夢の中
ーーーそれから雨は降り続いた。
ランプの灯りが、湿った空気にやわらかくにじんで、光っている。それはまるで夢の中、小さな星を散りばめたように。
市場や船には屋根が付き、あたりは雨粒が軽やかに弾ける音に包まれる。
強い雨の日は、少し低く重たいリズムで1日がはじまって、家の中は淹れたてのコーヒーや紅茶、湯気の立つスープやパンの焼ける香りが広がる。
その香りの中、織物や読書、手紙なんかを書くだろう。
霧雨の日は、ささやき声のようにやさしいリズムで、外へ出て畑仕事や船の手入れをして過ごすだろう。
あまりにも長く降り続く雨、洗濯物はなかなか乾かないし、靴はいつも少し湿っている。
それでも、この国の住人は、料理をしたり、服を繕ったりして、「この雨が過ぎるころには、きっと何か一つ出来上がっているわ」なんて思いながら、毎日が奇跡に溢れているかのように大切に暮らしている。
そんな穏やかなひとときが、何よりも贅沢だった。
地面はゆっくりと、眠りにつくように沈んでいく。
人々は家が完全に沈んでしまわないうちから、少しずつ形を変え、小さな引っ越しを始める。
窓を開けると、水面はもうすぐそこにある、「この家は、もうじゅうぶんに役目を果たしてくれたわ」と言って、最後の夜にはランプを灯し、そこで暮らす人々は、雨音に耳を澄ませながら思い出を語る。
それは慌ただしいものでない。まるで季節が春から夏へ移り変わるように静かなものだった。
霧雨の静かな夜には、水底の方から、かすかな音が届くことがあるかもしれない——
それは、いつかの使われなくなった古道を、
歩く“記憶”の足音なのか。
少し悲しい。けれど、美しい雨の国。
水は記憶を運び、思い出は雨に守られて、静かに眠っていく。ーーー
ノヴァは、窓を打つ雨音で目を覚ました。




