メシ返せよ!」と怒りを滲ませ詰め寄った。
イフリートは、不服そうな顔をしながら、抗議してきた。
「オレとサラマンダーは、根本的に違う存在だ! それをお前たち人間は…… 精霊という言葉一つで片付けるな!」
イフリートは、そう言うと身体の炎を少し弱め、エリオの横にドカッと腰を下ろし、自身が炭に変えてしまった料理を律儀に食べ始めた。
その光景にエリオは、それ食うのかよと、笑いそうになるのをグッと堪え「……あとで返せよ」とイフリートに告げた。
二人のやり取りを遠くから見ている者がいた。オスカーだ。
オスカーは面白そうだから、と二人に近づいてみる。するとイフリートの周りは、サウナにでも入っているのではと思うほどに暑苦しい。
(エリオはこの暑さで平気なのかなぁ?!)
汗だくになりながらも、オスカーは二人に声を掛けようとする。
「熱っ!」
イフリートから飛んできた火の粉がオスカーの鼻頭めがけて飛んできた。ジュッと音を立てて焼かれたオスカーの鼻には軽い火傷の跡が残った。
「「ん?」」
その声に、エリオとイフリートが振り返る。二人の顔を見てオスカーは、吹き出してしまった。
二人ともハムスターなんじゃないかと思うほどに、頬をパンパンに膨らませながら目の前の料理を貪っていたのだ。
「なんだいその顔! ハムスターみたいだねぇ!」
オスカーは、ツボにハマってしまったのか、顔が真っ赤になるほど笑い転げ、過呼吸になり苦しそうに咳をしていた。
イフリートは、そんなオスカーを心配したのか、口の中身も飲み込まないまま「ふぉふぉふ、らいりょふは?」と問いかけてきた。
オスカーは、またも吹き出してしまう。
「そのまま喋らないでよぉ! 威厳どこにやったのさぁ!」
その言葉に、イフリートは目を見開く。オスカーは、(ヤバ!怒らせたかなぁ?)と思ったが、イフリートが、目を閉じるとオスカーの頭に直接イフリートの声が響いてきた。
『小僧、大丈夫か?』
オスカーは急な出来事に驚き、先ほどまでお大笑いは何処へやら、興奮した様子でイフリートに話しかけ始めた。
「わぉ! 思念飛ばせるんだねぇ!さっすが精霊!いや、イフリートだから魔人かなぁ? 思念なんて初めて受け取ったよぉ!こんな感じなんだねぇ!」
その言葉にイフリートは、得意げに口角をニッと釣り上げると、口の中身を一気に飲み込み、そうだろう!そうだろう!と、オスカーの肩をバシバシ叩いた。
暫くすると、オスカーの肩から煙が上がり次第に小さな火柱が出来上がった
「熱っ!熱い!熱いぃ!」
オスカーは、まるで舞でも踊っているかのように、くるくると回りながら火を消そうとしている。
エリオは、内心ほくそ笑んだが、自分の飲んでいた水をオスカーに掛けてやろうとした。
だが、それよりも早くイフリートが、水の魔術を使い火を消していた。
(は!? コイツ炎以外も使えんのかよ!?)
エリオは驚愕した。精霊学なんて、子供のうちに教えられることだけで事足りると思っていた。そのため、授業を取っていなかった。
だからこそ、エリオは精霊と魔人の違いを分かっていなかったのだ。
イフリートはそんなエリオに向かって、片方の口角を軽く上げやっと分かったか……と言いたげな何ともムカつく顔をしてきた。
「フンッ! 言っただろう!オレは根本的にサラマンダーなどとは違う!」
そう得意げに言うイフリートに、エリオはまた少しムカついた。
そして、畳み掛けるように、イフリートが、「にしてもオマエ、食べるのが遅いな」と言ってきた。
その言葉に、エリオの堪忍袋の緒が切れた。
コイツは勝手に飯をねだり、料理の殆どを炭に変え、挙句、食べる速度にまでケチをつけてきた。
エリオはこれを、挑発と受け取った。
「そんなに、俺の食べるスピードが遅く見えるか?」
エリオは、イフリートに向かって低く唸り声のように問いかけた。
「ん? ああ、オレと比べるとな、なに気にするな人間なんぞ、そんな物だ」
きっとイフリートは、言葉そのまま皮肉なんて一切込めずに、この言葉を投げかけたのだろう。だが、その言葉がエリオの逆鱗に触れてしまった。
エリオが叫んだ。
「…………だったら勝負だ! 俺とお前、どっちがより多く、より早く食べられるかのなぁ!」
◇◇◇
「ってわけぇ! 僕は、絶対勝てないからやめろって言ったんだけど……聞く耳持ってくれなくてさぁ!」
オスカーは、ノアにそう伝えた。ノアは、オスカーの肩を見る。三年生の制服は黒色のため分かりにくいが、確かに制服と髪が焦げていた。
「大丈夫ですか? 肩……」
ノアの言葉にオスカーは、顔を嬉しそうにほくほくさせ、ノアに顔を近づける。
「心配してくれるのぉ! 嬉しいよぉ!ありがとぉノアくん!」
これだけ元気なら、心配しなくても大丈夫そうだと、ノアもオスカーにつられ顔をほころばせる。
暫くすると、オスカーは思い出したようにスッと目線をメニューボードへ移す。ノアもオスカーの目線を追い、メニューボードを見る。本当に色々な種類の料理がある。
「そうだなぁ……僕のこと心配してくれたノアくんにはぁ! とっておきのメニューを頼んであげるよぉ!」
そう言うとオスカーは、慣れたようにいくつかのメニューを頼んだ。
「僕も一緒に食べるから、量は気にしなくていいよぉ。ノアくんは先に戻っててぇ! 僕が運ぶからさぁ!」
ノアは、オスカーに運ばせるのは悪いと思い、自分も運ぶと伝えた。
しかし、オスカーはノアに、「良いから、良いからぁ」と笑い、エリオとイフリートのバトルがよく見える席を取っておいて欲しいとお願いしてきた。
ノアはそれに了承し、良い観戦席を探しにエリオ達の近くまで戻っていった。
精霊と魔人の大きな違いは、神が手を加えたかそうでないか




