びのと覧、祝勝会に出席する
「びの君そろそろ時間だよ」
「うん、分かってるよ」
覧は、青いイブニングドレスにくまさんポシェットの姿で、迎えに来た馬車へと乗る。
「馬車なんて、ボク達、お姫様と王子様みたいだね」
「この前も乗ったじゃないか?」
「だって、この前は、学生服に青衣だったじゃない。今回とは雰囲気が違うよ」
覧は、腰に手を当てて可愛くポーズをとる。
「揺れるし乗り心地も悪いから、どっちも同じな気がする」
「もう、雰囲気壊すようなこと言わないでよ。デリカシーがないな、びの君は」
「ごめん」
この前の遠征とは異なり、あっという間に城につく。
「それでは城内へ」
レッドカーペットの脇には、大勢の貴族とその後ろに一列に並んだ魔術師。
貴族は拍手で僕たちを迎え入れ、魔術師は、花火のようにファイヤーを空に放ち、場を盛り立てる。
「綺麗」
「本当に綺麗だ」
たくさんの魔術師による壮観な演出に僕も呟く。
「びの君、そういう時は、君の方が綺麗だよ……くらいのこと言ってくれないと」
覧は頬を膨らませて、プンプンする。
「いや、僕にそういうこと求められても……」
彼氏・彼女の関係じゃないんだから。
「もう、雰囲気大切にしてよね」
雰囲気ね……
そんなに大切なのだろうか?
「やっぱり、魔法ギルドはすごいですね、すごいですよね、すごいに決まってますよね」
僕が考えていると、どこからか聴こえてきた。
雰囲気ぶち壊しだよ、三段階お姉さん。
プンプン、せっかく感動していたんだから、雰囲気を大切にしてよね。
僕と覧の雰囲気を察した大佐は、王子様がお待ちです、こちらへ……と促した。
…………
……
「今日は、魔王の一人を倒したびのと覧の祝勝会だ。乾杯」
王子様の乾杯の音頭に合わせて、僕と覧は乾杯する。
僕はぶどうジュース、覧はオレンジジュースだ。
「あら? 勇者殿はお酒をお飲みにならないの?」
上から下まで全身金ぴかな衣装をまとっている女性に話しかけられた。
貴族だろうか?
ドレスはもちろん、ブローチやイヤリング、指輪に至るまで、全て金色で統一している。
「僕は、未成年ですからね」
「あら? 勇者殿はお若いのですね? それではカノンを嗜んだこともないのかしら?」
妖艶な笑みをしながら、僕に訊いてきた。
「ええ、カノンを口にしたことはないです」
「一度、試してみてはいかが?」
女性は、口に含んでいたカノンを取り出し、舌なめずりをし、僕の顔に近づけた。
「いりません」
さっきまで、この女性が舐めていたカノンじゃないか。これじゃあ、間接キスだよ……
「あら、残念。断られちゃったわね」
じっと僕の瞳を覗き込む、金ぴか女性。
「それにしても、豪華な食事が山ほどありますね」
僕は、女性から視線をそらし、話題を変える。
「ええ、本当に、たくさんあるわね」
「どれも美味しそうです」
「あら? 勇者様は食べることがお好きなの?」
「まあ、好きですね」
「へぇ、何がお好きなのですか?」
「サンダードラゴンのイフリート焼き……かな?」
こっちに来てから、異世界特有のものは、それくらいしか食べてないしね。
「この町の名物ですわね。確か、今日も出てくると聞いていますわ」
「え? 今日出てくるんですか?」
「ええ。確か、メインディッシュにでるそうですよ」
「あれなら、いくらでも食べられます」
「今度は我が家でもする予定ですの。よろしければ、いかがですか?」
「え? いいんですか?」
ごふっ。
覧の無言のエルボーだ。
「あ、でも、今日食べるから、しばらくは食べなくてもいいかなー」
「そうですか……」
金ぴか女性は残念そうだ。
「ところで、隣にいるのは、フィアンセ?」
「フィアンセだなんて、もう……」
覧は、顔を真っ赤にして、照れている。
違いますよ。フィアンセがどういう意味か分からないけど。
覧が照れてるところから察するに、多分違う。
「残念ね。フィアンセがいなければ、私の女友達を紹介したのに……」
金ぴか女性の視線の先には、肌が白く、華奢で、見目麗しい女性たちがいた。
ん? これは、『覧がフィアンセではない』と言えば、あの女性たちを紹介してもらえるってこと?
「覧は、フィアンセで……」
ごふっ。
覧の無言のエルボー。
「……す。そう、フィアンセなんですよ」
「そうです。ボクが、勇者びののフィアンセです」
目を輝かせる覧。
「そうですか……」
金ぴか女性は、残念そうに顔をそむけた。
ん? フィアンセって、何か悪い言葉なのか?
マフィア的な。
「いやー、すみません、ちょっと、覧と話があるので、失礼しますね」
僕はとりあえず、覧と一緒にその場を離れた。
「なあ、覧、フィアンセってどういう意味?」
「友達って意味だよ?」
「それ、嘘だよね? 金ぴか女性はあんな残念そうな顔しないよね?」
「ばれたか」
やっぱり嘘だったか。
「正直に答えてよ、覧」
「婚約者や許嫁って意味」
「こ……こ……婚約者?」
僕と覧が婚約者!?
