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雨の国  作者: Hoshino Yodaka
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9/14

貝殻と手紙




 昨夜、ノヴァはひとり自宅に戻ると、服を着替えて、灯りもつけずにソファへ身を預けた。


 長い1日だった。その日の出来事を断片的に思い出して、思考を巡らせた。



(明日、キリが来たら、もう一度あの滝を探しに行こう。ーーーキリは無事に帰れたろうか。ーーー明日も変わらず、ここへ会いに来てくれるだろうか。)



窓を打つ雨音は、途切れることなく静寂を満たしている。


 それから、ノヴァはそのまま朝になるまで目を覚ますことはなかった。



ーーー




 ソファの上で目を覚ましたノヴァは、体に残った鈍い痛みに顔をしかめながら、軋む身体を、ひとつずつ目覚めさせるように手足を伸ばした。



 横になったままの体で深く深呼吸をして、ゆっくりと目を開いた。


 切れ目のない夢の続きを、見ているかのようだった。


 ノヴァはソファから起き上がると、洗面台へ向かい、水を溜めて顔を洗った。

 洗面台に手をつくと、少しの間、俯いて揺れる水をぼんやりと見ていた。

 


 ふと、洗面台の隅に目をやると、綺麗な色をした小さな貝殻が目に止まった。



(、、これは、キリがここへ置いたんだな)



 キリは、気に入った貝殻を拾い集めては、自分の気に入った場所へ置いていく癖があった。まるで「ここにいたよ」とノヴァに話しかけるように。

 

 まだ少しだけ残っていた心のざわめきは、静かに解かれていった。



 ノヴァはその貝殻を手に取ると、クスッと笑みをこぼして、これまでにキリが置いていった貝殻と一緒に「Kiri」と彫られた木箱にしまった。



 言葉は少なくていい。

沈黙のあいだは、雨がやさしく埋めてくれる。



 雨の日は、動きやすい雨除けを着てフードを深く被り、外出する。今日のような優しい雨の日は、比較的過ごしやすい方だった。ノヴァはポットに水を入れ火にかける。お茶を入れるために湯を沸かし始めていた。



ーーコツ、コツコツ。

何かが、窓に当たる音がした。



 窓の方を見ると、一羽のカモメが窓の縁に止まって、ガラス戸をつついている。


 ノヴァは、すぐに窓を開けて、カモメを中へ入れてやった。風が吹きこみ、カーテンを揺らす。



「やあ、ブルー」


 そのカモメは、ブルーと呼ばれていた。



 誰がまいてやったのか、首にいつも小さなブルーの布切れが巻かれているからだ。彼は、住人から餌をもらう代わりに、家から家へと手紙や小包を運んでいた。



 ブルーは、ノヴァの腕に飛び乗ると、大きな羽を震わせ、綺麗に畳んだ。

 ノヴァは、ブルーが咥えていた小さな小包を反対側の手で受け取ると、顔に飛んできた水を、服で拭い、机の上にあったパンくずを食べさせてやった。


 小包が誰から送られたものなのか、送り主の名前を探してみる。軽く振ると中からカラカラと、何かが転がる音がした。


「、、、なんだろう」


 ブルーは、パンくずを食べ終わると、弾むようにして窓の方へと向かった。

 窓の縁に飛び乗ると、翼を大きく広げた。

広げた翼で風を掴むと、体は浮き上がり、滑るように雨の中を飛んでいった。




 ノヴァは、窓辺の椅子に腰掛けると、机の上で包みの紐を解く。


 そこには手紙が入っていた。



” 親愛なるノヴァ。マドレーヌを焼いたので、今日の午後、お茶を一緒にいかがでしょう。特別なことは何も必要ありません。ご心配なさらないで。匂いにつられてしまったのか、あなたのご友人もいらしてます。愛を込めてアイリス・ムーンフェル(Iris Moonfell)”



「、、、愛を込めて、Iris Moonfell」


 手紙を読み終えると、ノヴァは箱をひっくり返して中に残っていた音の正体を確認した。

箱から転がり落ちたのは、小さな貝殻だった。



「、、、キリのやつ、ここへくる途中で寄り道したんだな。ーーー今日は、探しにいけそうにないな。」



 ノヴァは、軽くため息をつきながらも、どこか嬉しそうに身支度を始めていた。





挿絵(By みてみん)

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