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雨の国  作者: Hoshino Yodaka
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4/14

忘却の雨


 木漏れ日の落ちてくる光はノヴァの上にも降り注ぐ。髪は光に当てられたところからシルクのように輝き、長いまつ毛から覗く瞳はキラキラと宝石のように透き通っていた。


 キリが魚を追いかけてバシャバシャと飛び跳ねる音が、少し離れたところから聞こえる。


 ノヴァは船べりを背にもたれ掛かり、カバンから一冊の本を取り出すと、パラパラとめくり写真の挟んであったところで手を止めた。

 そこにはノヴァに似た小さな赤子を腕に抱き、愛おしそうに見つめ微笑む女性の姿があった。

ノヴァに幼い日の記憶はない。


 浅くなった湿地に差し掛かったところで、ノヴァを乗せた船は止まった。

この湿地で取れる黒い大きな貝はキリの好物の一つだった。


「キリ、ここは俺たちが初めて出会った場所だ」

「キュ?」



ーーー群れからはぐれたキリは、まだ魚もうまく取ることができない雛鳥でひどく弱ってた。


”お前、ここに置いていかれたのか?”


 ノヴァは網からいくつか貝を取り出し、腰にしていた小刀で開くとキリの口元へと運んでやった。

キリは腹を空かせていたが、警戒してすぐに食べようとはしない。ノヴァがその貝を目の前で開き、食べて見せてやると、その姿をしばらくの間見守り、痺れを切らしたキリは目前に置かれた貝に勢いよく喰らいついた。


”たくさんあるから。好きなだけお食べ”


 ノヴァは、キリが自分の手から次々と貝を食べるのが嬉しかった。

 次の日も、その次の日も、キリはその場所にいた。


”どうして南へ渡らないんだ?”

ノヴァはキリを観察しながら独り言のように呟く。怪我をしている様子はない。


”お前、帰る場所が思い出せないのか?”


 そう問いかけた彼も、この場所からずっと離れられずにいた。

覚えていること何一つない。あるのは1枚の写真だけ。そこに写る女性は、自分のことを探しているかもしれない。そんな淡い期待を胸に、ずっと待ち続けていた。



 降り続く雨は、記憶とともに深い水底に沈んでゆく。

はるか古代の記憶から、誰にも語られなくなった歴史がそこに眠る。


ーーー


挿絵(By みてみん)




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― 新着の感想 ―
はじめまして。Xでpostにいいねをいただき、読ませていただきました。 キリ、かわいいですね♪ これからどんな展開になるのか楽しみです!
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