顔からすーっと血の気が引いた。
「狼狽しすぎだよ、びの君」
「当たり前じゃないか。僕と覧は兄妹だよ? 婚約者なんて関係じゃない」
「何言ってるの、あ・な・た?」
覧は僕の耳元で囁いた。
「次に言ったら、一生話さないからね」
「ボクを一生離さないなんて、だいたんだね、びの君は。抱き着いて来ていいからね」
覧は、僕の言葉を都合よく解釈し、僕がいつでも抱擁してきていいように、手を広げて待ち構える。
なんで、いいように意味を取るかな?
「そういう意味じゃないから。一生絶交って意味だから!」
「まあ、落ち着いて、びの君」
「落ち着いてなんていられないよ」
「もう、ボクを困らせないでよ、びの君」
「覧が僕をからかってるんでしょっ!!」
「ごめん、ごめん。でも、あの貴族っぽい女、おかしかったでしょ?」
「何が?」
さっきの女性に、どこかおかしいところなんかあっただろうか?
「びの君を勇者だと認識しながら、『魔王を倒しておめでとうございます』を伝えるでもなく、びの君の趣味嗜好ばかりを訊いてきて」
「あ、確かに」
お酒飲むかや、カノンを嗜むか、食べ物は何が好きかとかしか聞かれてない。
「それに、フィアンセが居ないなら、女性を紹介します……だよ? あやしすぎるでしょ」
「言われてみれば」
僕は覧に指摘されるまで、全然気づかなかった。
「絶対、あれは、勇者とコネを作って、利益を生み出そうとしている輩だよ。あわよくば、娘とスキャンダルを起こさせて、無理矢理結婚させるタイプ。気を付けてよ、びの君」
そっか。今や、僕は有名人なのだ。気をつけないと……
スキャンダルとか。
「びの様、覧様」
大臣が僕達を呼びに来た。
「どうしたの? 大臣?」
「王子様が報奨金を渡したいとのことです」
うっ、いくらくれるのか分からないけど、400ゴールド越えると、バッグが肩に食い込むくらい重いんだよな……
「あとで、家に届けてくれればいいのに」
「そういうわけにはいきません。王子様は、貴族たちみんなの前で、報奨金を渡したという事実が欲しいのですから」
「えっと……」
それって、どういうこと?
「王子様としては、貴族という証人達の前で、勇者に対し、報奨金を確かに払ったというパフォーマンスがしたいのさ。びの君」
うわー、面倒くさい。
王子様も貴族も面倒くさい。
面倒くさいので、日記風に書くと、こうだ。
『僕達は、王子様の前で、1000ゴールドを賜りました』
『とっても、嬉しかったです』
以上、ダイジェスト。
王子様の前で、こけてしまったとか、一言お願いします……って言われて、がちがちに緊張したとかなかったから。
本当だから……って、僕は誰に言い訳してるんだろう?
食事会と褒章式がすむと、最後に舞踏会だ。
バイオリンや、ビオラに似た楽器が演奏され、美しい音楽が城内に響き渡る。
その瞬間、場内がざわめきたつ。
「うわ……始まるよ、王子様の死の踊りが……」「激しい踊りを延々と踊らされるから、一緒に踊った人は、死にそうになるという……」「王子様と死の踊りをするなんて、本当、勇者だよな」
え? そんなに酷いの?
できる限り、王子様に近づかないでおこう……
「今日は、誰が勇者になるんだ?」「今日は、本物の勇者様がいらっしゃるんだから大丈夫だろ」「確かに」「今日の犠牲者は勇者様で決まりだな」
いや、僕はそんな勇気はないですけど……
「おい、どうした、みんな、踊っていいんだぞ? 踊らないなら、俺が踊ろうか?」
やる気を出して踊ろうとする王子様。
そんなにやる気を出さなくていいから、王子様。
僕は、まだ死にたくない……
そうだ、王子様と踊らなければいいんだ。
隣には覧もいるし。
「覧」
音楽が響く城内で、僕は、意を決して、覧に大きな声で話しかける。
「はい」
急に手を取られた覧は神妙な面持ちだ。
「一緒に……」
僕は言葉をつむぎながら、そっと覧の手を取った。
「一緒に、このパーティーを抜け出そう、覧」
僕は、覧を連れ出し、走り出す。
「え? そこは、一緒に踊ってくれるんじゃないの?」
「何か言ったか、覧? 音楽が大きな音で聞こえなかったんだけど」
「何でもない……ま、これも駆け落ちみたいで、そそる展開か……」
その時、大臣が、王子様に耳打ちをする。
「何? キデギス総司令が目を覚ましただと?」
大声で叫ぶ王子様。
「王子様、そんなに大きな声で叫びますと……」
会場内がざわつき始めた。
せっかく大臣が耳打ちしたのに、台無しだ。
「キデギス? 誰だっけ?」
どこかで聞いた名前だ。




