びのと覧、通販ごっこをする
「夜に出発しよう、びの君」
「え? なんで? 出発は早いに越したことはないでしょ?」
夜道を行くなんて、危なすぎるじゃないか。
「びの君は、西の最果てまで、何で行くつもりなの?」
「そりゃあ、遠いんだから馬車じゃないの?」
酔うのが嫌だから馬車は乗りたくないんだけどな……
でも、背に腹は代えてられない。
「西の最果ては、ここから1万キロだよ? 馬車で行くの?」
「1万キロ……そっか、1万キロか……」
1万キロがどれくらいかわかんないけど、なんとなく遠いってことはわかる。
「びの君、本当に分かってる? 馬車が時速40キロだと仮定して、順調に行って、片道、約250時間だね」
「250時間!! そんなにかかるの?」
僕は飛び上がった。
1日24時間としても、単純計算11日くらいだ。
時計がないから、ジオフの世界が1日24時間かどうかは怪しいけれども。
「1万キロをだしても、反応が薄いなと思っていたけど、どれくらいの距離かよくわかっていなかったってことね」
覧は僕の反応をみて、やっと納得する。
「いや、だって、そんなに遠いとは思わなかったから」
「近況と増強に関しては、たまたま近かっただけだよ。酔狂に至っては自分から出向いてくれたしね」
「そっか」
たまたま近かっただけか……
「それに馬車は頼めないと思う」
「え? 何で?」
「西の最果ては、砂漠地帯だから」
「砂漠地帯……」
そっか、今までは、近場で道があったから行けたけど、今度は遠いから地形も把握しないといけないのか……
砂漠地帯なら、馬車じゃ行けないな。
僕にとって、北は寒くて、南は暑くて、東は晴れていて、西は雨が降っている、そんなイメージしかない。
「じゃあ、水を多く用意しておかないとね」
僕は、水の心配をして、覧に提案する。
「取ってきてもらった竹は、電球にしないで全部水筒にしちゃおう」
「お、さすが覧、頭いいね」
僕が持って来たのは3本しか持ってきてないから、大した量にはならないけど、ないよりはあった方がいいもんね。
「もっと褒めてもいいんだよ? 抱きしめるとか、頭なでなでするとか」
「ねえ、ちょっと待って。僕達どうやって『金字塔』に行くの?」
僕は覧を無視して、脱線した話を元に戻す。
馬車も砂漠の手前まではいけるかもしれないが、それ以降はいけないはず。
……ってか、一介の中学生が、砂漠越えなんかできるわけがない。
「西の最果てが1万キロもあって、砂漠付きなんて、聞いてないよ。僕達二人だけじゃ絶対無理」
「えー、二人だけでも魔王を倒せるって言ったのは、びの君じゃない」
「僕、そんな大冒険するなんて聞いてないもん」
「大丈夫。大冒険にはならないから」
「どうしてさ?」
1万キロもある砂漠へいくのに、どうして大冒険にならないのさ?
「ボクが何も準備せずに日々を過ごしていたと思う?」
「いや、思わないけど……」
けど、何をしていたかは分からない。
「じゃじゃーん」
覧は、1冊の本を取り出した。
「何、この本? この本が、金字塔まで連れて行ってくれるとか言うんじゃないだろうね?」
「その通り。さすがびの君」
「え、本当に?」
冗談のつもりだったんだけど、まさかの正解だった。
自分でもびっくり。
「うん、本当。これは、空を飛ぶ本です」
「空を飛ぶ……本?」
「そう、空を飛ぶ本。びの君の銃弾に使われている魔法を付与しました」
「えっと……風魔法と、索敵魔法だっけ?」
「その通り。だから、この本は、人を乗せて空を飛べるのです」
「覧は、これに乗れって言うの? 小さくない?」
どう見ても、本は一冊A4サイズだよね?
「ちっちっちっ、この本一冊で飛ぶのではないのだよ」
「どういうこと?」
「王子様から、魔素がたくさん含まれていて、装丁の綺麗な同じサイズの本を何冊ももらっておいたんだ」
本棚からたくさんの本を取り出す覧。
「え? これ全部?」
「うん、そうだよ。たくさんの本を組み合わせて、1つの大きな乗り物にしても良いし、同じ色の本だけ組み合わせて、2つの小さなサイズしても良い。組み合わせは無限大だよ!!」
「雨が降ったら、濡れて落ちるなんてこと……」
「ご安心ください、風魔法の効果により、濡れることはありません!!」
「じゃあ、本に乗ってる間、モンスターと戦わないといけない……とか?」
何とか本のアラを探し出そうとする僕。
「索敵魔法がかかっているので、半径12キロ以内を探知。モンスターには決して近づきません」
「そんなこと言って、遅いんじゃないの?」
僕は大げさに疑いの目を向けて話す。
「ご安心ください。最高時速はなんと驚異の2112キロ。理論上、西の最果てまで5時間もあれば行けちゃいます!!」
「2112キロ、まあ速い!!」
僕は諸手をあげて大げさに驚いた。
「マッハ2くらいです、お客様」
「マッハ2もスピードをだすとやっぱり、乗り心地が悪いんじゃないの?」
「風魔法が付与されていいて、強風は全て防いでくれるので、快適な乗り心地です」
「でも、速すぎなんじゃ?」
「スピードが心配のお客様には、『ゆっくり運転してくれ』の一言で、低速飛行も可能です」
「安全で安心なのはわかったけど……お高いんじゃないの?」
そう、値段が高いなら僕は買わないぞ……
「そんなことはありません。この本は、王子様から頂いた本なので、完全無料。今なら0円です」
「まー、安い」
……って、いつから僕は本を買うお客になったんだっけ?
ま、いっか。
「いますぐ、お電話いただくか、パソコンがあるかたはネット注文も可能です…………とまあ、通販番組のまねごとは、これ位にしておこうか、びの君」
「そうだね」
危ないところだった。
覧が止めてくれなければ、あやうく電話をするところだった。
ジオフの世界には電話なんかないんだけれど。
「それじゃあ、今から金字塔へ向かおう、覧」
「今から本に乗って向かったら、目撃者多数だよ? あれは何だ? 鳥か? 飛行機か? 勇者様か? ……ってなるよ。そんなことになったら、町は大混乱になってもおかしくないし、そんなことが噂になればもしかすると大凶が町を攻めてくるかもしれないよ? それでも行く?」
「夜になったら、出発しようか」
「うん、それが良いと思う。道中何があるか分からないから、今のうちに寝ておいたほうがいいかも」
「そうだね……って、僕、今起きたばっかりなんだけど」
「大丈夫。びの君なら二度寝できるよ」
「そんなわけないでしょ、まったく……ぐーぐー」
僕は、いつの間にか眠りについた。




