迷いの森
木製の足場を辿っていく。頬を撫でていた風は止み、どこまでも広がる静かな水鏡に、ポツポツと沈みかけた建物が浮かぶ。息を飲むほど美しいその景色に、ノヴァはひとり言葉にならない寂しさを感じていた。
船着場に近づくと、キリは止まっていたボートに飛び乗った。
バタバタと船は揺れ、静かな水面に波紋が広がる。
慣れた手つきで係船ロープを解き、ノヴァも船に乗り込んだ。
その小さな船には風を受ける帆や、オールがない。
「さあ、どこへ行こうか?」
キリは辺りをぐるりと見回すと、ある一点を見つめて、少し考え込んだと思うと、大きく羽を広げて船の先頭から飛び立ち、船出の合図をだした。
「キューッ!!」
大きな水飛沫が上がる。
ノヴァは、飛沫を片腕で防ぎながら、すぐにキリの進む方角に目をやった。
「キリ、迷いの森へ行くつもりなのか?」
すでに泳ぎ始めたキリは、ノヴァの声を気にもとめていない。
「はあ、、また迷子になっても探してやらないからな」
ノヴァは、船べりから少し身を乗り出すと右手を水面の近くへ広げ、ゆっくりと呼吸した。
船の動きに合わせ静かに波打っていた水面は渦をまき、うねり、躍動した。ノヴァの乗る小舟はキリの後を追うように動き出した。
何千という背の高い大木が、身を寄せ合い、濃い霧にあたりは包まれていた。空は大木の葉で覆われていて、その葉の隙間から光が落ちる。木々の間を色や形、種類さまざまな水草やコケが根を張り、見たことのない生き物たちも暮らしていた。
濃い霧に包まれる迷いの森。木々の間を抜けて、ノヴァを乗せた小船は森の奥へと進んでいくーーー




