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第十一話 影

「いっっっっでぇぇぇえええええ!?」


 研究班が、エリオの腕から注射器を抜いた。エリオの腕が、少しばかり小さくなった気がした。


「ご協力、ありがとうございました!」


「勝手に取るなよ! めちゃくちゃ痛ぇんだけど!?」


「いやぁ、貴重なサンプルが取れて良かったねぇ!」


 オスカーが、研究班の言葉に便乗して楽しそうに笑う。


「お前の腕も真っ黒だぞ、抜いてもらえよ!」


「えぇ〜? 僕はラットじゃないから、遠慮しとくよぉ」

 

 そう、エリオとオスカーがじゃれ合っていた時、研究班の一人がこんな事を言った。


「…………アレ、これ普通の黒水と混ざって、何か別のものが入ってますね……」


 それを聞いてエリオが焦る。


「は!? 嘘だろ!? オレの腕に何が、入ってるんだよ!」


「それは、調べないと分からないですね〜。とりあえず、何か変わった感じは、無いですか?」


「…………今は、特に何も」


「そうですか……とりあえず、このままプールに行ってもせっかくのサンp…………いえ、プールは、黒水以外流せませんし、身体に異変があっても大変です。なので、腕の中身を全部、抜きますね!」


 研究班の顔が少し怖かったが、もっともなことを言っていたので、エリオは大人しく指示に従い、椅子に座った。

 ぼーっと空を眺め、天晴光砲のエーテル粒子が降るさまを見ていると、目の端に、ルークが斬った魔女の一部が映った。

 

(まだ動いてんのか……気持ち悪ぃ……)


 研究班が、魔女の一部を保存するためのガラス容器を持ってきた。

 このガラス容器は、玻璃の柩(はりのひつぎ)と言い、様々な魔法が施されている、外側には、堅牢の陣が描かれており、並の盾よりも頑丈な作りに。中には、物の風化を防ぐ為、闇と氷の精霊の力を借り、永遠(とわ)の陣が刻んである。

 研究班が、肉塊をガラス容器に移した。その時。


「うわぁ!?」


 魔女の一部は、バラバラと自壊してしまった。


「どうした!? 大丈夫か?何があった」


「ま、魔女の肉塊を、玻璃の柩に入れようとしたら、バラバラに……」


「……なんだ、そうだったか。魔女は、一度自分の身を離れた肉片であっても、簡単な指示なら出せるらしい。きっと、永遠の陣が出すエーテルに反応して自壊したんだろうな。」


「す、すみません!せっかく……せっかく皆さんが手に入れた、魔女に近づく手がかりだったのに……ごめんなさい!」


 一年生であろうか、新人っぽい研究班が、顔をぐちゃぐちゃにしながら謝った。


「あ〜あ! セシリアが一年生、泣かしたぁ!」


「はぁ!? 泣かせてないだろ!」


「怖かったねぇ、大丈夫だよぉ、魔女が分身体を生徒に紛れ込ませて杖を狙ってきてるなら、その内また来るだろうしねぇ。気にすることないよぉ」


 オスカーは、セシリアまでも玩具にして、楽しそうに笑っていた。





◇◇◇





「……ってなことがあったんだよ。それで、中身全部抜かれた残り物がコレってわけよ」


 エリオは、切り落とした自分の右腕を指さした。


「そんなことがあったんだ……エリオ、魔女は、人と全く同じ見た目だったのか?」


「そうだねぇ、見た目は普通の人間だったよぉ?」

 

 プールサイドから、柔らかく軽い声がした。


「うわっ……オスカーなんで来たんだよ」


「えぇ! 僕らの仲だろぉ? 仲間に入れてよぉ」


 オスカーという男は、そう言うとニコニコしながら、プールサイドから降りてきた。


「ほぉ〜……君がノアくん? ルークが血相変えて探しに行った子かぁ、ふぅ〜ん……思ってたより普通の子だねぇ!」


 オスカーは、グイッと顔を近づけてきた。


「あ、あの、初対面……でしたよね?」


「そうだねぇ! …………君は、ルークと違ってストレーt」


 ルークの話をしようとしたオスカーの頭を、エリオが思い切り叩き、ズルズルと引きずっていった。

 エリオは、ノアに『ルークは、男が好きなのか?』の(くだ)りは、話していなかった。


「酷いなぁ! 何も叩かなくても良いじゃないか!」


「しっ! 余計なこと言うなよ……ルークが怒るぞ」


「えぇ!? もうバレてるってぇ!あれぇ! 走って向かったんだろぉ?」


「それでも禁句だ!」


 ノアは、二人の話していることは気になるが、自分が入っても邪魔だろと思い、自分の黒水を抜きながら、空を眺めていた。


(いい天気だなぁ)


 ポタポタと指先から落ちた黒水が、足元の水面へ溶けていく。

 気持ちのいい春の日。魔女の影が濃くなっていることにまだ誰も気づかない。

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