オール1のびの(おとこ)
「儂も今、主の選択のせいで、存在意義がなくなりつつある。いわゆる瀕死状態じゃ。主も、覧と離れ離れになるのは嫌であろう?」
「僕にどうしろと言うんだ?」
「簡単じゃ。主は、儂がこの世界をやり直そうと目論でいるのではないかと思いさえすればよい」
なんだって?
「それって、もう一度時間を戻すということか?」
僕と覧に、また2101回目を続けろってことか?
「もちろん、それを望むなら、その世界でもいいだろう」
その世界でもいい?
「どういうことだ?」
僕は四強に尋ねる。
「主の好きな世界に作り替えるのじゃ」
「僕の好きな世界……」
僕は生唾をごくりと飲み込んだ。
「そうじゃ。『チートで俺TUEEEE―の世界』でも、『パーティーが全員女性のハーレムの世界』でも、『もう一度このジオフの世界』をやり直したいのであればそれもよかろう。もちろん、ファンタジーじゃなくたっていい。『学園ラブコメざまぁ』ものだって、『ホラー』ものだって、『未来からくるロボット』ものだって、主が望めば、儂が作り直してやる」
なんという甘い誘惑であろうか?
自分の思い通りの世界にかわるのだ。
僕が新しい世界をつくりだすことができるのだ。
僕の思い1つで神様のようなことができるのだ。
「かろうじて、今の儂には1度だけそれをする魔力が残っておる。どんな世界にするかは、主次第じゃが、また、もう一度覧と旅をすることができるぞ。もう一度……いや、0から異世界をやり直さぬか?」
「0から異世界をやり直す……」
「そうじゃ。最初からやり直すのじゃ」
今までの旅は、本当に楽しい旅だった。
覧には、いつも教えられてばっかりだったけど、とても楽しい旅だった。
そして、覧はいつも僕を信じて、僕が不安にならないよう、冗談を言ったり、僕に笑いかけたりしてくれた。
その旅をやり直すことができる……
「もし、それを断ったら……」
「言うまでもないこと。主だけ元の世界に戻り、覧はジオフの世界に取り残される。もう、覧と会えなくなっても良いのかの?」
その覧とまた旅ができるのだ。俺が考えた強くてニューゲームな世界で、覧と一緒に冒険が……
今までさんざん覧にはお世話になったんだ。
これからは僕が覧を引っ張っていくこともできる……
僕主導のゲームができるのだ。
覧と一緒に。
「はやく決断せよ。儂には時間がないのじゃ」
「それは……」
僕は色々な世界を自分の頭の中で思い描く。
「……できない」
僕は躊躇いながらも、はっきりとそうこたえた。
「なんじゃと? 本当に良いのか?」
「うん」
僕は、しっかりと頷く。
「覧と一緒にいれるチャンスを捨てるというのか?」
「そんなの僕にとってチャンスでもなんでないよ」
もし、強くてニューゲームの道を選んだとしても、結局君たち魔王の手のひらの上で踊らされるだけじゃないか。
「良いのか、主よ? 0から異世界をやり直せるのだぞ?」
「君の創った偽物の世界には生きない。僕は間違っていたとしても、覧と離れたとしても、僕は、僕の世界を、前を向いて自分のペースで歩く。それに……」
「それに?」
「それに、0は僕の数字じゃないしね。さようなら、四強」
そう、僕はいつだって、色々な意味で1なんだから。
「ふふふふふふふふふふふふ。自ら0は選ばぬか。それも一興。さらばだ、びの。元の世界に戻り、覧がいない世界で永遠に苦しむといい」
四強は負け惜しみをいうかのように僕に伝えると、光を放ち、散り散りに消えていった。
ああ、僕はもしかしたら誤った選択をしたのかもしれない。
心にわだかまりが残った瞬間、僕の意識はなくなった。
…………
……
「びの君、びの君」
耳元で覧の声がした。
目を開けると、そこには覧がいた。
『覧』……と、言葉を出そうとするのだが、うまく声に出せない。
どうやら、大凶と四強との連戦で、のどを潰してしまったようだ。
やっとの思いで言葉を紡ぎ出す。
ごめん、覧。この旅、僕は気絶してばかりだったな……
「良かった、無事で」
『覧』……声はでないが、口だけを動かした。
覧、ごめん。覧とは一緒に帰れないんだ……
……と潰れたのどで言いかけた時だった。
え?
覧の唇が僕の唇と重なる。
「言葉はいらないよ。びの君を今までずっと見ていたから。倒したんだね、四強を」
「覧?」
かすれた声でなんとか覧に問う。
覧の目からこぼれ出た透明の雫が、僕の頬を伝った。
その雫は、今まで生きてきて感じた雫の中で一番温かかった。
「命を落とすかもしれない戦いで二人とも生きてるって、すごいことなんだよ。びの君」
「覧っ」
僕はしっかり叫んだはずだ。
「お別れは言わないね。びの君と離れ離れになってもいつだって心は繋がってるから」
「覧っ!」
「ボクを守ってくれて、ありがとう。びの君」
「覧っ!!」
全くといっていいほどでない声で僕は叫ぶ。
僕が覧の手を握ろうとしたとき、僕の手は透明になっていた。
最後に見た覧の顔は、確かに笑っていた。




