びのVS偽物
「勝利条件を確認しておくよ、びの君。偽物を倒せたら……ってことは、引き分けでもボク達の負けだからね? あくまで、偽物を倒すんだ」
「わかってるよ、覧」
「大切なのは、本物を信じる心だね」
「本物を信じる心」
「ボクはびの君を信じているよ」
「僕だって、覧を信じてる」
「じゃあ、この勝負、やるまでもなく、ボク達の勝ちだ」
だんだんと霧が濃くなり、視界ゼロのホワイトアウトになった。
数十秒後、霧がだんだんと薄まっていった。
霧が薄まると、目の前には、びの君が二人いた。
え? 二人?
「「え? 僕?」」
「「いや、君は、僕の偽物じゃないか。僕が本物のびのだ」」
二人のびの君は、お互いの指を指し、同じタイミングで言っていた。
「びの君が二人……つまり、どちらかのびの君が偽物ってこと?」
ボクは状況を確認するために声を発する。
「「覧、あっちが偽物だよ」」
行動も、声も同じことをするびの君ズ。
「どっちも、同じびの君だよ」
「「僕が本物なんだ、信じてよ」」
そうだ、ステータスで確認できるかも……
「ステータスチェック」
旅乃 びの(たびの びの)LV1 身長:172cm 体重:59kg
HP:1
MP:1
天職:特になし
筋力:1
体力:1
耐性:1
敏捷:1
魔力:1
魔耐:1
運 :-1
技能等:言語理解【日常会話・超簡単な読み】レア度:なし
折り紙付き折り レア度:なし
どちらのステータスも同じか……
「分かった。じゃあ、ボクから見て、右のびの君。質問をするから、答えてね」
もしかしたら、偽物のびの君は、ボクの質問に答えられないかもしれない。
「ああ、いいよ」
「ボクの身長は?」
「129センチ」
「びの君は、この世界に来て女装してるけど、どんな女装をした?」
「セクシードレス姿」
当たりだ。
「それじゃあ、左のびの君に質問」
「ボクの嫌いな動物は?」
「猫」
「ボクの好きな花は?」
「桜」
「うーん、どちらのびの君も正解だね」
「「何か、他にないの、覧?」」
「じゃあ、本物のびの君なら、ボクがせーのって言ったら、『覧、世界一愛してるよ』って言えるよね? いくよ? せーの……」
「「覧、世界一……って、言えないよ」」
ちっ……これも同じ反応か……
「「……覧、今、舌打ちしたでしょ?」」
「やだなー、そんなことするはずないじゃない?」
ここまで同じだと、もはや、どっちも本物なんじゃないかとさえ思う。
何か、何かないのか?
そうだ。
「折り紙折れる?」
リュックから、折り紙を取り出すびの君ズ。
「「今から、折り鶴を折るから……って、マネするな!!」」
言いながら、びの君ズは、さっささっさと鶴を折っていった。
「「この速さ。ほら、僕が本物だ」」
二人同時に鶴を折り上げた。
「「僕の方が、はやかった!!」」
「「いや、僕の方だ!!」」
持っているものも同じで、技能も同じ。記憶も共有しているのだろう……
何か、何かないのか?
本物を見分ける方法が……
考えてるだけで、時間ばかりが過ぎてしまう。
あと、40分くらいだろうか?
至近距離でお互いを睨みつけあうびの君ズ。
このまま、ボーイズラブのような展開にならないだろうか……
いや、ボクは、何を考えてるんだ……
二人が近すぎるから、邪な考えが浮かぶのだ。
「とりあえず、二人は距離を取ろうか」
「「覧が言うなら、そうするよ」」
びの君ズは、お互いを見つめあいながら、後ずさりをし、5メートルほどの距離を取った。
さて、ここからどうするか……
「「分かったぞ! 偽物は、HPが高いはずだ!!」」
空気銃を取り出すびの君ズ。
ん? ちょっと、待って、びの君。
「さっきチェックしたら、どっちも1だったよ」
ボクは咄嗟に二人の間に割って入った。
バキューン バキューン
バキューン バキューン
バキューン バキューン
バキューン バキューン
バキューン バキューン
二人で同時に空気銃を撃ち合い始めた。
「いたっ」
「「覧!!」」
5発×2人分の弾丸を受け止めたってことは、10ダメージか……
「「覧、大丈夫?」」
「なんとか……」
実際は、腕を撃たれ、しびれて、動かせない……
「「君が撃つからいけないんだぞ」」
「「なんだと……」」
びの君ズは、お互いを責めあっている。
「びの君のHPは1なんだよ? 1発でも当たったら、本物のびの君は、死んじゃうんだ。とにかく、けんかはやめて。」
「「はい」」
シュンとうなだれるびの君ズ。
どうする?
あと30分ほど。
「……って、なんで、二人とも、弾をつめなおしてるの?」
「「ほら、僕、何もすることないみたいだし、本物の近況が現れた時に、必要かな……って」」
その近況が、びの君の姿でここにいるんでしょうが……
ボケが二人もいると、本当に調子が狂う。
それにしても、どうする?
どうすればいい?
時間だけが過ぎていく……
あと、15分くらい。
膠着状態が続き、死の宣告が迫ってくる。
「「このままだと、時間がなくなって、全員近況に殺されちゃう。引き分けでも僕達の負けなんだ。僕の命に代えてでも、せめて覧だけは守らなくちゃ」」
お互いに近づき、銃を構えるびの君ズ。
「だから、やめてって言ってるでしょ!!」
大声を出すと、ボクの声に驚いた二人のびの君は転び、銃はびの君ズの手から離れ、放物線を描き、落ちた。
バキューン。
地面に落ちた瞬間、銃が暴発してしまったようだ。
「うわっ」
右側のびの君のうめき声。
びの君!
……と思った時、ボクの右側に居たびの君が虚空へと姿を消した。
右側のびの君が偽物だったってことか……
「やった。偽物が消えた」
良かった。これで、ボク達の勝ちだ。
「覧、やったよ」
びの君は、落として暴発してしまった銃を拾う。
「うん、やったよ、びの君。ボク達の勝ちだ」
あと3分ほどで、近況が言っていた1時間だ。
「それは違うよ」
「え? 違うってどういうこと、びの君?」
銃を拾ったびの君は、ボクに銃口を向けてきた。
「僕の勝利だ」
「え? ちょっと、待ってよ、びの君。なんでボクに銃を向けるの?」
「そろそろタイムアップだからね」
「冗談……だよね?」
「確か、君のHPは残り2だったよね? さよなら」
バキューン。
バキューン。
「なん……で?」
その言葉を最後に、ボクは意識を失った。




