びのと覧、酔っ払いお姉さんからいいことを教わる
「威力のない弾丸に、両手でやっと一つ出せる氷魔法……増強を倒したって言うのに、お前らの力はその程度アルカ? 本気出さないならこちらからいくアル」
「びの君、何か来る」
「分かってる」
酔狂は、太極拳のようなゆったりとした動きをすると、両手両脚が光り出した。
「気功・エキサイティング弾」
酔狂は、その場でボールを投げたり蹴ったりする仕草をすると、気弾のようなものがそれに合わせて、僕目掛けて4つ飛んできた。
「我の気功玉は、相手の急所に直撃するアル」
「びの君には、当てさせない」
覧は、僕の前に仁王立ちをした。
「ウォーターウォール」
ばん。
ばん。
ばん。
ばん。
四つとも、ほぼ同時にウォーターウォールへと当たる。
「可可可。いい音アル。愉快、愉快。エキサイティング!!」
「覧、大丈夫?」
「うん。魔法で相殺したから。それより、びの君、HP1なんだから、当たらないように気を付けて」
「分かってる。でも、あの技は何?」
「いわゆる、遠当てってやつだね」
「遠当て?」
「おそらく、魔素を風の爆弾に換えて、遠隔から攻撃する技」
「遠距離型の攻撃をしてくるってこと?」
「多分ね」
「あれ? 当たってなかったアルか?」
遠くを覗き込むように手のひらをおでこに当て、こちらの様子をうかがう酔狂。
「ボクが全部魔法で相殺したからね」
「それなら、これはどうアル? 気功・エキサイティング弾!!」
「また、同じ攻撃? 威力も先ほどと変わらないみたいだけど? ウォーター・ウォール」
覧は、酔狂の魔法を見極め、水の壁を創り出す。
「それは、どうアルか?」
覧は、先ほどと同じように相手の魔法を防ぐ……のだが、4つのうち、2つのボールがウォーター・ウォールに同時に当たった瞬間、水の壁は決壊してしまった。
「ウォーター・ウォール」
覧はもう一度水の壁を作る。
残った2つも新しく創った水の壁で、なんとかしのいだ。
「おお、見事アルな!!」
軽く手を叩いて、口だけで賞賛をする酔狂。
「何で、さっきは4つ受け止めれたのに、今回は2つだったの、覧?」
「……分からない」
覧は悔しそうに眼をそむけた。
「二重攻速の技術も知らずに、魔王を相手にしていたアルか?」
ダブルバインド……どこかで聞いたような……
「我の場合、右手と左手、別々に同じ威力になるよう魔法を付与させて、同時に発動させる魔法の高等技術アル。ダブルバインドで魔法を発動させると、威力が2倍以上にあがるアル」
なんだって、そんな高等技術が魔法にもあるのか!!
「この程度の高等技術も知らない勇者なら、楽勝で倒せるアル」
いやー、そもそも魔法すら覚えてないんですけどね、僕……
「そこをどけアル!!」
ゆっくりと僕に近づいてくる酔狂に覧が立ちふさがった。
「覧と言ったな、何故、我の邪魔をするアル? その男は、大事な我が妹を亡き者にしたアルよ」
覧にガンつける酔狂。
「それは、びの君がボクの大事な人だからね」
「邪魔をするナ」
「びの君を倒したいなら、ボクを倒してからにしろ」
うわっ、人生で僕が1度でいいから言ってみたいセリフを覧に言われた……
「相手が遠距離型なら距離をつめて、接近戦で戦えば倒せるかもしれない……とか思っているんじゃないアルな?」
「……ふ………………その通りだよ!!」
覧は、自身に攻撃強化と防御強化と速度強化の魔法をかけ、酔狂に近づきながら顔面めがけてパンチを繰り出す。
ばたり。
酔狂はその場で倒れた。
あれ? ワンパンチで一発?
魔王って言っても、たいしたことないな。
「やったじゃないか、覧」
「違う。ボクのパンチは当たらなかった」
「え?」
当たらなかった? じゃあ、なんで酔狂は倒れたんだ?
倒れたと思っていた酔狂が突然立ち上がり、覧のお腹を殴った。
覧は一度お腹に手を当てるが、すぐさま体勢を立て直す。
「接近戦がお望みアルなら、そう言えばいいアル」
酔狂は、余裕をかましながら、ちょいちょいと手を動かし挑発した。
覧は、息を整えると、正拳突きを出した。
それをひょいとかわす酔狂。
それならばと、ハイキックを繰り出す覧。
その蹴りを両手で掴みとり、覧をジャイアントスイングのように投げて、吹っ飛ばした。
覧は地面を転がりながら受け身を取る。
「覧、お前は、そもそも格闘タイプではないアル。遅いし、威力もないし、闘い慣れてもないアル」
「それがどうした?」
覧は、すぐに置きあがると、酔狂との距離をつめ、パンチやキックを繰り出す。
それを、体をのけぞらしたり、地面に寝転がってみたりと、自由気ままかつ不規則な動きでかわし続ける酔狂。
「おや? もう、攻撃の手が止まったアルか?」
「まだまだ」
覧は、挑発されたのが悔しかったのか、攻撃の手をやめない。
「もう攻撃がワンパターン化してるアル」
言いながら、酔狂は、覧の背後に回り、覧に後ろから抱き着いた。
「覧、お前は愛くるしいから『今』降参するなら、許してあげるアル」
「なめるな」
覧は手を振りほどいて、また攻撃に転じた。
しかし、覧の攻撃はことごとくかわされる。
「まだ、降参しないアルか、覧」
「するわけないだろ」
「いいこと教えてあげるアル」
「アル中女から教わることなんてないね」
アル中女なんて、言葉悪くない? 覧。
「我は酔拳の使い手アル」
すいけん? なんだそれ?
「お酒を飲めば飲むほど強くなってくアル」
「飲めば飲むほど……って」
戦いの前から、ずーっと飲んでるよね。この魔王。




