びのと覧、勝負の行方
「それじゃあ、何で酔狂は凍ったの? 最初は凍ってなかったよね?」
「エタノールは、アルコールの一種で、-114℃にならないと、固まらない性質を持つ。ボクのフリーズ・アイスはおよそ-64.5℃。だから、まともに食らっても、凍るわけない」
「それならば何故、我は凍っている?」
「それは酔狂、貴女のおかげ」
「我? 我が何をしたというのだ?」
思いあたる節がなかった酔狂は、怒り狂いながら覧に訊いた。
「貴女の真似をさせてもらった」
「真似? まさか……」
「そのまさかさ。二重攻速だよ。ボクは、今まで、両手で一つの魔法を出していたけど、酔狂の真似をして、右手と左手を分けて考えて、フリーズ・アイスを同時に二回はなったんだ」
「二回?」
「うん、-64.5℃からさらに-64.5℃下げて、-129℃にしたってこと。技名は絶対凍結とでも名付けようかな」
「くっ、まさか、我の魔法の真似をするとは思わなかったアル……いや、待て、この技術は、ほんの数分で身につくものではない技術アル」
「え? ボク二重攻速の技術は前から知ってたよ? 当たり前じゃん。だって、教本にも書いてあったもの」
「あれ? でもさっきわからないって……」
言ってたよね?
「ああ、あれ? あれは、もしかしたら、二重攻速以外の攻撃や技術を酔狂がしてるかもしれないから、わからないって言ってただけ」
「じゃあ、最初から覧は知ってたの?」
「うん、そうだよ。増強も二重攻速を使っていたじゃないか……」
あ、どこかで聞いたことあると思ったら、そうだ、増強!!
増強も使っていた気がする。
「無念アル」
「さて、氷漬けになる今、最後に言い残すことはあるかな?」
「殺せ」
覧は最後の言葉を聞き届け、酔狂を氷漬けにした途端、酔狂は虚空へと消えていった。
「覧、やったじゃないか。でも……」
魔王を倒せて、嬉しいはずなのに、何故だか心が痛んだ。
「どうしたの、びの君、浮かない顔して」
「まさか、増強が平和主義者だったなんて思わなかったからさ」
「ボクも元の世界に戻ることばかり考えていて、魔王の目的や気持ちなんて、これっぽっちも考えてなかったのかもしれない」
覧は反省するかのように浮かない顔をする。
「増強の発端は、僕達人間側から手を出したんだよね? それじゃあ、まるで僕達人間が悪いんじゃないの?」
「増強のことは人間側が悪かったのかもしれない。でも、近況は、ボク達に挑戦状をたたきつけてきたんだよ?」
「まあ、それはそうなんだけど……」
近況も、結局町まで来て、勇者の僕に挑戦状をたたきつけただけで、実際にはリネマの町の被害は0なのだ。
「本当に僕達って、ジオフの世界で正しいことをしてるんだよね?」
魔王は全員、人間を滅ぼすことが目的だと思い込んでいたが、そうじゃない魔王もいた。
酔狂に至っては、増強の敵討ちだ。
「多分……」
覧は自身なさげにこたえた。
「多分じゃダメなんだ。どうして正しいことをしているって言ってくれないんだ、覧?」
覧に言って欲しかったのだ。
魔王退治は正しいことで、僕達は正しいことをしてるんだって。
いつの間にか、僕は覧の胸倉をつかもうとしていた。
「ボクにも分かんないよ」
そうだ、僕は何をしてるんだ。
覧が天才といったって、僕より年下の少女だぞ。
我に返った僕は伸ばした腕を自分の元へ戻した。
「魔王を倒すことが必ずしも正しいことでないのなら、僕達は、もうこれ以上魔王を倒さないほうがいいのかな?」
「ボク達の目標は、魔王を倒して、元の世界に帰るでしょ?」
「うん、そうなんだけどさ。魔王を力で倒すことが必ずしも正しくないのかなって思って……」
「本来であれば、お互いに血が流れない方法のほうがいいんだけどね……」
「最後の魔王、大凶とは、話し合いでジオフの世界から出て行ってもらえないのかな……って思って」
「それは、無理だと思う。酔狂が言うには、大凶は人間を困らせることが生きがいだって言ってたもん。話が通じる相手ではないと思う」
「そうか、そうだよね」
「びの君、びの君のHPは1なんだから、絶対、ぜーったい、情けをかけたり、手加減したりしちゃダメなんだからね」
僕の鼻の前に人差し指をびしっとさし忠告してくれる覧。
「わかってるよ」
頭ではわかってるんだけどね。
「じゃあ、びの君お花見しよう、お花見」
覧は目をすわらせて、地べたに座り、お花見を要求しはじめる。
「ダメ。覧、まだ酔ってるでしょ?」
「まだ、酔ってません。お花見、お花見」
駄々っ子のように、お花見を要求する覧。
「お父さんがまだ酔ってないって言ってるときは、大概酔ってるよね? 覧は、今、それと同じ状態だから、お花見はダメです」
「だから、ボクは酔ってないから、桜を見させろー……すーすー」
道の真ん中で寝息を立てる覧。
「あ、覧、こんなところで寝ないでよ……もう、しょうがないな」
僕は覧を背中におぶる。
「お疲れ様、覧」
僕は眠りに落ちた覧に労いの言葉をかけ、家に帰った。




