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『旅野びの』と『戻衛覧』の異世界漂流記 ~ステータスがファンタスティック~  作者: いたあめ(しろ)


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覧の記憶 その2

 救急箱を持って、大慌てで部屋に入ってくる、旅乃まこ。


「あらー、工作していたら、手元が狂っちゃったのね」


 ……え?


「父さんもよくするんだ。旅乃家はドジばかりだな」


 ……え?


「覧ちゃんは、ドジだなー。まあ、僕もよくするけど」


 ……え?


 傷跡をみれば、ドジとかそういうレベルではないのはわかるだろうに。


 小学生の力とはいえ、何度も深く切りつけたのだから。


 それをドジの一言で終わらせてしまうのか?


 しかも全員素で言っているじゃないか。


 この家族は天然すぎる。


「旅乃家では、完全に怪我が治るまで、刃物を持ってはいけないことになってるから」


 そういわれ、カッターは没収された。


 私は無理矢理、食卓に連れていかれる。


「覧ちゃん、まずはご飯にしよう。血を出したんだから、いっぱい食べないと元気でないよ?」


 え?


 食卓に行って、びっくりした。


 以前見た量より、明らかに少なくなっているからだ。


 全員の夕食が。


「覧ちゃん、元気ないみたいだから、僕達もなんだか元気でなくって、食べれなかったんだ……」


「父さんもなんだか、食欲がなくてな……」


「覧ちゃん、初めての家で緊張してるのよね?」



 よくみれば、全員、以前見た時より、少しやつれているように見えた。


 バカだ。私の心配ばかりして。


 本当にバカだ。この家族は。


「覧ちゃん、少しでいいから、食べてみない?」


 びのが提案する。


「……」


 私はそれでも答えなかった。


「僕もお父さんもお母さんも覧ちゃんの緊張をほぐすことができなくて、とても心苦しいんだ」


 びのは、涙をぽろぽろ流しながら訴える。


 そんなの知らない。


 私のことなど、放っておけばいいのだ。


「覧ちゃん食べないから、僕達とても心配で」


 もしかして、私が食卓に来ないときにも、ずっと心配していたというのか?


 とんだお人よし家族があったものだ。


 私なんか心配する必要なんかないのに……



「あ、でも、覧ちゃんには覧ちゃんのペースがあるよね……僕だって、マラソン大会で『早く走れ』……って言われても、無理だもん。無理はしなくていいから」


 本当に、馬鹿だ。


「……」


 それでも、私は、何も答えなかった。


「それならアイスキャンディーは? 覧ちゃんのアイスキャンディー取ってあるんだ」


 言いながら、いつだったかのアイスキャンディーを取り出すびの。


 どうやら、びのは私のアイスキャンディーをとっておいたようだ。


「あ、あった。『らん』って書いてあるアイス」


 びのは言いながら、冷凍庫からアイスを取り出す。


「はい、覧ちゃん。美味しいよ」


「やめろっ」


 私は叫んで、びのの手を振り払った。


 同時に、びのが持っていたアイスキャンディーも床にたたきつけられる。


「覧ちゃん……」


 床を見つめるびの。


 どんなに私に優しくしても、私は決して心を開かない。





「やっと口を開いてくれたね」





 え? 口を開いたって……


 何なんだ、こいつは?


「僕、覧ちゃんがどんな声なのか、ずっと知りたかったんだ。うん想像通り、いい声だね」


 知りたかった?


 何を言っている?


「言いたいことがあるなら、そうやって、お口で話すんだよ? あ、お口で話すって意味、分かるかな?」


 は?


 ノーベル賞を取った私に、言いたいことがあるなら、お口で話す重要性を説いている。


 それじゃ、それじゃあ、まるで……


「私のことを子どもだと思っているのか? びの」


「え? だって、覧ちゃんは、僕より年下で、背もちっちゃいじゃない? お父さんもお母さんも、覧ちゃんには、優しくしろって」


 は?


 ノーベル賞を取った私を、この家族は、自分より下に見てたというのか?


 この私を子どもだと認識しているというのか?


「私は……この戻衛覧は、ノーベル賞を取ったんだぞ」


「ノーベル賞?」


 ふふふ、そうだ、驚いて言葉もでないだろ……


「……ノーベル賞って、何?」


 え?


「まあ、びの、ノーベル賞も知らないの? 少し甘やかしすぎたかしら……」


 口を挟んだのは、びのの母だった。


「ノーベル賞っていうのはね、ノベルティ賞の略称で、斬新なものに与えられるすっごい賞なのよ?」


 え?


 何言ってるんだ?


 ノーベル賞だぞ? 世界的に有名な、あの、ノーベル賞だぞ?


「そうか、覧ちゃんは、小学校で斬新なものを作ったんだね? 斬新って意味が分からないけど」


 うんうんと納得するびの。


「おい、違うぞ、母さん。ノーベル賞って言うのはね、小説を書いた人がもらえる賞のことだぞ」


 びのの父さんも、それ、違うから。


 それは、ノベル賞だろ。いや、せめて芥川賞とか……


「おお、覧ちゃん、小学生で小説を書くの? 今度見せてよ」


 違う。ノーベル賞はそんな賞じゃない。


「ノーベル賞っていうのは……」


 説明しようとして、ふと頭によぎる。


 この旅乃家は、私を特別な存在として受け入れていない。


 そう、決して、小学生でノーベル賞をとった、『天才の戻衛覧』ではなく、1人の『小学生の戻衛覧』として、受け入れてくれている。


 しかも計算ではなく、素で。


「ノーベル賞っていうのは?」


 びのがワクワクしながら、言葉の続きを待っていた。


「脳が減る賞なんだ。だから、ノーベル賞」


「脳が減っちゃうの?」


「そう、ボク、ノーベル賞のせいで、悪くなっちゃったからね。いろいろと」


 本当に、色々と悪くなった。


 本当に……色々と……


「あれ、どうして、涙を流しているの? 覧ちゃん?」


「あ、そっか、覧ちゃんのアイスキャンディー……」


 私が下を向いていたからだだろうか、床にたたきつけられたアイスキャンディーを拾ったびの。


「溶けちゃってる……このアイスキャンディー、美味しいのに……」


 眉を下げるびの。


「あ、そうだ」


 何かを思いついたびの。


「覧ちゃん、ちょっと待ってて」


 びのは、溶けてしまったアイスキャンディーの袋を開け、コップに移し替えた。


「アイスキャンディーじゃなくなったけど、ソーダジュースになった。ほら、飲んでみて。きっとおいしいから」


 私は、青い液体をごくりと一口飲み込む。


 その後、もう一度、ごくりとごくりとすべて飲み干した。


 溶けてしまったアイスキャンディーは、とても、とても甘かった。


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