びのと覧、増強と出会う
僕と覧が逃げることについて話していると、
「そろそろ、降りたほうがいい」
外からキデギスの声がした。
覧とアイコンタクトを取り、こくりと頷くと、僕達は荷馬車を降りた。
目の前の光景に愕然とする。
空には、雷を呼ぶドラゴン。砦の中には炎を吐くドラゴン。砦の外には風を操るドラゴン。
ドラゴンは3体ずつ居て、砦を守っている。
全て大型のドラゴンばかりだ。
元の世界の大型旅客機よりも大きいドラゴン。そして、そのドラゴンに立ち向かう、人、人、人。
この光景を目の当たりにすれば、誰もが、ドラゴンVS人類の構造を思い描くだろう。
「先遣隊の話だと、この砦に集まっているのは、ドラゴン系のモンスターばかりらしい」
「ドラゴン系って、確か、最強種だよね?」
「その通り。おそらく、増強が集めたのだろう」
キデギスがため息をつく。
「それじゃあ、僕も……」
「びの君は、増強を倒すためにここにきてるんだから、ドラゴンの相手はしちゃダメ」
「いや、それでもさ……」
「びの君の仕事は、増強を1秒でもはやく倒すこと。違う?」
そっか、そうだよね。
増強を倒さなければ、無限にドラゴンが集まってくるかもしれないんだし。
「増強はどこにいるの?」
「おそらく、一番安全な、中央棟のところだろう」
キデギスは、剣で目的地を示す。
「びの君、ドラゴンは兵士たちと魔王討伐軍に任せて、ボク達は増強を倒そう」
「私も援護する」
「索敵魔法で、敵の攻撃があたらなさそうな道を行くから、ついて来て」
僕は、こくりと頷くと、覧の後をついていった。
…………
……
「はぁはぁ……あと、もう少し……」
砦に入れると思った時、
ビリビリ、ドッカーン。
覧の頭上にサンダードラゴンの雷攻撃が炸裂する。
「危ないっ……ぐっ」
覧への攻撃をかばうキデギス。
さすが、ステータス9999だ。速い。
「ありがとう。大丈夫?」
覧は、感謝を伝え、キデギスの身を案じる。
「ああ。ちょうどいい充電になった。この充電があれば、私の稲妻斬りも強くなるだろうさ」
軽口をたたくキデギス。
さすが、ステータス9999だ。あの電撃をくらってもピンピンしている。
「索敵魔法」
覧は、中央棟に入り、すぐに敵をチェックする。
「2階に中型ドラゴンが1体、3階にいるのが、多分増強だと思う」
「よし、2階のドラゴンは私が引き付けよう」
「お願いします」
2階に居たドラゴンはキデギスに任せ、僕と覧で3階へと向かう。
「びの君、この扉の向こうに魔王・増強がいるはず。増強だとわかったら、びの君は一目散に逃げるんだ。いいね?」
「ひっく、ひっく」
扉の奥には、着物を身にまとった、女の子がしゃがみ込んで泣いていた。
顔を隠して泣いているので、増強かどうかを確認できない。
「どうして、泣いているの?」
僕は女の子と距離をとったまま尋ねる。
「みんながわたくしをいじめるからなの」
女の子は顔を手で覆ったままだ。
「みんなって……」
「兵士達のことなの」
兵士達ということは、ここにいるのが増強ということだろうか?
「君は?」
「わたくしは、魔王の1人、増強なの」
振り返った少女のおでこには、たしかに二本の角が生えていた。
やっぱり間違いない。魔王の名前だ。
「勇者びの、ここはボクに任せて、逃げて」
「勇者? 貴方が勇者なの?」
増強に問われて、僕は足を止めてしまった。
「うん、僕が勇者だよ」
増強の質問にこたえてしまう。
「ひっく、ひっく、勇者、貴方のせいなの。貴方がいるから、みんなで寄ってたかってわたくしをいじめるの?」
増強は、僕を見て、距離を詰めてくる。
「フリーズ・アイス」
「ひっく、ひっく、邪魔しないでほしいの」
覧が魔法を放った瞬間、増強は、その魔法を避けて、覧の腕につかみかかる。
「くっ」
覧は、すんでのところで避ける。
「ひっく、ひっく、逃がさないの」
増強も負けじと覧の腕を捕まえにかかった。
「ひっく、ひっく、捕まえたの」
増強は、覧の腕を握りしめにやりと口元を歪めた。
「しまった」
「ハンドレッド」
ハンドレッドと増強が言った瞬間、増強の右手は、赤く染めあがる。
まるで、血に染まってしまったような赤さだった。




