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『旅野びの』と『戻衛覧』の異世界漂流記 ~ステータスがファンタスティック~  作者: いたあめ(しろ)


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エピローグ

 びの君、びの君。


 誰かが僕を呼んでいる気がした。


 目を開けると、自分の部屋で寝ていた。


 良かった、ジオフの世界から戻ってこられたんだ。


 そうだ、覧は?


 僕は飛び起き、あたりを見回す。


 僕の部屋に覧の姿はなかった。


「覧!!」


 大声で叫ぶが、返事もない。



 ぼろぼろになった制服のまま、覧の部屋へと向かった。


 覧の机や椅子はあるものの、覧の姿は見当たらない。


 部屋を後にし、リビングへと向かう。


「あら、自分からびのが起きるなんて珍しいわね。あ、今日遅刻すると、5日連続で遅刻だもんね……」


「母さん、覧は?」


 僕は母さんの言葉を遮り、覧の所在を問う。


「あら? そういえば、今日は見ていないわね。それより、びの、どうしたの? そんなに制服を汚して」


「制服のことはどうでもいいよ。そんなことより、覧がいないんだよ。行方不明なんだ」


「もう、そんなこと言って、母さんをびっくりさせるつもりね」


 実は覧の『どっきり』でした。


 それが真実であればどんなにいいだろうか。


 むしろ、そうあって欲しい。


 そんな淡い期待をもって母さんと家の中をくまなく捜したが、覧が見つかることはなかった――


「覧ちゃん、どこに行ったのかしらね……」


 本当に覧はどこへ行ったんだ……


 そうだ。


 鏡だ。


 鏡を覗きこめば、ジオフの世界に行けるかもしれない。


「お母さん、もしかしたら、覧は異世界にいるかもしれない」


「異世界? 何言ってるの? びの?」


「本当のことなんだ。もし、僕が戻らなかったら、異世界に行ったと考えて」


 僕は急いで玄関に向かい、鏡を覗きこんだ。


 そこには、自分の顔がうつっていた。


 動け、動け。


 動かし方は分からないので、鏡全体をいじくりまわす。


 鏡よ、ジオフの世界へ連れて行ってくれ。


 もう一度覧に会わせてくれ!!


 心の中で何度も何度も祈りながら鏡を覗いてもみた。


 しかし、鏡は僕の哀れな泣き顔を映し出すだけだった。


 茫然自失になった僕は、ふらふらとしたおぼつかない足取りで自室へと戻る。


 がらんとした部屋。


 もう、会えないのか、覧……


 ぼんっ。


 フラスコが爆発した。


 そういえば、覧はおし入れで研究してたって言ってたっけ……


 おし入れを開けると、そこには、僕が今まで覧につくってあげた、たくさんの折り紙があった。


 ああ、僕が折った折り紙、大切に持ってくれていたのか……


 さらに奥の方までみてみる。


 あれ? これって……



 僕は()()()をみつけ、あふれ出る涙を止めることができなかった。



 …………



 …… 








 24歳の覧へ


 覧、元気にしているかな?


 僕は元気だよ。


 手紙なんて小学校ぶりに書いたから、何を書いていいかわかんないや。


 もう、覧と離れ離れになって12年だね。


 ジオフの世界での出来事が、今でも昨日のことのように思い出されるよ。


 中でも印象的だったのは、魔法ギルドに所属する時だね。


 覚えてるかな?


 僕が独学で魔法を習得したら……って勧めた時、覧は『なんのために』ギルドに入るのか……って訊き返したじゃない?


 僕はあの時のことが忘れられないや。


 だって、目標って、もしかしたら、人生で一番大切なのかもしれない……って思えたんだもの。


 知ってるかもしれないけど、僕、大学受験失敗するんだよね。


 猛勉強して健康管理もしていたんだけど、1度目は勉強不足で。2度目は虫垂炎で。


 残酷な運命が定まっていたのだから仕方のないことだけど、結果的に僕は3浪するんだ。


 その時は世間から可哀そうな目で見られたんだけど、でも、僕にとっては全然なんでもなかったんだ。


 だって、僕は僕の目標のために、ただひたすらに頑張ったから。


 大学入学後、目標を達成するために研究を家で重ねた結果、ひきこもりになってしまうんだ……って、これも知ってるか……


 布団の中に閉じこもり、自分の才能の無さを責めたてて、死にたくなったんだけど、やっぱりここでも、人生の目標が役に立ったんだよ。


 ひきこもりのままでいいのか?


 ひきこもりのままじゃ、一生目標を達成できないぞ……って自分を奮い立たすことができたんだ。


 大学卒業後、資金調達のため会社を設立して、最低限の研究費を賄えたから、今日、会社を売り渡したんだ。


 決して事業に失敗したわけではなく、売り渡したんだからね。ここ重要だからね。


 いや、傍から見れば、倒産とも言い難いんだけどさ……


 他の人から見たら、僕の人生は失敗だらけの人生だったと思う。


 でも、それは傍から見た結果であって、僕にとっては、目標達成への第1歩でしかなかったんだ。


 だから、あの時の覧の言葉が忘れられないんだろうね。


 


 そうそう、目標を達成するために、ついに『あれ』を完成させました。


『あれ』って、ぼかすことに意味はないね。


 そう、ジオフの世界へと繋がる鏡だよ。


 目標っていうのは、覧をジオフの世界から連れ戻すってこと。


 押し入れにあった覧の論文がなかったら、この目標は頓挫していたに違いないよ。


 誰かに何かを託す大切さを身に染みて感じているんだ。


 覧の失敗を踏まえて、ジオフの世界と元の世界、行き来ができるように改良したつもりだよ。


 まあ、実験はしてないんだけどね。


 万が一、行き来できなかった時に備えて、予備の備品などもあるから、準備は万端です。


 覧、今、迎えに行きます。


 26歳の旅乃 びのより


 追伸


 12年ぶりに会う覧をみて気絶しないようにしないとな。




 …………



 ……




 青年は自室で手紙を書き終えると、書いてある文章が読めるようにそのまま机の上に置いた。


 彼の背後には、たくさんの機械に繋がれた全身を映し出す鏡が放電をしている。


 彼は椅子から立ち上がり、振り返った。


 

 彼の表情にはさっきまで手紙を書いていた時のにやにやとした表情はなくなり、精悍な顔つきになっていた。



 その凛々しくなった青年の姿をきっちりと映し出す鏡。


 

 彼は自分の顔を見て、『良しっ、行くぞ』と自分で気合を入れ、鏡の起動スイッチを押した。






 ――その鏡は、すべてを飲み込み、そして新しい世界を映し出した――





 

※明日はエンディングになります。

 意外な(結構どうでもいい)真実が明らかになるかもしれません。


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