びのと覧のセレモニー
「覧、そういえば、僕達って、今何してるんだっけ?」
「何って、会話でしょ? 変なびの君」
覧はクスクスと上品に笑う。
いや、そうなんだけど、そうなんだけれども。
あれ? ちょっと待って。
何で覧はあんなにも上品な笑い方をしているの?
悪夢から抜け出せて安心したせいだろうか?
覧が、いつもより100倍ほど可愛く、愛おしく思えた。
100倍?
なんで100倍なんだ?
何か頭がもやもやとする。
――び……君…………――
痛っ。
頭痛とともに、誰かの声が僕の中に響いた。
「どうしたの? びの君? 頭、痛そうだよ?」
顔を近づけ、心配する覧。
「悪夢のせいかな」
「大丈夫?」
覧のうるうるした瞳が僕の顔を映し出す。
「あれ? なんだかこの部屋、お酒臭くない?」
「ああ、さっきアルコール除菌したからかな? そんなに香り強い?」
覧は鼻をくんくんとさせる。
「アルコール除菌? なんで?」
「い……今、新しい研究をしていたんだ」
「新しい……研究?」
除菌をしなければならない研究って、なんだろう?
細菌学とか?
「うん、元の世界に戻る研究」
「もしかしたら、僕達、帰れるの? すごいじゃないか、覧」
あれ、でも、その研究は時間がかかるって言ったような……
アルコールの香りがきついせいだろうか、以前の記憶が曖昧だ。
「でも、まだ実証実験ができてないから、ボクが自分で人体実験しないとね。ボクだけ先に帰れたりして」
覧だけ元の世界に帰る?
「だめだ、覧、もう僕の目の前からいなくならないでくれ」
「もう、甘えん坊だな。びの君は。もしかして、びの君、ボクとずっと一緒に居たいの?」
「そりゃ、一緒に居たいよ」
「ずっと?」
「当たり前じゃないか」
そんなこと訊かれるまでもない。
「あの……ね、びの君、覚えてるかな? 実は、ボク、この前話してた、研究を成功させたんだ……」
顔を赤らめる覧。
気が狂いそうになるほど本当にかわいい。
「良かったじゃないか、覧。で、どんな研究?」
「びの君とボクが文字通り、永遠に一緒にいられるんだよ」
「僕と覧が?」
「うん、びの君とボクが」
「それって、どういうこと?」
「ほら、前にも説明したじゃない、『永久にハーモニー』っていう魔法だよ。びの君は深く考えずに、ボクの言う通りにして欲しいよ」
え? 前に言っていた、永久にハーモニー? 魔法? そんな研究あったっけか?
ダメだ。
アルコールのきつい香りのせいで、全く思い出せそうにない。
――びの君……て――
痛っ。
またさっきの頭痛だ。
この頭痛がするたびに、誰かに呼ばれている気がする。
「びの君?」
心配そうな顔で僕を見つめる覧。
「あ、ごめん、なんか頭痛がひどくて」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。話を続けて」
本当は頭痛が酷くて、覧の話どころではないのだが、僕はできる限り覧を心配させないように、平静を装う。
「えーっとね、今から、覧が魔法陣を描くから、まずは、一緒にその中に入って。お願い」
アルコールの香りのせいだろうか? それとも、覧が可愛くお願いをしてきたせいだろうか?
今度は何故だか、頭がボーっとして、覧の言う通りにしたくなった。
「覧と一緒に陣の中に入る」
言われたまま、僕は陣の内側に入った。
「ふふふ、結婚式のセレモニーみたいだね。この術式が終われば、びの君とボクとずっと一緒だよ」
「ずっと……一緒」
これでずっと覧と一緒に居られる。
「次に歌を歌うから、ボクが歌い終わった後、最後にびの君が誓いますって言えば完成だからね」
あれ? 覧は歌が下手だから僕の前では絶対歌わないって言っていたような気がする……
――びの君、……覚まして――
痛っ。
まただ。
また、あの頭痛が僕を襲ってきた。
「びの君とボクは、ずーっと一緒に、永遠の時間を過ごせるよ」
「僕が最後に誓いますと言えば、永遠の時間が過ごせる」
「そう、ずーっと一緒。びの君とボクは、不老不死の存在となって、千年の時が過ぎようとも、地球が滅びようとも、宇宙がなくなろうと、ずーっと一緒になるの」
「不老不死で、ずーっと一緒」
覧が歌い始める中、僕は覧の言葉を反芻していた。
不老不死で、ずーっと一緒。
不老不死で、ずーっと一緒……
「ラララ~永遠を誓います♪」
不老不死でずーっと一緒…………
「ボク、戻衛覧はびの君と永遠を誓います。そしてびの君も永遠を……」
僕の方を見て、言葉を待つ覧。
不老不死でずーっと一緒………………?
「誓いま……」




