表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『旅野びの』と『戻衛覧』の異世界漂流記 ~ステータスがファンタスティック~  作者: いたあめ(しろ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/104

覧の記憶 その1

 私は今でも忘れない。


 いや、忘れることなどできはしない。


『この泥棒猫』と私はお母さんにけなされた。


『お前みたいな子どもいらないから』お父さんにそう告げられ、私は捨てられた。


 ノーベル賞を受賞した日のことだ。


 たくさんの知らない人たちから賞賛されていたのに、そのことはまったく思い出せない。


 思い出される記憶は、『この泥棒猫』と『お前みたいな子どもいらないから』という言葉のみだ。


 私は、お父さんとお母さんの研究を進めて、お父さんとお母さんから褒められようとしただけなのに……


 小学生1年生の時に発表した研究が、3年後にはノーベル賞まで獲ってしまっていた。


 あれよあれよという間に、私は養護施設に預けられた。


 なんで、こうなってしまったのだろう……


 …………


 ……


 この施設に来てから、どれくらいの月日が経っただろうか……


 もう、日にちの感覚すらない。


 頭の中は真っ白だった。


 施設の中では、『ノーベル賞をとった、天才の覧』と何度も揶揄されていた気がする。


 ノーベル賞ときくたびに、何度も何度もフラッシュバックする苦い記憶。


『この泥棒猫』


『お前みたいな子ども、いらないから』


 頭がずきずきと痛くなり、吐き気をもよおす。


 もう、やめて……


 私を苦しませないで……


 私を認めて……


 私を許して……




 ある日、私は施設長に呼ばれた。


 定年を迎えそうなおばあちゃんだ。


「貴女を引き取ってくれるご家族が見つかったわ。覧ちゃん、良かったわね。新しい家族ができて」


 私は新しい家族なんて要らない。


「とってもいい人達なのよ。頭はちょっと良くないけど」



 紹介されたのは、マヌケそうな顔の男と腑抜けた顔をした女だった。


 どうやら、私はここの家族として引き取られるらしい。


 きっと、私がノーベル賞を受賞したから、私を引き取ると申し出たのだろう。


 ノーベル賞……


 頭痛がする。


 どうせこの男女は、私の母親の代わりを務めることで、世間から賞賛されたいんだろう。


 ノーベル賞受賞者を救い出した慈悲深い義父と義母。


 そんな称号が欲しくて私を引き取るのだ。


 吐き気がする。


 抵抗しようかとも思ったが、そんな時間を与えられずに、すぐさま旅乃家に引き取られた。


「改めて自己紹介だ。僕の名前は『旅乃けびのす』。覧ちゃん、これからよろしくね」


「……」


 手を出されたが、私は返さなかった。


「私の名前は『旅乃まこ』。自分のお家だと思って住んでね」


「……」


 私は答えなかった。


「君が、覧ちゃんだね? 僕、びの、小学6年生。よろしくね」


「……」


 私は無視を続けた。


「あ、そうだ。僕、折り鶴を折ったんだけど、覧ちゃんにあげる」


「……」


 私が無視しても話しかけてくるびの。


 もう話しかけてくるな。 



「いらないかな? お花とか折ろうか? さくらなんてどう?」


「……」


 虫唾が走る。


「覧ちゃんは、恥ずかしがりやさんなのかな?」




「……」



 うざい。


 その後も何度も話しかけられたが、心の中だけで悪態をつき、私は旅乃家の人間を無視をし続けた。


 

 …………


 ……



「今日も暑いわね。また、30℃越えたそうよ。そうだ、覧ちゃん、アイスキャンディー食べる?」


「覧ちゃん、食べないの? ソーダ味で、シュワシュワして、青くて、美味しいよ」


 無邪気にアイスを勧めてくる、びの。


「……」


 私はいつものように返事をしない。


「アイス、好きじゃないのかしら?」


「じゃあ、僕が食べる」


 旅乃びの、こいつは本当に何も考えていないタイプだな。


「ダメよ、これは覧ちゃんのアイスなんだから」


 旅乃まこ、私のポイントを稼ごうと思っても無駄だ。


「そっか、覧ちゃんのものだもんね」


 ……とか言って、後でびのが食べるに決まっている。


 まあ、それでもいい。


 どうせアイスなんか食べる気がしないのだから。


「ほら、これで、覧ちゃんのアイスだってわかるわ」


 びののお母さんは、油性マジックで袋に『らん』と名前をかいた。


「うわー、いいな。僕には?」


「びのはもう食べたでしょ?」


「あ、そっか。あはは」


 びのは笑ったが、私は笑わなかった。


 結局、アイスは冷凍庫へとしまわれた。



 夕食になり、私はご飯をほんの少しだけ口にする。


「あれ? 覧ちゃん、もう終わり?」


 びのが訊いてくる。


「お腹痛いのかい?」


 びののお父さんだ。


「あら、覧ちゃん、口に合わなかったかしら?」


 びののお母さん。


「……」


 私は答えない。


 正直、放っておいてほしい。


「そうだ、おやつのアイスは?」


 びのが冷凍庫から私の残したアイスを取り出す。


「おいしいよ」


「……」


 私は、黙ったまま首を横に振り、与えられた部屋へと戻った。


 その後、何日たっただろうか?


 時間的感覚がもはやない。


 ご飯の時間になると呼びに来るびの。


 私はそれを無視し、自分の部屋に閉じこもった。


 …………


 ……


 部屋に閉じこもってどれくらいの時間が経っただろうか?


 遮光カーテンで部屋を遮ってるため、時間の感覚すらない。

 

 ふと、『新しい家族なんかいらない』という言葉が脳裏によぎった。


 そう、私に新しい家族なんかいらないのだ。


 本当のお父さんとお母さんが迎えに来てくれないなら、私は1人で生きていく。


 私、独りでも生きていける。


 何故、私はここにいる?


 何故、私は旅乃家にいるのだ?


 旅乃家で一生閉じ込められるのだとしたら、今ここで天国に旅立ったほうがましだ。


 そう思った私は、隠し持っていたカッターで自分の腕を切り刻んだ。


 スパッ。


 もう、どうでもいい。


 1人で生きていけないなら、はやく、自分など死んでしまえ。


 でも、今の私じゃ、大切な血管までを切り刻む力はない。


 力が足りないのなら、数で勝負

 

 同じところを何度も何度も左手首を切りつけた。


 


 コンコン……


 ノックの音がして、手を止める。


 びのだ。


 びのは最近、生存確認のためか、私の様子を見にくる。


 まずい、こんなところ見せたら……


 見せたら……どうなる?


 そうだ、びのは驚くだろう。


 血を見れば恐怖して、私を忌み嫌い、家族に相談して、私を追い出すかもしれない。


 そうすれば、1人で生きていける。


 生きていけるだけのお金はあるのだ。


「覧ちゃん、入るよ」


 私は、黙ったまま、びのを迎え入れる。


「……」


 びのは、私の姿を見て、驚愕した。


「覧ちゃん?」


 計画通りだ。


「大変だ、お母さん!! 覧ちゃんが怪我してる!!」


 大慌てでお母さんを呼びに行くびの。


 ははは……


 私を怖がれ、びの……いや、旅乃家。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