覧VS増強
「くっ、まさか、ウォーターウォールを、攻撃に使うなんて」
技の範囲外のところにいた覧は、冷静に技を分析する。
「ひっく、ひっく……この能力があれば、魔法は攻撃にも防御にもなるの」
「攻撃にも防御にもなる……」
覧は、増強の言葉を繰り返した。
「ひっく、ひっく……何か思いついたみたいだけど、わたくしのハンドレッドに死角はないの」
「それはどうかな? ファイヤーボルト」
覧は、魔法を唱える。
「ひっく、ひっく……相殺、ファイヤーボルトなの」
増強は覧と同じくらいの威力のファイヤーボルトを繰り出した。
「ひっく、ひっく……わたくしが100倍もの威力のあるファイヤーボルトを発動すると思ったの?」
「くっ……」
押し黙る覧。
「ひっく、ひっく……貴女、本当に賢いの。もし、わたくしがあなたの100倍の威力でファイヤーボルトを打てば、爆風によって、この城は跡形もなく壊滅なの。耐防が1200のわたくしも巻き添えをくらい、倒せたかもしれないの」
そうか、だから覧はファイヤーボルトを放ったのか。
「でも、それでボク達まで死んでしまったら、元も子もないんじゃない?」
「ひっく、ひっく……貴女たちの装備、見たこともない装備なの。その装備には、物理を軽減する効果が施されているんじゃないの? もし、爆風にさらされて、瓦礫に埋もれても、生き残る予定だったんじゃないの?」
覧がいいそうなセリフを並べる増強。
「へえ、よく知ってるね」
「ひっく、ひっく……推論は貴女だけの専売特許じゃないの」
「できれば、推論はボクだけのものにしたいんだけどね……」
「ひっく、ひっく……ねえ、覧っていったの? 貴女を傷つけたくないの。提案なのだけど、一度停戦をしてみない?」
停戦……まさか、魔王の口からそんな言葉がでるとは思わなかった。
「そうやっておしゃべりをして、時間を稼ぐつもりだね……」
そうか、おしゃべりをして時間を稼ぐ気か……
そうだよね、いくらなんでも、魔王が停戦を持ちかけるなんてことしないよね。
危ない、危ない、騙されるところだった。
それなら、僕も、微力ながら、エアワンを撃って、できるだけHPを削ってやる!!
僕は銃口を増強に向けた。
「ひっく、ひっく……もう、そんなの必要ないの」
ん? 必要ない?
何で?
「逃げて! 勇者びの!!」
覧が必死に叫ぶ。
「ひっく、ひっく……もう諦めるの」
見ると、増強の右手は赤く染め上がっていった。
「ウォーターウォール」
「無駄なの」
覧の魔法など意にも介さず、突っ込んでくる増強。
「だいたい、100秒か」
覧は独りごちた。
「ひっく、ひっく……その通り、弱い人間だったら、100秒で解除するの。もし、強い人間だったら最大100分の間、ハンドレッドの効力を続かせる……これを繰り返していけば、わたくしをいじめる人間はこの世からいなくなるの」
「勇者びの、はやく逃げて!!」
逃げろと言われ、僕は立ち止まる。
本当に逃げていいんだろうか?
覧は、逃げる時は逃げたほうがいいと言っていたけど、今、覧を置き去りにして、逃げてもいいのだろうか?
「ひっく、ひっく……絶対に逃がさないの」
増強は鬼の形相で僕の肩につかみかかる。
「びの君、ボクを信じて、逃げて!!」
そうだ、覧が逃げろと言っているから、逃げなければいけないんだ。
今は、逃げる時なのだ。
自分に言い聞かせて、僕は必死に逃げようとした……
……のだが、何もないところでつまずき、転んで倒れてしまう。
「くすくす……勇者なのに、転んじゃったの……」
増強は笑みをこぼして、僕の腕につかもうと赤い手を伸ばす。
「しまった」
僕はさっきの覧ように避けようとするが、すでに倒れていたので、避けることはできなかった。
「くすくす……残念なの。ハンドレッド」
しまった、僕は、何ということをしてしまったんだ。
覧にあれだけ逃げろと口酸っぱく言われていたのに……
これで負けだ。
「勇者の腕をつかんだの。さあ、全員降参するといいの」
「勇者びの、どうして本気で逃げなかったの?」
「ごめん」
覧に責められたが、もはや言い訳すらできなかった。




