びの、悪い夢をみる
……びの君……
ピピピピピピピ……
目覚まし時計が朝を告げる。
無意識のうちで僕は目覚まし時計のストップボタンを押した。
「あれ? 夢?」
目を覚ますと、見慣れた天井が目に入ってきた。
ああ、僕の家か……
僕、今まで異世界を旅していたような気がする……
何故だか、頭までボーっとしてしまう……
何でだろう?
朝、起きたばかりなのに……
ピピピピピ……
そっか、僕の目覚まし時計は、後ろのスイッチを切るまで、5分おきに何度でもなり続けるタイプだったっけ……
そうだ、誰かが買って……いや、作ってくれたんじゃないか……
あれ、そういえば、これを作ったのって、誰だったっけ?
思い出せそうで思い出せない。
……って、うわっ、遅刻しちゃうじゃないか。
僕はとび起きて制服に着かえて、リビングへと向かった。
「おはよう、びの」
「おはよう」
母さんに挨拶すると、妙な違和感を感じた。
何かが、いつもと違う。
そうだ、椅子が一つ足りない。
あれ? でも、誰の椅子だったっけ?
そうだ、覧の席がないんだ。
「あれ? 覧の椅子はどうしたの?」
「覧の椅子? 何のこと、びの?」
真面目な顔をして訊いてくる母さん。
何かの冗談かな?
「覧の椅子だよ、覧の椅子」
「ラン? 何の冗談? それとも、寝ぼけているの?」
「冗談を言ってるのは、そっちでしょ? 覧だよ。親戚の戻衛覧」
僕はむきになって母さんに伝えた。
「戻衛覧? 誰それ?」
「誰それ……って、母さん、冗談きついよ。父さんと母さんが引き取った子だよ」
何言ってるんだよ、まったく。
「引き取った? 何言ってるの? うちにはびのしかいないじゃない」
「え? 覧だよ? 覧?」
あれ? 何かがおかしいぞ?
「もう、しつこいわよ、びの。冗談は顔だけにして、早くご飯食べて学校へ行きなさい」
「どうしたんだい?」
父さんがリビングに入って来た。
「父さん、母さんが、覧のことを知らないって言うんだ。冗談きついよね」
「蘭? 花の?」
「もう、父さんまで。覧だよ。戻衛覧」
「ああ」
「思い出した?」
「最近のアイドルの名前かい? 私も知らないよ」
父さんまで、何を言っているんだ? 覧だよ、覧。
「最近のアイドルなら、母さんも知らないわ」
はっはっはっ……と父さんと母さんは顔を見合わせて笑いあっている。
どうやら冗談ではなさそうだ。
僕は怖くなって、リビングから一歩、二歩と後ずさりし、覧の部屋へと大慌てで駆け出した。
「覧!!」
覧の部屋の扉を開くと、そこには何もなかった……
覧の机がない。椅子もない。何もかもがない。
あるのは、何もない空き部屋のみ。
どういうことだ?
何が起きた?
どうして覧がいないんだ?
四つん這いになり、覧、覧と何度も呼びかけるが、姿は見つからない。
いつの間にか、床は涙で濡れていた。
ここにもいないとなると、あとは……
そうだ、おし入れだ。そこに覧がいるかもしれない。
僕は急いで、自分の押し入れを開ける。
……が、覧はそこにはいなかった。
覧はどこかへ行ってしまったのか?
「らーーーーーん!!」
叫んだ瞬間、暗闇に包まれた。
…………
……
「びの君、びの君」
暗闇の中で女の子の声がした。
僕は急いで飛び起きた。
そこには、覧がいた。
「覧、覧!!」
「どうしたの? そんなに大きな声をだして?」
見紛うことなき、覧だ。
姿かたちも声も覧そのものだ。
よかった。覧がいた。
覧に会えた。
「覧、どこにいたんだよ? 心配したんだぞ。元の世界に帰ったと思ったら、父さんと母さんも覧のことを知らないみたいだし」
「父さんと母さん? 寝ぼけてるの? びの君、ここは、ボクとびの君が買った、ジオフの世界の家じゃない」
「え? ジオフ?」
僕は周りを見回す。
そうだ、ここは覧と一緒に買ったジオフの世界の赤い屋根の大きなお家だ。
「ごめん、悪い夢を見ていたみたいだ」
「もう、ここはジオフの世界なんだから、しっかりしてよ、びの君」
そうだ、悪い夢を見ていたんだ。
だって、僕は……あれ? 僕は一体、ジオフの世界で何をしていたんだったっけ?




