覧の好きな花
あれ? 不老不死でずーっと一緒?
――びの君、目を覚まして!!――
痛っ。
「誓いません」
頭痛がしたと思った瞬間、目の前の景色がパーッと開け、僕は目の前にいる覧の申し出を断った。
「え?」
目の前にいる覧は、あっけにとられている。
「だから、誓いません」
僕ははっきりとした口調で言い直した。
「何で? 何で、誓わないの? びの君も、覧とずっと一緒に居たいって言ったよね? あれは嘘だったの?」
「嘘じゃないさ。覧とは一緒に居たい……でも、不老不死になって永遠に一緒なんてことは望んじゃいない」
「どうして?」
「だって、人は死ぬものじゃないか。永遠に一緒なんてあり得ないんだよ」
「あのね、永久にハーモニーは、びの君と永遠に居るために、ボクが何度も研究を繰り返して作り上げたんだよ」
さっきから何かがおかしいなとは思っていたけど、これでやっとおかしさの正体に気が付いた。
「君、本当の覧じゃないね?」
「何……言ってるの? びの君」
覧は怯えたような瞳で僕を見つめる。
「覧にそっくりな何かだ」
「何を言ってんの? ボクは戻衛覧だよ!!」
「いや、お前は覧じゃない。僕の知っている覧は、異世界に来ても、お花見をするくらい桜が大好きなんだ」
「そう、ボクは桜が大好きなんだよ」
その通りだと肯定する覧。
「じゃあ、本物の覧なら、答えてくれ。桜のどこがいいんだ?」
「それは……それはね……」
覧は次の言葉を紡ぎだせない。
「こたえられないのが、答えか?」
僕は問い返した。
「ぐぬぬ……」
目の前にいる覧は、僕のその問い返しにもこたえない。
「それなら、教えてやるから、よく聞くんだ」
「桜の散り際が綺麗だというのが覧だ。生命には限りがあることを知っていて、その限りがあるから生命は素晴らしいと言い切れるのが覧だ!! 覧は永遠を求めない。だから、お前は、覧じゃない」
僕と永遠に一緒だというお前は偽物だ。
「ふふふふふふふふふふふふ……はーっははははは」
覧の姿をした何かは、今まで聞いたことないようなダークな声で笑いはじめた。
「よもや、儂まで破れるとは思わなかったぞ」
「君、誰?」
「儂の名は四強。儂はお主が創りした心象世界の生き物だ」
「僕が……創った?」
「そう、主が大凶と戦った時にお主が最悪の想定の1つとして思い描いたのが儂」
「大凶……」
そうだ、全てを思い出した。
僕はあの時、大凶との戦いで、最悪のシナリオを二つ思い描いたんだ。
一つは、魔王四人の能力を合体させた魔王がいるということ。
そして、もう一つは……
「覧と離れ離れになってしまうことじゃろ?」
四強は諦めていない。僕を絶望の深淵に落とすことを諦めてはいないんだ。
四強の言葉から、そう判断せざるをえなかった。
「このまま目覚めず、偽物の覧と永久に楽しい夢の中で暮らしていた方が良かったのではないかの?」
「おあいにく様、僕は、偽物の覧といたって、全然うれしくない」
「偽物の覧を見て、あんなに喜んでいたのにか?」
外見はいつもの覧……いや、いつもの覧より、100倍くらい可愛かったし、アルコールのせいで思考がまとまらず、ぼんやりしていたから、嬉しくないって言えば嘘になるけど……
「まあ、良いのじゃ。主がこの心象世界から抜け出せば、ほどなくして、覧とお別れの時が来る」
「それはどういうことだ?」
「そのままの意味だ。伝説の通り、ヨンキョウを倒した勇者は、元の世界に戻れる」
「ハッピーエンドじゃないか」
「そう、四強を倒した主だけは、元の世界に戻れる」
主だけは?
「それって……」
「覧はこのジオフの世界に取り残されるのだ」
「なんで?」
「主が夢の中で偽物の覧と永遠に生きれば、本当の覧とは一生会えないストーリーとなり、主が、そのストーリーを拒めば、主だけが元の世界に戻れて、覧はジオフの国に取り残され、離れ離れになるというストーリーを創りあげたのじゃ。大凶は主がどう選択しようとも主に絶望を与え、屈服させたかったらしいのう」
「ふざけるなっ!!」
「だが、このストーリーは、大凶との戦いで主が自分から創りあげたストーリーじゃろ?」
どう転んだって、絶望するストーリーだと?
「ふざけるなっ、ふざけるなっ、ふざけるなっ!!」
「さて、ここから主はどう立ち向かう?」
どうもこうも、僕にどうしろっていうんだ。
「ふざけるなっ、ふざけるなっ、ふざけるなっ、ふざけるなっ、ふざけるなーーー!!」
「それは何に対してじゃ? 覧と離れ離れになるかもしれないと思った自分に対してかの? それとも、その残酷な運命を引き起こした大凶に対してかの?」
「全てに対してだ。僕は、こんな結末を望んじゃいない」
「そうか。この因果を受け入れることはできぬのか?」
「当然だ」
僕がそう答えると、四強は口元を歪め、にやりとした。
「そこで提案があるのじゃ、勇者びの。できぬのなら、ここは痛み分けというのはどうかの?」
「痛み分け?」




