びの、覧の作戦の真意をきく
「覧、終わったの?」
「うん、終わったね」
良かった。増強を倒せたんだ、僕達。
ほっと胸をなでおろす。
「ねえ、覧、一つ訊いてもいいかな?」
「何かな? びの君」
「僕が捕まったら負け……って言ってたよね?」
「言ったよ」
平然と言い放つ覧。
「僕が捕まったのに、勝ってるじゃないか。嘘ついたの?」
「人聞きが悪いこと言わないでよ、びの君。ボクは嘘なんかついてないよ」
「僕が捕まったら負けて、僕が捕まらなかったら勝つ……って言ってたよね?」
僕は間違いなくそう聞いたよ。
「うん、そうだよ。びの君が捕まったら負けるんだよ、増強が。で、びの君が捕まらなかったら勝つんだよ、増強が」
「増強が?」
「そういえば、あの時、主語を言うのを忘れたかもしれないね、てへぺろ」
悪びれることもない覧。
「何で主語を言わなかったのさ。僕、全力で逃げようとしていたのに」
僕が逃げなかったからよかったものの……
「ん? びの君は全力で逃げてよかったんだよ?」
「え? なんで?」
え? 僕が捕まったら勝ちなんだよね?
頭が混乱してきた。
「一から説明するね」
「説明してもらおうじゃないか」
「勝利の条件としては、増強がびの君を捕まればボク達の勝ち。増強がびの君を捕まえなければ、ボク達の負け。ここまでは大丈夫?」
「うん、そうだね」
運が-1の僕が増強に捕まらないと勝てないわけだから。
「さて、ここで、増強の立場で考えてみよう」
「増強の立場で……」
「増強の前に、勇者びのが現れて、さあ、僕を捕まえるんだ……と言ったら、増強はどうすると思う?」
「え? 捕まえるんじゃない?」
「本当に?」
いや、普通そうなんじゃないかな?
「じゃあ……びの君、さあ、ボクを抱きしめて、はやく、はやく」
「覧、何を企んでるの?」
いきなり、何言い出すんだ? 覧は。
「びの君、抱きしめないじゃん。ぶーぶー」
「そりゃあ、いきなり言われたら警戒するよ……」
いきなり抱きしめろなんて、裏があるに決まってるじゃないか。
「……そうか! 増強も同じだ!!」
「その通り。もし、増強の前にでて、捕まえてなんて言ったら、警戒されて終わりだよ。でもね、もし、ボクが増強の能力を見破ったうえで、勇者びのお逃げくださいと迫真の演技で叫び、実際にびの君が逃げだしたら……」
「増強は、追いかける」
間違いなく追いかける。
あの場には、ステータスがオール9999のキデギスもいたにも関わらず、キデギスではなく、覧は僕を逃がそうとした。
もし、増強が僕のステータスを知らなければ、間違いなく僕を捕まえようとしただろう。
「そう、ボクは、増強に、勇者びのの能力はキデギス以上に高いと思いこませたんだ。きっと、増強は、勇者のステータスを100倍にして、完膚なきまでに全滅させてやるって思ったんだろうね」
「だから、僕に逃げろと言った」
「そう、びの君が逃げてくれないと、この作戦は失敗に終わった」
「最初からそういう風に説明してくれればよかったのに」
「びの君、運だけは‐1だよ? そう説明したら、どうなっていたと思う?」
「どうなってたの?」
全然想像もつかないや。
「逃げるの演技もがちがちの大根役者で、増強に疑われてたと思う」
「確かにあり得る」
「いや、絶対に増強は追いかけなかったと断言できるね」
「酷いな、覧は」
「ボクは酷くない。酷いんだとしたら、それはびの君の演技だよ」
「違いない」
はっはっはっ……
覧と二人で笑いあう。
「逃げるって、悪いことばかりじゃないんだね」
一通り笑いあった後、僕は確認するようにつぶやいた。
「だから、最初にいったじゃない。逃げることは悪いとは限らないって……」
覧が言ったこと、なんとなくだけど、わかりかけた気がする。
「でも、僕は今回、戦ってはいなかった」
そう、僕は、直接的に戦いに参加したわけではない。
道を塞ぐドラゴンを倒したわけでもないし、覧のように増強を倒す作戦を考えたわけでも、キデギスのように増強を倒したわけでもない。
ただ、増強を前にして、逃げようとして捕まっただけだ。
「いいんだよ、今回、びの君は戦わなくてよかったんだ」
「でも、それじゃあ、勇者として格好がつかないというか、何というか」
「この作戦は、全てのステータス値が低いびの君じゃなければ務まらない大役だ。大役を務めてくれて、ありがとう、びの君」
「覧の言う通りだ、ありがとう、勇者びの。みんなの仇を討てたよ」
握手を求めてくるキデギス。
「いいえ、どういたしまして」
僕は、キデギスの手を握り返した。
「今晩、祝勝会があるのだが、君たちには是非参加して欲しい」
「いや、僕達は何もしてないから……」
とどめを刺したのは、キデギスだしね。
「みんなの前で、勇士を語らせてもらうよ」
「そんな……」
勇士って、僕、逃げただけだからね?
それをみんなの前で発表するってこと?
「おそらく、王子様もお喜びになって、君とダンスを踊りたがるだろうしね」
「よし、覧、逃げよう。逃げるのは悪いこととは限らないんだし」
「だから、それは、時と場合によるってば」




